第十一章 「巴図魯としての人生設計」
挿絵の画像を作成する際には「AIイラストくん」と「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
フィンランドの公爵令嬢であるフレイアちゃんを介した欧州貴族社会への根回しの話は、他ならぬフレイアちゃんと葵ちゃんの逢瀬が原因でまた後日に持ち越しと相成ったの。
もっとも、私も英里奈ちゃんも大して気にはしてなかったけどね。
だってフレイアちゃんともそう遠からず同じシフトに入る訳だから、その時にまた打診したら良いだけの話だもの。
「あの二人の事だから、また今回のような事があるかも知れないなぁ。この際だから、かおるちゃんへの根回しを先にやっておくのも手かも知れないね。そうすれば関西の士族コミュニティも支持基盤に出来るから。」
「然りですね、千里さん。何しろかおるさんは、義を重んじる武士道精神の体現者で御座いますから。『主君の為に忠義を示すのは武人の本懐。千里さん、貴女は素晴らしい主君を得る事が出来ましたね。』と我が事のように喜ばれておりました。」
家路を辿る道すがらで私と英里奈ちゃんが次なる根回しの協力者として白羽の矢を立てたのは、千鳥神籬という業物を個人兵装に選んだ剣客である淡路かおる少佐だったの。
かおるちゃんの御実家は淡路一刀流を伝える剣術指南所で帯刀を許された由緒正しい士族だから、その士族の人脈を支持基盤に取り込めたら心強い事この上ないんだよ。
まあ、私と英里奈ちゃんの共通の親友である枚方京花少佐は淡路かおる少佐とも懇意の仲だから、万事上手く行くだろうな。
日本刀とレーザーブレードという違いはあるにせよ、かおるちゃんと京花ちゃんには剣士という共通事項がある訳だからね。
高一の時にはクラスも同じだったから、西洋式サーベルを個人兵装に選んだ手苅丘美鷺ちゃんも交えた三人で「御子柴一B三剣聖」を名乗っていた位だもの。
唐の詩人である杜甫は「前出塞」の中で「将を射んと欲すればまず馬を射よ」って言っていたけど、交渉事があるなら交渉相手の周囲にも気配りするのが大切だよね。
そんな具合に今後の方針がしっかり定まった訳だけど、そうなったら自ずと気になってくるのは例の二人の会話なんだよね。
「あの、千里さん…葵さんとフレイアさんのお話なのですが…」
「やっぱり意識しちゃうよね、英里奈ちゃん。私も御多分に漏れず、そうなんだ。」
キュッと眉根を寄せて白い細面に複雑そうな表情を浮かべる英里奈ちゃんに、私は軽く頭を掻きながら苦笑するしかなかったよ。
「あの御二人があそこまで真剣に御自分達の将来を定めていらっしゃるとは…改めて驚かされた次第です。勿論、御二人の仲は私も応援させて頂く所存ではありますが…」
「右に同じだよ、英里奈ちゃん。配属以来の友達だもの。挙式の暁には御祝儀もたんまり包んであげちゃうんだから。少し前までの私だったらスピーチは他の子にお任せしていたろうけど、巴図魯になった今なら話は別だね。市民講演会やインタビューの場数を踏んだ今の私だったら、スピーチ位はどんと来いだよ!」
単なる一介の公安職だった時は、口が裂けてもこうは言えなかったろうな。
変われば変わるもんだよ、我ながら。
「でもさ、英里奈ちゃん。私もあの二人を見ていたら、色々と考えちゃう訳だよ。将来の事とか人生設計とか、色々とね…」
「それはキャリアや御結婚の事で御座いますか、千里さん…」
英里奈ちゃんの声色から察するに、私も相当にシリアスな口調と表情になっているんだろうな。
「フレイアちゃんと葵ちゃんみたいに、まだ相手が確定している訳じゃないけどね。準貴族である巴図魯としての格式を活かせば、中華王朝の要人の令息との政略結婚という道だって開ける訳でしょ。そうすれば私は中華王朝での発言力や影響力を強化する事が出来るし、日本と中華王朝を中心とする東アジアの高度な安全保障体制の確立にも携われるはずだよ。その相手が私人としての人間性も高潔な真人間の好人物なら、もう言う事無しだね。」
英里奈ちゃんにはこう言ったけど、全く目星をつけていない訳でもないんだよ。
中華王朝の王室メンバーの中でも若手実力者と名高い和碩親王の愛新覚羅永祥殿下なら、私より少し年上なだけで世代もそんなに離れてないからね。
それにニュース等で拝見した公務中の御様子だと、人当たりも良くて知的で穏やかで好印象だし。
実際の人となりは未知数な所も大きいけど、和碩親王殿下となら良き家庭も作れそうな気がするんだよね。
それで女の子でも首尾良く産まれたなら、禁衛軍か人類防衛機構に入隊させて私の後継者に育成したいものだよ。
だけど和碩親王は中華王朝の中でも高位の爵位だから、きっと引く手数多なんだろうな。
準貴族の私じゃ、余程の事がない限りは望外な高嶺の花だろうね。
それこそ、和碩親王殿下のボディガードなり側近なりにでも抜擢されない限りは。
「そんな具合に良い縁談をセッティングして貰う為にも、人類防衛機構と中華王朝にはこれからも貢献していきたい所だよ。」
「成る程…それもまた千里さんの目標の一つなのですね。」
そんな具合に将来の事についてあれこれ考えていたら、あっという間に実家へ着いちゃったんだもの。
それだけ私にとっては、この一件は興味深い関心事だったんだろうな。




