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第十二章 「軍歌が促した新たな決意」

 公安職の公務員に中華王朝の貴人、そしてオマケに高校生。

 二足どころか三足の草鞋を履いている訳だから相応に忙しいけど、私は特命遊撃士にも巴図魯にも誇りと愛着を感じているから、全く苦にはならないんだ。

 それに有給休暇には同期の友達と遊んでいるし、シフトの空き時間や公務の移動中なんかにはタブレットのゲームアプリや電子書籍の漫画とかできちんと気分転換しているからね。

 休める時はシッカリ休んで次に備え、最高のパフォーマンスを発揮する。

 軍務で培ったこの考えは、巴図魯としての公務にもそのまま応用出来たね。


 そうしてインタビューの事も日々の忙しさで風化しつつあった、ある五月の日の事だったんだ。

「凄いじゃない、千里ちゃん!いや、ここは巴図魯殿と呼ぶのが正確かな?」

「おいおい、お京…そう藪から棒に言っちゃ仕方ないだろ。見ろ…ちさが呆気に取られているじゃないか。」

 至って快活でノリの良い枚方京花少佐と、冷静沈着なクールビューティーの和歌浦マリナ少佐。

 夜勤シフト明けの私達と入れ替わる形で登庁してきた同期の友達二人組は普段と変わらないテンションだったけど、何処かソワソワしていたんだよね。

「やあ、京花ちゃんにマリナちゃん。これから英里奈ちゃんと夜勤明けの朝食なんだけど、良かったら御一緒しない?」

「今は朝ご飯どころじゃないってのに、当事者様は余裕綽々だなぁ…さっきエントランスで広報を貰ったんだけど、見事までに『今月号の主役』って風格だよ!」

そうして青いサイドテールを揺らしながら京花ちゃんがグイッと突き出したのは、広報誌「つつじ通信」の最新号だったの。

「ええっ…?インタビュー記事の扉部分だとばかり思っていたけど、まさか表紙とは驚いたなぁ…」

広報誌を受け取った次の瞬間、私は思わず頭を掻いちゃったんだ。

だって「つつじ通信」の表紙には、清代風の化粧を施された白い顔で微笑を浮かべる満洲服姿の自分が大写しになっていたんだもの。

面映いような誇らしいような、何とも複雑な心境だよ。

「へえ、こんな風に仕上がっているとはね…」

その複雑な心境を棚上げする為にページを繰っていった私は、徐々にインタビュー当日の事を思い出していったの。

要点を押さえつつも分かりやすくて読みやすい表現に置き換えられているから、今後のスピーチ用の資料としても手頃だよね。

「あっ、そっか!へえ…」

そして軍歌の歌詞カード部分に差し掛かった瞬間、私は思わず口を半開きにして見入ってしまったんだ。


軍歌「吹田少佐」


日中二国に影落とす

紅露の賊を如何にせん

虎穴に入らねば虎児を得ず

敵陣深くに踊り込め


紅露が狙いし次期天子

これを逆手に練る策は

紀信の如き影武者を

仕立て彼奴らに掴ませよ


かの大任を果たせるは

吹田少佐の他になし

正義と武勇を示すため

獅子身中の虫となる


生きては帰れぬ決死行

大佐の両目に涙あり

されど少佐は微笑して

これぞ武人の本懐ぞ


吹田は王女の影となり

賊の手中に囚われん

縄目の恥は恥ならず

今は雌伏の一時ぞ


我が双肩にかかるのは

東亜の未来と次期天子

紅露の賊討つ原力は

防人乙女の心技体


孤立無援の四面楚歌

されど吹田に揺るぎなし

屍の山を築き上げ

護国と忠武の基礎とせん


吹田は遂に友軍と

戦火の渦中で再会す

待ちかねたりと愛銃を

構える両手に歓喜あり


奸智に長ける賊軍を

力合わせて滅ぼさん

正義の官軍此処にあり

武人の本懐此処にあり


戦雲此処に治まりて

見よ新たなる暁を

東亜の天下を恒久に

照らす栄華の暁ぞ


忠武を示し凱旋す

吹田は日本の軍神ぞ

中華の国でも認められ

勇者の官位を下賜される


日中二国に橋渡し

永く天下を励ましむ

壮烈無比の巴図魯は

吹田少佐の他になし


 七五調の韻律は「日本陸軍」や「抜刀隊」のような明治期の軍歌を彷彿とさせる伝統的な趣があり、自ずと背筋が伸びてしまうね。

 古風な文語調も故事や四字熟語を多用した歌詞構成も、歴史に裏打ちされた重厚さが感じられるよ。

 それでいて歌の内容は「EMプロジェクト」における影武者作戦の一部始終と巴図魯の叙任という栄達なのだから、この軍歌のタイトルである「吹田少佐」が私だという事は一目瞭然だね。

「そう言えば園里香上級大佐にも…京花さんの曾御祖母様にも軍歌が御座いますね。確か、当時の大日本帝国陸軍女子特務戦隊の肝煎りで作詞作曲されたとか…」

「そうだよ、英里奈ちゃん。『我が妻は護国の乙女』って歌がね。でもそれはあくまで死後の顕彰だからね。それを考えると、生きている間に自分が題材になった軍歌を作って貰えた千里ちゃんは果報者だよ。今この瞬間に千里ちゃんの軍功は歴史の一頁となり、この先の一挙手一投足が新たな歴史になっていくんだ。」

 同期の友達二人の会話に、私は自ずと襟を正していたんだ。

 今こうして生きている私が、生身のままで歴史上の存在となっている。

 その責任の重さと、それに勝る誇らしさを否応無しに自覚したんだ。

 この軍歌に相応しい立派な公人となるべく、今後とも頑張らなくちゃね。

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― 新着の感想 ―
完結までお疲れさまでした。 まさか軍歌まで作られるとは!! でもその功績を考えたら作られてもおかしくないですね。 プレッシャーがさらにかかるかもですが千里少佐には頑張ってほしいですね。
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