第十章 「根回しの打診を延期させた愛の力」
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
無事にインタビューをこなした私は、また元通りの生活に戻っていったの。
要するに少佐階級の特命遊撃士として軍務をこなしつつ、中華王朝の巴図魯として講演会や表敬訪問といった公務に勤しみ、その合間に高校へ顔を出すという三重生活だね。
お蔭様で、今では遊撃服と同じ位に満洲服も肌に馴染んできたよ。
この「合間に顔を出す」という表現で分かると思うけど、私の三重生活の中で県立御子柴高校でのスクールライフはあんまり優先順位が高くないんだよね。
何しろ日本人の巴図魯は私しかいない訳だし、支局での軍務にしても私じゃないと務まらない専門性の高い内容の物がある訳だし。
とはいえ人間ってのは誰かに必要とされているうちが花だと聞くし、「私だからこそ出来る事」っていう代替不可能な唯一無二性は誇らしいからね。
とは言え市井を生きる一般生徒と同じ学び舎で勉学に励むというのは、日本の公安職としても中華王朝の準貴族としても大切な事だから、機会がある限りは受講出来るように努めているよ。
そしてこれは、そんなある登校日の放課後に起きた事だったの。
帰り支度を済ませて家路に向かおうとした私の脳裏に、ある発想が閃いたんだ。
「あっ、そうだ!ねえ、英里奈ちゃん?英里奈ちゃんの御実家が取り持ってくれたお陰で日本の華族社会ともコネが出来た私だけど、やっぱりフレイアちゃんにも声掛けしといた方が良いのかな。」
この「フレイアちゃん」というのは私と同じ元化二十五年度末に佐官へ昇格したフレイア・ブリュンヒルデ少佐の事で、私にとっても英里奈ちゃんにとっても大切な友達なんだ。
いかにも北欧の貴族令嬢というべき金髪碧眼の容姿に御子柴高の制服である赤いブレザーを纏い、個人兵装であるエネルギーランサーを縦横無尽に操る見事な戦いぶりは、正しく北欧神話の戦乙女であるワルキューレそのものなの。
こないだ友ヶ島要塞で行われた新米佐官向け合宿研修では、フレイアちゃん達と楽しい時間を過ごせたなぁ…
「それは良い御考えで御座いますね、千里さん。フレイアさんの御実家はフィンランドでも有数の名家であるブリュンヒルデ公爵家で御座いますから、北欧貴族界はおろか欧州の上流社会にも支持基盤を拡大するチャンスとなるでしょう。」
今じゃすっかり「後援の三傑」の筆頭にしてブレーンである「今仲父」の役割が板についた英里奈ちゃんも、両手を挙げて私の意見に賛成してくれたよ。
そもそも英里奈ちゃんも、フレイアちゃんには相応の親近感を抱いているからね。
何しろ英里奈ちゃんも伯爵家生まれの華族令嬢な訳だから、洋の東西は異なれど上流社会の人間同士という事で赤の他人とは思えないんだろうな。
この日はフレイアちゃんも私達同様に登校日だから、わざわざ軍用スマホのSNSで呼び出さなくても直接会えば大丈夫だろう。
それに昇降口へと向かう同級生達の中に金髪碧眼の目立つ容姿は混ざっていなかったから、そのまま教室へ回れ右をしたら良い。
そんな具合に気楽に考えていたんだ。
結果から言うと、私と英里奈ちゃんの目論見は半分成功して半分失敗しちゃったの。
放課後の教室にフレイアちゃんは確かにいたんだけど、欧州貴族社会への根回しの打診はお預けになっちゃったんだ。
それというのも、フレイアちゃんには先約が入っていたんだよね。
「ああっ、葵さん…葵さんったら私の為でしたら、放課後の教室でも応じて下さいますのね。」
耽美な口調と官能的な吐息が漏れ聞こえてくるから、何となく予想はしていたけど。
事もあろうにフレイアちゃんったら、放課後の教室で想い人との逢瀬をやっているんだもの。
「このフレイア・ブリュンヒルデ、葵さんの愛を一身に受ける事が出来て感慨無量で御座いますわ。」
そう切なそうに漏らしながら、北欧の貴族令嬢はピンク色のストレートヘアーを腰まで伸ばした少女の背中へ愛しげに手をやるのだった。
「勿論だよ、フレイアちゃん。何しろ私にとってフレイアちゃんは、将来を誓った相手だもの。」
そうして抱き寄せられながらフレイアちゃんに甘く囁いている彼女こそ、私や英里奈ちゃんの同僚にしてフレイアちゃんの想い人でもある神楽岡葵少佐なんだ。
女所帯である人類防衛機構なら往々にしてよくある事なんだけど、葵ちゃんとフレイアちゃんの二人は友情よりも更に深い愛の絆で結ばれているんだよね。
「本当に葵さんには何と申して良いのやら…兄のいる私とは違い葵さんは一人っ子でいらっしゃるのに、葵さんから『一緒になろう』と仰って下さるなんて。」
「私の実家の事で負い目を感じているなら取越苦労だよ、フレイアちゃん。私の両親も『そんな名家のお嬢様となら、うちの子もきっと幸せになれるでしょう。』って言っていたじゃない。それにフレイアちゃんさえ良ければ、私が国籍をフィンランドに変えてフレイアちゃんと結婚した後に日本での永住権を取得するって手もある訳だからね。」
こんな具合に同性婚で身を固めるという将来的な算段までしちゃっているんだから、本当に二人ともしっかりしているよ。
「な…何とも込み入った現場に立ち会ってしまいましたね、千里さん…」
「然りだね、英里奈ちゃん。互いの腰や肩に手を回している状況で、根回しも何もあったもんじゃないよ。」
そうして互いに顔を見合わせ、そそくさと退散するしかなかったよ。




