第九章 「忠孝と仁義を体現する者として」
そうしてソファーに並んで座り、インタビューは二人体制に移行したんだ。
「吹田千里少佐に麗蘭第一王女殿下の影武者としての密命が与えられたように、私共三名にも愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の護衛の任務が与えられました。遊撃服を御召し頂いて吹田千里少佐に偽装して頂いた王女殿下を紫禁城まで無事に御届けした後、私共はその足で紅露共栄軍掃討の増援部隊と合流したのです。」
「本来ならば王女殿下を紫禁城まで護衛した所で、EMプロジェクトにおける生駒英里奈少佐達の任務は満了していたのです。しかし三人は任務明けの特別休暇を辞退してまで増援部隊への参加を志願した…それは単に、『自分達の手で直接装備品を届けたかったから』という厚い友情のなせる業だったのです。」
この時の事を思い出すと、未だに胸が熱くなるね。
英里奈ちゃん達には足を向けては寝られないよ。
「そうして私は、レーザーライフルを始めとする正規の装備品は勿論の事、生駒英里奈少佐を始めとする同期の戦友達との連携戦法もまた取り戻す事が出来たのです。これが当時の私にとってどれ程心強かったか、そして背中を預けられる戦友達と再び一緒に戦える事がどれ程喜ばしいか。それは想像に難くないでしょう。」
「私共三人も、その思いは同じで御座いました。『コイツを使って敵を撃っていると、ちさと一緒に戦っているように感じられたよ。』。これは私共の共通の友人である和歌浦マリナ少佐が、吹田千里少佐にレーザーライフルを手渡された時の一言で御座います。たとえ離れていても思いは一つであり、揃えば阿吽の呼吸で互いを信じて戦える。私共四人、謂わば『刎頸の友』と呼べる間柄で御座います。」
合流直後のマリナちゃんの一言とか「刎頸の友」の故事成語とか、本当に良い事を言うよね。
こうして英里奈ちゃんにもインタビューに飛び入り参加して貰ったのは、やっぱり正解だったよ。
「御二人の御言葉から、同期生同士の友情の厚さが伝わって参りますね。それでは吹田千里少佐。枚方京花少佐に和歌浦マリナ少佐、そして生駒英里奈少佐といった方々との信頼関係は、任務を遂行する上でどのように役立ちましたか?」
「まずは連携戦法の取りやすさですね。特命遊撃士である私達は各々の個人兵装を自身の身体の延長のように駆使出来ますが、私達みたいに肝胆相照らす程に気心の知れ合った間柄ですと『この局面なら、誰とどう連携して何れの武装や技を運用するのが効率的か。』という事もまた自然と把握出来るのです。それに戦闘中に交わす会話の遣り取りによる精神的な効果も無視出来ませんね。和歌浦マリナ少佐のリーダーシップに裏打ちされた叱咤に枚方京花少佐の快活な軽口、そして生駒英里奈少佐の優しさ。これらが私の励みになった事は言うまでもありません。」
互いの力量を信頼した連携戦法に、平時と同様の会話の応酬。
どれもこれも、普段の作戦行動中に何気なく行っている事だからね。
それを改まって説明するなると、何とも不思議な感じがしちゃうよ。
親や家族からの薫陶や影響に、同期の友人達との間で育まれた絆。
これらの質問の背景に親子の「孝」や友人間の「仁義」といった伝統的な美徳があるのは一目瞭然だね。
そうなってくると、次に来る質問の趣旨にも大体の予測が付けられたんだよ。
「堅固に結ばれた確かな絆が、互いの力をより引き出していく。吹田千里少佐とその御友人の関係性を拝見しておりますと、そうした「仁義」に基づく信頼関係の大切さを再認識させられますね。そうしてEMプロジェクトを成功に導かれた事で、吹田千里少佐は中華王朝から『巴図魯』という栄誉ある称号を授与されました。この称号は、吹田千里少佐にとってどのような意味を持ちますか?」
「春秋時代の晋国の烈士である予譲は『士は己を知る者の為に死す』という言葉を残しています。自分の真価を認めて待遇して下さる方の御為なら、生命を投げ打っても惜しくはない。それが忠義ある者の心構えと考えます。EMプロジェクトにおける影武者としての功績を御評価頂けて武勇と忠節を重んじる中華王朝の貴人に任じられた事、並びに愛新覚羅麗蘭第一王女殿下という忠義を尽くせる主君を得られた事は、武人として最上級の幸福で御座います。」
そう、要するに「忠」だね。
今の私は巴図魯の官位を持つ中華王朝の臣下でもあるのだから、中華王朝への思いや巴図魯としての矜持といった忠義に直結する質問が来るのは当然だよ。
だからこそ私も、司馬遷が記した「史記」の「刺客列伝」から予譲の言葉を借りたって訳。
「司馬遷の『史記』には忠義に生命を燃やした忠士の伝承が記されていますが、そうした忠士の生き様が吹田千里少佐の理想となっているのですね。それでは最後の質問となりますが、日本と中華王朝の『橋渡し』となる存在として今後の抱負をお聞かせください。」
「私は日本の堺県堺市で生まれ育ち、この度こうして中華王朝より「巴図魯」という歴史と伝統に裏打ちされた名誉ある称号を拝命いたしました。私が常日頃より『二つの祖国』と申しているのには、このような背景が御座います。将来における中華王朝四代女王陛下に初めて任官された日本人の臣下として、そして誇り高き大日本帝国陸軍女子特務戦隊の志を継ぐ人類防衛機構の特命遊撃士として、今後とも日本と中華王朝の友好と繁栄に及ばず乍ら尽力させて頂く所存で御座います。」
こうしてインタビュアーとカメラに向かって拱手礼を示して、此度のインタビューはお開きとなったんだ。
ちょっと難しい質問も幾つかあったけど、これも良い経験になったよ。
今回の取材を、今後のスピーチやインタビューにも活かしていかなくちゃね。




