第七章 「吹田千里少佐、武人としての誇り」
EMプロジェクトの要となる影武者に指名された時のリアルな感情は、概ね伝わったと思う。
だけど今回のインタビューが後に残る物である以上は、油断なんて許されない。
むしろこれからが肝心となってくるんだよね。
だから私は一呼吸置き、次の質問を待ち構えたの。
そして予想通り、さらに突っ込んだ質問が待ち受けていたんだ。
「有り難う御座います。吹田千里少佐の武人としての心意気と、公人としての責任感。そうした価値観が今の御言葉には含まれていますね。そして拝命された時の『護国の英霊』という言葉が示すように、御自身の命を捧げる覚悟を御持ちだと御聞きしました。その信念はどこからくるのでしょうか?」
「これは偏に、公共の福祉に貢献する公僕としての使命感で御座います。私達は人類防衛機構に所属する軍人であり、また公安職の公務員でもあるのです。生あるうちは地域社会と銃後の人々を護る盾となり、死しては護国の英霊として睨みを利かせる。この確固たる信念は、人類防衛機構の前身となった大日本帝国陸軍女子特務戦隊から脈々と受け継がれてきた尊き誇りであり、また次世代の後進達に伝えていくべき物であるとも考えております。」
もっとも、これは人類防衛機構だけに限った事じゃなくて自衛隊や警察にも当てはまる基本的な事なんだけどね。
しかしながら、基本をキッチリ押さえていないとどうにもならないよ。
昔から「初心忘れるべからず」って言うじゃない。
「それでは武人としての側面についてより詳しく聞かせて頂きたく存じます。此度のEMプロジェクトは、複数の組織による共同作戦で御座いました。京洛牙城衆や崑崙仙軍、そして中華王朝政府軍の方々と共闘した経験は御自身の軍人としての価値観にどのような影響を与えましたか?」
「出自も来歴も所属も異なる複数の組織が、紅露共栄軍の掃討という大目的の為に力を合わせる。この多国籍連合軍の在り方は、身近な範囲では管轄地域における警察や消防との連携にも通じ、また国際社会に目を向ければ国家間の連携にも通じる物が御座います。此度のEMプロジェクトにおける共同戦線を経て、相互理解に基づく緊密な協力体制とグローバルな視点の重要性を改めて実感した次第です。」
普段は堺県第二支局や人類防衛機構という枠組みで戦う事の多い私達だけど、異なる組織との連携からは様々な事が学べて刺激的なんだよね。
それはまた国家間の国際交流についても言える事であり、自他の尊重を踏まえた相互理解がもたらすイノベーションの凄さは決して侮れないよ。
「道教の秘術を駆使される崑崙仙軍の葛葉舒さんと、優れた霊能力者である京洛牙城衆の深草伊奈利さん。特にこの御二人の御力添えは、友軍と合流する前の小職としては実に心強い物でした。各々の長所を活かして組み合わせ、より良い結果に繋げる。御二人との連携で、より効率的な戦果を上げる事が出来ました。」
「吹田千里少佐にとって、複数の組織との連携は実り豊かな良い学びの機会と成ったようですね。それでは吹田千里少佐、作戦中に敵兵から『餓鬼亡者』や『ハイエナ』といった罵倒を浴びせられたそうですね。それについてどう思われますか?」
これはなかなかに踏み込んだ、答え甲斐のある質問だよね。
ざっくばらんに言いたい事を吐き出したら危な過ぎてコンプライアンス的に引っ掛かっちゃいそうだし、そうかと言ってオブラートにヤンワリ包み過ぎたら何を言っているか伝わらなくて軍歌としての取材にならないし。
キチンと意図は伝えて、それでいてあんまり過激にはならないように。
このギリギリのラインを目指さなくちゃね。
多少の事なら作詞家さんやライターさんが上手い具合に取捨選択したり盛ったりしてくれるだろうから、それを信じてやってみようか。
「正直に申しますと、それ以上に苛烈な罵声を浴びせられましたよ。例えば『ハイエナの偽王女』に『赤目の雌ジャッカル』等…人様にお聞かせするのも躊躇われるような罵詈雑言も普通に浴びせられました。」
「おお、それは何とも物凄い物が御座いますね…」
案の定と言うべきか、ちょっと引かれちゃったね。
これでも可能な限りはオブラートに包んて、人様にお出し出来るレベルに抑えているつもりなんだけどなぁ。
流石の私だって、いくら何でも「死体漁りのハイエナ」なんて生々し過ぎて言えないもん。
まあ、その辺りは誤解の無いように伝えないとね。
「そもそも王女殿下の影武者として故意に賊軍の虜囚となる以上、こうした罵声を浴びせられるのは想定の範囲内でした。何しろ丸腰で潜入しているのですから、武器弾薬は倒した敵兵から奪うより他は御座いません。たとえ孤立無援の四面楚歌の状況であろうとも戦い抜き、たとえ敵兵の屍で山を築き上げてでも活路を見い出す。そうして護国と忠武の大義を成し、防人乙女としての使命を果たす。当時の私にありましたのは、そうした覚悟で御座います。」
「成る程…吹田千里少佐の経験された戦場の壮絶さが、ありありと眼前に浮かぶようで御座いますね。」
チラッと視線を動かしてみれば、臨時秘書の咲洲舞中尉が小さく微笑を浮かべながら頷いてくれたんだ。
どうやら私の回答は及第点だったみたい。
「それにこうした憎悪の込められた罵声は、裏を返せばそれだけ敵兵が私を恐れている証であり、獅子身中の虫としての役割を見事に果たせているという自信にも繋がりました。」
「成る程…孤軍奮闘を余儀なくされた敵陣においても決して動じぬ冷静沈着な胆力、それもまた勝利の鍵の一つで御座いますね。」
ここで気を良くして頬を緩ませた所を、写真に収められちゃったんだ。
ちょっと照れ臭いけれど、自然な笑顔だったらしいから悪い気はしなかったね。




