第六章 「私に出来る事、私にしか出来ない事」
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
そうして迎えたインタビュー当日。
応接室のソファーへ静かに腰を下ろした私は、まずは広報誌の表紙用に写真を撮影されたんだ。
礼服用に誂えた緑色の満洲服を着込んでいる所までは普段の公務と変わらないけど、今回は写真用に普段以上に入念な化粧を施されているからね。
「ほう、これはこれは…」
すぐさま臨時秘書の咲洲舞中尉と一緒に画像データを確認したけど、もう凄かったよ。
まるで本物の満洲族の貴族令嬢みたいに仕上がっていたんだから。
きっと市役所へ打ち合わせに行った時の私も、お父さんの目にはこんな風に写っていたんだろうな。
そりゃ恐れ入っちゃうよ。
そうして表紙用の写真撮影を済ませるや、早速インタビューに取り掛かったんだ。
「それでは吹田千里少佐、まずは『EMプロジェクト』において偽王女としての影武者の任務を拝命した時のお気持ちをお聞かせ下さい。」
インタビュー最初の質問は、至って無難な物だったね。
「出頭命令を受けて支局長室を訪問した当初、私の任務は個人兵装であるレーザーライフルを用いた遠距離狙撃による暗殺であるとばかり思っておりました。私にとって狙撃は訓練生時代からの『赤眸の射星』という二つ名を高める誇り高い仕事であり、『また新たな武勲を立てられる』とばかり期待していたのです。ですから、明王院ユリカ支局長より『EMプロジェクト』における特務を拝命致した際には大いに驚いた次第です。まさか私如きが、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下という高貴な御方の影武者を務める事になるとは…正しく『青天の霹靂』というべき出来事で御座いました。」
あの時の私は、これから我が身に何が起きるのかなんて全く予測が出来ていなかったんだよね。
もしも予測通りの暗殺任務だったなら、今頃はどうなっていたのかな。
少なくとも、こうして満洲服に身を包んでインタビューに答えるような身の上にはなっていなかっただろうね。
「しかしそれが私にしか出来ない大任である事を伝えられた時、『今こそ小職の生命の懸け時である』と痛感致したのです。瞳の色を除けば、骨格レベルの顔立ちに背格好に体型に至るまで麗蘭王女殿下に瓜二つの容姿。これは単なる偶然の一致と片付けれません。言うなれば、『未来において天子として御即位される愛新覚羅麗蘭第一王女殿下とその輝かしき治世の御為に、烈士として己が生命を捧げよ。』という…」
「一種の宿命や天啓のような物と感じられたのですね。」
広報課のインタビュアーが補ってくれた一言は、正しく我が意を得たりだったね。
曹操から「大耳児」と呼ばれる程に耳が長かった劉備に、左の太腿に七十二個の黒子があった劉邦。
こうした大人物に準えるのは流石に烏滸がましいけど、人から「これは!」と思われる特徴的な容姿を持つ人物には相応に波乱万丈な運命が待っているのかも知れないね。
私の場合は、それが他国の貴人に酷似した容姿という事になるんだよ。
「影武者としての吹田千里少佐はEMプロジェクトを成立させる上で最も優先すべき構成要素であり、万一にも参加を辞退されたならば一から作戦を立て直す必要が御座いました。この事実は吹田千里少佐にとって、誠に名誉な事で御座いましたか。」
「その通りで御座います。楚漢戦争において劉邦の影武者の役を引き受けた紀信は、己が生命を懸ける時を得られた事を喜んだと聞きました。そんな晴れ舞台を得られるのは武人の本懐であり、万全を期して臨まねばならない。そこで後顧の憂いを断つべく、上官殿より勧められた事前の臨時休暇をも返上して各種銃器や近接格闘の訓練に励んだのです。」
通常の有給休暇とは別枠で与えられた三日間の臨時休暇は、「作戦中に万一の事が起きても悔いを残さないように、家族や友達と存分に思い出を作りなさい」という御優しい御配慮でもあったの。
だけど私にとっては普段通りの日程の方が精神的に落ち着くし、作戦行動中のパフォーマンスも向上すると思えたんだよね。
そりゃ私だって家族も友達も大切だけど、生命の懸け時には万全を期したいじゃない。
公安職の公務員たる者、私情を優先し過ぎて任務を失敗しては話にならないからね。
双肩に担う物の重さを考えたら、そんな無責任な事は出来ないはずだよ。




