第8話 魔王軍四天王
聖都ルミナスでの滞在も終わりに近付いていた。
勇者ハヤト。
女騎士フローネ。
大魔導師セレナ。
そして聖女アスカ。
四人は神殿の会議室へ集められていた。
理由は一つ。
魔王軍に関する情報共有である。
ハヤトは椅子にもたれながら欠伸をした。
ハヤト:「難しい話じゃないよな?」
アスカ:「難しいですよ。」
ハヤト:「じゃあ寝る。」
アスカ:「殴りますよ。」
ハヤト:「寝ません。」
最近、アスカの扱いが少し雑になっている気がした。
◆◇◆
会議室の正面には大きな地図が広げられていた。
その前に立つのは大神官だ。
大神官:「現在、魔王軍の動きが活発化しております。」
大神官:「特に警戒すべきは四天王。」
セレナが腕を組む。
セレナ:「ようやく本題ね。」
地図の上に四つの駒が置かれる。
大神官:「剣王バルガス。」
大神官:「魔導王ゼルド。」
大神官:「獣王グラヴ。」
大神官:「死霊王ネクロス。」
フローネの表情が引き締まった。
フローネ:「全員が国を落とせる化け物ですね。」
大神官:「その通りです。」
ハヤトは首を傾げた。
ハヤト:「魔王軍って人材豊富だな。」
セレナ:「感想がおかしいのよ。」
説明は続く。
それぞれの戦歴。
過去の被害。
討伐失敗の記録。
どれも物騒だった。
さすがのハヤトも少し真面目に聞いている。
その時だった。
大神官が一枚の資料を机に置く。
大神官:「そしてもう一名。」
大神官:「最近活動が確認された魔族です。」
ハヤトは紙を手に取った。
そこに描かれていたのは一人の女性だった。
妖艶な紫髪。
扇情的な服装。
吸い込まれそうな赤い瞳。
ハヤト:「綺麗。」
フローネ:「敵です。」
ハヤト:「いや綺麗だろ。」
セレナ:「敵よ。」
ハヤト:「でも綺麗。」
アスカ:「現在、胸を見ています。」
ハヤト:「言うなぁぁぁぁぁ!!」
大神官が咳払いをした。
大神官:「妖姫ヴェルミナ。」
大神官:「魔族の幹部候補とされています。」
ハヤト:「妖姫。」
ハヤト:「名前からして強そう。」
セレナ:「というか。」
セレナ:「確実にあなたを利用してくるタイプね。」
ハヤト:「俺を?」
セレナ:「男好きしそうな顔してるもの。」
ハヤト:「褒めてる?」
セレナ:「全然。」
アスカ:「今『ワンチャンあるかも』と思いましたね。」
ハヤト:「黙秘します。」
◆◇◆
会議終了後。
四人は神殿の中庭を歩いていた。
フローネは資料を読み返している。
アスカは少し考え込んでいた。
セレナはいつも通り冷静だ。
ハヤトだけが違った。
ハヤト:(妖姫かぁ。)
(絶対美人だろ。)
(会ってみたいな。)
(敵だけど。)
(いや敵だからこそか?)
アスカ:「最低ですね。」
ハヤト:「また読んだな!?」
アスカ:「勝手に流れてくるんです。」
ハヤト:「プライバシーって知ってる?」
◆◇◆
その日の夜だった。
聖都の広場では祭りが行われていた。
収穫祭らしい。
屋台が並び、人々が賑わっている。
ハヤトのテンションは最高潮だった。
ハヤト:「祭りだ!」
ハヤト:「屋台だ!」
ハヤト:「美人のお姉さんだ!」
フローネ:「最後だけ違います。」
しかし祭りだけあって人も多い。
気付けば四人は別々になっていた。
ハヤト:「あれ?」
ハヤト:「フローネ?」
ハヤト:「アスカ?」
ハヤト:「セレナ?」
返事はない。
完全にはぐれた。
ハヤト:「まぁいっか。」
切り替えが早かった。
屋台を見て回っていたその時だった。
ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
女性:「迷子?」
振り返る。
そこには一人の美女が立っていた。
長い紫髪。
整った顔立ち。
艶やかな微笑み。
ハヤトの思考が止まる。
(美人だ。)
(めちゃくちゃ美人だ。)
女性:「一人なの?」
ハヤト:「はい。」
女性:「ふふ。」
女性:「可愛いわね。」
ハヤト:「え?」
女性が近付いてくる。
距離が近い。
かなり近い。
いい匂いもする。
ハヤトの顔が赤くなる。
(近い近い近い!)
(待て!)
(慣れてない!)
女性:「勇者様。」
女性:「私と少し遊ばない?」
ハヤト:「え?」
女性の指先が頬に触れた。
心臓が跳ねる。
そして――
ハヤト:「すみません失礼します!!」
全力で逃げた。
◆◇◆
数分後。
合流した三人が驚いていた。
ハヤトが息を切らしていたからだ。
フローネ:「何があったんです?」
ハヤト:「美人がいた。」
セレナ:「いつものことじゃない。」
ハヤト:「近付いてきた。」
アスカ:「へぇ。」
ハヤト:「めちゃくちゃ近かった。」
フローネ:「それで?」
ハヤト:「逃げた。」
三人が沈黙する。
セレナ:「馬鹿じゃないの?」
ハヤト:「慣れてないんだよ!」
アスカ:「勇者失格です。」
ハヤト:「なんで!?」
◆◇◆
その頃。
神殿の屋根の上。
紫髪の美女が一人で笑っていた。
ヴェルミナ:「ふふ。」
ヴェルミナ:「面白い勇者。」
ヴェルミナ:「もっと強欲で馬鹿かと思ったけど。」
月明かりがその顔を照らす。
資料に描かれていた通りの美女だった。
妖姫ヴェルミナ。
魔王軍幹部候補。
彼女はハヤトが消えた方向を眺める。
ヴェルミナ:「次はもっと楽しませてもらうわ。」
その笑みは妖しく。
そしてどこか楽しそうだった。
だが。
翌日。
さらに大きな問題が起きる。
魔王軍四天王の一人が、人間領へ進軍を開始したという報せが届くのだった。




