第7話 聖女は勇者嫌い
ドラゴン討伐から数日後。
ハヤトたちは聖都ルミナスへ向かっていた。
聖都。
神殿総本山。
そして聖女が住む場所である。
馬車に揺られながら、ハヤトは窓の外を眺めていた。
ハヤト:「聖女かぁ。」
ハヤト:「美人かな。」
フローネ:「まずそこなんですね。」
セレナ:「そこしかないのよ。」
ハヤト:「いやだって気になるだろ。」
ハヤト:「聖女だぞ?」
ハヤト:「絶対可愛いじゃん。」
セレナ:「根拠が意味不明ね。」
ハヤト:「ゲームとか漫画とか。」
フローネ:「勇者様。」
ハヤト:「はい。」
フローネ:「現実です。」
ハヤト:「異世界だけどな。」
反論できなかった。
◆◇◆
数時間後。
巨大な城壁が見えてくる。
白い石で造られた美しい都市。
中央には巨大な神殿。
聖都ルミナスだった。
ハヤト:「おおぉ……。」
フローネ:「綺麗ですね。」
セレナ:「相変わらず堅苦しい街だけど。」
三人はそのまま大神殿へと案内される。
内部も凄かった。
高い天井。
色鮮やかなステンドグラス。
そして神聖な空気。
ハヤトですら少し緊張するほどだった。
(なんか失礼なこと言ったら怒られそうだな。)
(気を付けるか。)
やがて。
神殿の奥から一人の少女が姿を現した。
黒髪。
透き通るような白い肌。
整った顔立ち。
年齢はハヤトと同じくらいだろうか。
美少女だった。
間違いなく。
ハヤト:(可愛い。)
(めちゃくちゃ可愛い。)
(これは当たりだ。)
少女は静かにハヤトの前まで歩いてくる。
真っ直ぐ見つめる。
数秒の沈黙。
そして。
アスカ:「あなたは勇者失格です。」
ハヤト:「初対面だぞ!?」
迎えの神官たちも固まっていた。
フローネも目を丸くする。
セレナだけは少し面白そうだった。
ハヤト:「いや待て待て。」
ハヤト:「俺まだ何もしてない。」
アスカ:「しています。」
ハヤト:「してない。」
アスカ:「しています。」
ハヤト:「してない。」
アスカ:「しています。」
フローネ:「子供の喧嘩ですか……。」
◆◇◆
応接室へ移動した後も状況は変わらなかった。
ハヤトとアスカが向かい合う。
アスカは静かに紅茶を飲んでいる。
ハヤトは納得できていなかった。
ハヤト:「理由を聞こうじゃないか。」
アスカ:「聞きたいんですか?」
ハヤト:「もちろん。」
アスカは無表情で答えた。
アスカ:「ハーレム。」
ハヤト:「ぶっ!?」
アスカ:「温泉。」
ハヤト:「待て。」
アスカ:「胸。」
ハヤト:「やめろ。」
アスカ:「美人のお姉さん。」
ハヤト:「やめてぇぇぇぇぇ!!」
セレナが盛大に吹き出した。
フローネは頭を抱えている。
しばらくして事情が判明した。
アスカは特殊な加護を持っていた。
相手の感情や思考が薄く伝わってくる能力。
つまり。
ハヤトの煩悩が筒抜けだった。
ハヤト:「そんな能力ある!?」
アスカ:「あります。」
ハヤト:「ずるくない!?」
アスカ:「勇者よりは。」
ハヤト:「ぐっ。」
反論できない。
◆◇◆
その日の夕方。
アスカの案内で聖都を歩くことになった。
なぜか二人だけで。
ハヤト:「嫌われてるんじゃなかったのか?」
アスカ:「嫌いですよ。」
ハヤト:「即答。」
アスカ:「でも勇者ですから。」
アスカ:「最低限は案内します。」
ハヤト:「優しいな。」
アスカ:「勘違いです。」
途中。
裏路地から泣き声が聞こえた。
小さな子供たちだった。
服はボロボロ。
痩せている。
孤児だった。
ハヤトは足を止める。
ハヤト:「どうした?」
少年:「お腹空いた……。」
聖都は豊かな街だ。
それでもこういう子供はいる。
ハヤトはため息をついた。
ハヤト:「待ってろ。」
アスカ:「勇者?」
数分後。
大量のパンを抱えて戻ってくる。
子供たちは目を輝かせた。
ハヤト:「ほら。」
ハヤト:「いっぱい食え。」
少年:「いいの?」
ハヤト:「もちろん。」
少女:「お兄ちゃん優しい!」
ハヤト:「えへへ。」
少し照れていた。
◆◇◆
子供たちと別れた後。
アスカは黙ったまま歩いていた。
ハヤト:「なんだよ。」
アスカ:「別に。」
ハヤト:「怒ってる?」
アスカ:「違います。」
少しだけ沈黙。
やがて。
アスカがぽつりと言った。
アスカ:「あなたは不思議です。」
ハヤト:「何が?」
アスカ:「頭の中は最低です。」
ハヤト:「おい。」
アスカ:「欲望だらけです。」
ハヤト:「ひどい。」
アスカ:「でも。」
そこでアスカは立ち止まる。
初めて柔らかく微笑んだ。
アスカ:「優しい人ですね。」
ハヤトは少しだけ目を見開いた。
その言葉は。
女神にも言われた言葉だった。
ハヤト:「……そうかな。」
アスカ:「そうですよ。」
夕日が聖都を赤く染める。
その瞬間だけ。
二人の間の空気は少しだけ穏やかだった。
だが。
そんな平穏も長くは続かない。
聖都の外では。
魔王軍が着実に動き始めていたのだから。




