第6話 ドラゴン退治
エルフの森へ来て三日目。
ハヤトは大樹の上に作られたエルフの集落を歩いていた。
見上げれば緑。
見下ろしても緑。
どこを見ても幻想的な景色だ。
ハヤト:「すげぇなぁ。」
ハヤト:「どうやって作ったんだこれ。」
セレナ:「エルフの魔法よ。」
ハヤト:「便利だな魔法。」
セレナ:「そういうものだもの。」
フローネ:「感心しているところ申し訳ありませんが。」
フローネ:「勇者様には訓練があります。」
ハヤト:「えぇ……。」
ハヤトは露骨に嫌そうな顔をした。
セレナが小さく笑う。
セレナ:「勇者なのに。」
ハヤト:「勇者だって休みは欲しい。」
フローネ:「昨日も休んでいましたよね?」
ハヤト:「観光だ。」
フローネ:「違います。」
◆◇◆
訓練場となっている広場では、すでに数人のエルフたちが待っていた。
セレナも腕を組みながら立っている。
ハヤトは木剣を肩に担いだ。
ハヤト:「今日は何するんだ?」
フローネ:「実戦訓練です。」
ハヤト:「実戦?」
セレナ:「森には魔物もいるのよ。」
ハヤト:「なるほど。」
フローネ:「相手を甘く見ないこと。」
フローネ:「それが今日の課題です。」
ハヤトは少しだけ苦笑した。
ハヤト:「まだ言うのか?」
フローネ:「当然です。」
フローネ:「あなたは調子に乗りやすいですから。」
ハヤト:「否定できない。」
◆◇◆
その日の夕方だった。
集落へ慌てたエルフが駆け込んできた。
エルフ兵:「大変です!」
エルフ兵:「ドラゴンが現れました!」
一瞬で空気が変わった。
セレナの表情も真剣になる。
セレナ:「場所は?」
エルフ兵:「西の渓谷です!」
フローネ:「住民は?」
エルフ兵:「避難中です!」
セレナ:「最悪ね。」
ハヤトは首を傾げた。
ハヤト:「ドラゴンってそんなにまずいのか?」
フローネとセレナが同時にこちらを見る。
セレナ:「勇者。」
セレナ:「あなたドラゴン知らないの?」
ハヤト:「ゲーム知識ならある。」
フローネ:「現実のドラゴンはゲームではありません。」
セレナ:「村一つ滅ぼせるわよ。」
ハヤト:「おお。」
ハヤト:「思ったよりヤバいやつだった。」
◆◇◆
一行はすぐに現場へ向かった。
渓谷に近づくにつれて焦げ臭い匂いが強くなる。
木々が焼けている。
地面も抉られている。
そして。
巨大な咆哮が響いた。
グォォォオオオオオ!!
ハヤト:「でかっ!?」
それはまさしく怪物だった。
赤黒い鱗。
鋭い牙。
巨大な翼。
見上げるほどの巨体。
ハヤトが想像していたドラゴンそのものだった。
ハヤト:「すげぇ。」
ハヤト:「本当にドラゴンだ。」
フローネ:「感動している場合ではありません!」
ドラゴンがこちらに気付く。
黄金の瞳がギロリと向いた。
次の瞬間。
巨大な火球が飛んでくる。
ハヤト:「うおっ!?」
ドォン!!
地面が吹き飛んだ。
セレナ:「避けなさい!」
ハヤト:「危ねぇな!?」
フローネ:「だから言いました!」
ハヤト:「今は説教してる場合じゃないだろ!?」
◆◇◆
戦闘が始まった。
フローネが前に出る。
鋭い剣撃。
セレナは後方から魔法を放つ。
ハヤトも剣を構えた。
ハヤト:(よし。)
(ここで活躍すれば。)
(勇者ポイント爆上がりだ。)
(フローネにも見直されるかも。)
ドラゴンが突進してくる。
ハヤトは正面から迎え撃った。
ドォン!!
巨大な衝撃。
しかし。
ドラゴンの身体がぐらりと揺れる。
ハヤト:「おっ?」
ハヤト:「効いてるじゃん。」
フローネ:「勇者様!」
フローネ:「油断しないでください!」
ハヤト:「平気平気。」
ハヤト:「思ったより弱い――」
その瞬間だった。
ドラゴンの尾が横から迫る。
完全な死角だった。
ハヤト:「え?」
避けられない。
そう思った瞬間。
フローネが飛び込んだ。
ドガァァァン!!
鈍い音が響いた。
フローネの身体が吹き飛ぶ。
ハヤトの目が見開かれた。
ハヤト:「フローネ!?」
岩場へ叩き付けられたフローネは動かなかった。
鎧は砕け。
肩口から血が流れている。
ハヤトの思考が止まる。
ハヤト:「おい。」
ハヤト:「おいフローネ!」
返事がない。
セレナが叫ぶ。
セレナ:「ハヤト!」
セレナ:「集中しなさい!」
だが。
ハヤトには届かなかった。
視界には倒れたフローネしか映っていない。
(なんで。)
(俺が避ければよかっただろ。)
(俺が。)
(俺が悪いじゃないか。)
ドラゴンが再び咆哮する。
巨大な火炎が集まる。
セレナの表情が強張った。
セレナ:「まずい!」
その瞬間だった。
ハヤトが立ち上がる。
いつもの軽い笑顔はない。
ハヤト:「……。」
セレナが驚く。
ハヤトから放たれる魔力が変わっていた。
空気そのものが震えている。
ハヤト:(嫌だ。)
(仲間だぞ。)
(まだ知り合って少ししか経ってない。)
(でも。)
(俺の仲間だ。)
ドラゴンが火炎を放つ。
だが。
ハヤトは真正面から歩き出した。
炎が弾ける。
地面が焼ける。
それでも止まらない。
ハヤト:「どけよ。」
低い声だった。
ハヤト:「邪魔なんだよ。」
次の瞬間。
勇者の剣が閃いた。
勝負は一撃だった。
放たれた斬撃がドラゴンの身体を切り裂く。
巨体が揺れる。
そして。
ゆっくりと崩れ落ちた。
轟音が渓谷へ響く。
ドラゴン討伐。
あまりにも圧倒的な結末だった。
セレナが呆然と呟く。
セレナ:「本当にレベル一……?」
◆◇◆
戦いの後。
ハヤトは必死にフローネの手当てをしていた。
幸い命に別状はない。
しばらくして。
フローネがゆっくり目を開けた。
フローネ:「ここは……。」
ハヤト:「良かった!」
ハヤト:「生きてた!」
フローネ:「うるさいです……。」
ハヤトは思わず笑った。
力が抜ける。
本当に安心したのだ。
フローネはそんなハヤトを見つめる。
フローネ:「倒したんですね。」
ハヤト:「ああ。」
フローネ:「どうして。」
ハヤト:「何が?」
フローネ:「どうして命懸けで戦ったんですか。」
ハヤトは少しだけ考えた。
そして肩をすくめる。
ハヤト:「仲間だからだろ。」
フローネは目を見開いた。
ハヤトにとっては当たり前の答えだった。
だが。
フローネにとっては違った。
◆◇◆
その夜。
集落ではドラゴン討伐を祝う宴が開かれた。
エルフたちは大盛り上がりだった。
ハヤトも上機嫌だった。
ハヤト:「肉うまい!」
ハヤト:「酒うまい!」
セレナ:「子供みたいね。」
ハヤト:「子供だし。」
セレナ:「それもそうだった。」
フローネは少し離れた席からそんな姿を見ていた。
昼間はあれほど格好良かったのに。
今は肉に夢中である。
ハヤト:「セレナ!」
ハヤト:「あーん。」
セレナ:「死になさい。」
ハヤト:「ですよね。」
いつも通りだった。
だが。
フローネの胸の奥には。
確かに何かが残っていた。
それが何なのか。
まだ本人にも分かっていなかった。




