第5話 エルフの森へ
四天王の存在も。
魔王軍の脅威も。
王都に潜む闇も。
そんなものをよそに、ハヤトは今日も元気だった。
ハヤト:「エルフかぁ。」
ハヤト:「エルフってあれだろ?」
ハヤト:「美人ばっかりなんだろ?」
フローネ:「知りません。」
ハヤト:「絶対美人だって。」
フローネ:「知りません。」
ハヤト:「耳長くて。」
ハヤト:「スタイル良くて。」
ハヤト:「美人で。」
ハヤト:「優しくて。」
フローネ:「知りません。」
フローネの返事がどんどん雑になっていた。
◆◇◆
王城の会議室。
国王とリーフィア、そして騎士団の幹部たちが集まっていた。
国王:「魔王軍の活動が活発化している。」
国王:「戦力を集めねばならん。」
リーフィア:「現在、各国へ協力を要請しております。」
国王:「その一環としてエルフ族にも助力を求める。」
ハヤト:「なるほど。」
ハヤト:「つまり外交ですね。」
リーフィアが少し驚いた顔をした。
リーフィア:「珍しく真面目な発言ですわね。」
ハヤト:「俺だってやる時はやりますよ。」
リーフィア:「あまり信用できませんわ。」
ハヤト:「ひどい!」
国王が咳払いをする。
国王:「勇者ハヤト。」
国王:「そなたにはエルフの森へ向かってもらう。」
ハヤト:「了解です!」
国王:「フローネも同行させる。」
フローネ:「承知しました。」
ハヤトは笑顔になった。
ハヤト:(美人騎士と二人旅。)
(悪くないな。)
フローネ:「考えていることが顔に出ています。」
ハヤト:「なんで分かるんだよ!」
◆◇◆
翌日。
二人は王都を出発した。
馬車に揺られながら森へ向かう。
旅の始まりである。
ハヤトは珍しくテンションが高かった。
ハヤト:「冒険だなぁ。」
フローネ:「そうですね。」
ハヤト:「勇者っぽいなぁ。」
フローネ:「勇者ですから。」
ハヤト:「そうだった。」
ここ数日で異世界生活に慣れてしまったせいで、自分が勇者であることを忘れかけていた。
しばらく街道を進む。
平和だった。
青空。
草原。
のどかな風景。
まさに旅日和である。
ハヤト:「いい天気だな。」
フローネ:「はい。」
ハヤト:「こういうときって。」
フローネ:「何ですか。」
ハヤト:「美少女に襲われたりしない?」
フローネ:「しません。」
秒で否定された。
◆◇◆
しかし。
その日の夕方。
事件は本当に起きた。
街道脇から助けを求める声が聞こえたのである。
女性:「た、助けてください……。」
ハヤトは反射的に振り返った。
木の陰。
そこには一人の女性がいた。
淡い紫色の髪。
透き通るような白い肌。
身体のラインを強調するような服装。
かなりの美人だった。
ハヤトは一瞬で馬車から飛び降りる。
ハヤト:「大丈夫ですか!?」
フローネ:「勇者様!」
女性:「魔物に襲われて……。」
女性:「動けなくて……。」
涙目だった。
しかも美人だった。
ハヤトは完全に騙されていた。
ハヤト:「今助けます!」
フローネ:「待ってください!」
ハヤト:「なに!?」
フローネ:「怪しいです。」
ハヤト:「美人だぞ!?」
フローネ:「そこが怪しいんです!」
ハヤト:「そんな理屈ある!?」
次の瞬間だった。
女性の身体が黒い霧に包まれる。
そして。
にやりと笑った。
女性:「残念。」
女性:「正解よ、お坊や。」
ハヤト:「えっ?」
紫の瞳が妖しく光る。
耳が少し尖っている。
人間ではない。
女性:「魔族に引っかかるなんて可愛いわね。」
ハヤト:「魔族!?」
フローネが即座に剣を抜く。
フローネ:「下がってください!」
魔族の女性はクスクスと笑った。
女性:「今日は顔見せだけ。」
女性:「本命じゃないもの。」
ハヤト:「本命?」
女性:「そのうち分かるわ。」
次の瞬間。
紫色の魔法陣が現れる。
魔族の女性はそのまま姿を消した。
静寂。
風だけが吹いている。
ハヤトは呆然としていた。
フローネが深いため息を吐く。
フローネ:「だから言ったでしょう。」
ハヤト:「だって美人だったし。」
フローネ:「敵です。」
ハヤト:「でも美人だった。」
フローネ:「敵です。」
ハヤト:「はい……。」
◆◇◆
数日後。
二人はエルフの森へと到着した。
そこは別世界だった。
巨大な樹木が空を覆っている。
木漏れ日が幻想的な光景を作り出していた。
小川の水は透き通り、鳥のさえずりが響く。
ハヤトは素直に感動した。
ハヤト:「綺麗だな……。」
フローネ:「そうですね。」
ハヤト:「ゲームみたいだ。」
フローネ:「またよく分からないことを。」
さらに奥へ進む。
すると。
気配がした。
木の上。
岩陰。
森のいたるところから視線を感じる。
エルフたちだった。
ハヤト:「なんか見られてるな。」
フローネ:「警戒されています。」
ハヤト:「俺人気者だな。」
フローネ:「違います。」
やがて大樹の広場へ辿り着く。
そして。
一人の女性が姿を現した。
銀髪。
長い耳。
宝石のような青い瞳。
大人びた美貌。
気品ある佇まい。
間違いなく美人だった。
ハヤトの思考が一瞬で停止する。
(やばい。)
(めちゃくちゃ美人だ。)
(エルフ最高。)
女性は二人を見下ろした。
そして冷静な声で言った。
セレナ:「あなたが勇者?」
ハヤト:「はい。」
セレナ:「聞いているわ。」
ハヤト:「何をです?」
セレナ:「歩く発情期勇者。」
ハヤト:「誰だそんな噂流したの!?」
その場にいた全員の視線がフローネへ向く。
フローネ:「私ではありません。」
今度は全員がリーフィアを思い浮かべた。
ハヤトも思い浮かべた。
セレナ:「王都から来た報告書にそう書いてあったけれど?」
ハヤト:「書くなよ!!」
セレナは肩をすくめた。
セレナ:「まあいいわ。」
セレナ:「実力だけは本物らしいもの。」
ハヤト:「それは褒めてる?」
セレナ:「半分くらい。」
ハヤト:「半分かぁ。」
セレナはじっとハヤトを見つめた。
そしてふっと笑う。
セレナ:「面白そうね。」
ハヤト:「へ?」
セレナ:「しばらく同行してあげるわ。」
フローネ:「同行?」
セレナ:「勇者を観察するためよ。」
ハヤト:「仲間が増えた!」
フローネ:「そこだけ聞いたんですね。」
ハヤトは思わずガッツポーズした。
美人騎士。
美人エルフ。
仲間は順調に増えている。
ハヤト:(これさ。)
(やっぱり勝ち確じゃない?)
だが。
その考えが大きく揺らぐ日が、思ったよりも近くまで迫っていた。




