第4話 王都の陰謀
フローネがハヤトの護衛兼教育係になってから一週間が経った。
その一週間で分かったことがある。
ハヤトは馬鹿だった。
フローネ:「勇者様。」
ハヤト:「はい。」
フローネ:「市場とは何をする場所ですか?」
ハヤト:「美人を探す場所。」
フローネ:「不正解です。」
ハヤト:「えぇ……。」
現在二人は王都の市場を巡回中だった。
本来の目的は治安確認である。
決して美女探しではない。
しかしハヤトは真面目に歩いて五分で飽きていた。
ハヤト:(暇だなぁ。)
(事件とか起きないかなぁ。)
(できれば美女が絡むやつ。)
フローネ:「今、ろくでもないことを考えていませんでしたか?」
ハヤト:「考えてません。」
フローネ:「目を見て言ってください。」
ハヤト:「無理です。」
フローネは深いため息をついた。
◆◇◆
市場は相変わらず活気に満ちていた。
果物屋。
肉屋。
武器屋。
様々な商人が客を呼び込んでいる。
ハヤトはきょろきょろと周囲を見回していた。
すると。
露店で働く若い女性と目が合った。
栗色の髪。
優しそうな笑顔。
かなり可愛い。
ハヤトは即座に姿勢を正した。
(来た。)
(異世界お姉さんチャンス。)
自然な笑顔を作る。
ハヤト:「こんにちは。」
ハヤト:「素敵な笑顔ですね!」
女性:「ありがとうございます。」
ハヤト:「もしよければ今度――」
フローネ:「勇者様。」
ハヤト:「はい。」
フローネ:「仕事中です。」
ハヤト:「はい……。」
女性がくすりと笑った。
ハヤトは少し嬉しくなった。
(今の笑ったよな?)
(脈ありじゃない?)
フローネ:「ありません。」
ハヤト:「なんで心読めるんですか!?」
その直後だった。
市場の奥から怒鳴り声が響いた。
商人A:「だから数が合わねぇんだよ!」
商人B:「そんなはずない!」
騒ぎが起きている。
人だかりもでき始めた。
フローネの表情が変わる。
フローネ:「行きます。」
ハヤト:「おっ。」
ハヤト:「イベントだな。」
フローネ:「遊びではありません。」
騒ぎの中心では二人の商人が言い争っていた。
商人A:「王都に送る小麦百袋だぞ!?」
商人A:「そのうち三十袋も消えてるんだ!」
商人B:「俺だって知らねぇ!」
周囲もざわついている。
フローネが事情を聞き始めた。
ハヤトも隣で話を聞く。
どうやら最近、各地から王都へ送られてくる食料が頻繁に消えているらしい。
量は少しずつ。
だが確実に。
フローネ:「盗賊ですかね。」
商人A:「だったら痕跡くらい残る。」
商人B:「積み込み記録は正しいんだ。」
ハヤトは首を傾げた。
ハヤト:「中抜き?」
全員がこちらを見る。
ハヤト:「え?」
商人A:「なんだそりゃ。」
ハヤト:「途中で誰かが抜いてるとか?」
その一言で空気が変わった。
フローネも何かに気付いたようだった。
◆◇◆
夕方。
王城。
リーフィアの執務室。
リーフィア:「なるほど。」
リーフィア:「食料が消えていると。」
フローネ:「はい。」
ハヤト:「俺も聞いてました。」
リーフィア:「勇者様は余計なことを言いませんでしたか?」
ハヤト:「信用ないなぁ!」
リーフィアは机の上に地図を広げた。
食料輸送路。
各領地。
出荷記録。
それらを確認しながら考え込む。
そして数分後。
リーフィアの目が細くなった。
リーフィア:「面倒ですわね。」
フローネ:「何か分かったのですか?」
リーフィア:「盗賊ではありません。」
リーフィア:「これは内部犯行ですわ。」
◆◇◆
調査は三日続いた。
その間もハヤトは元気だった。
というより元気すぎた。
酒場で働くお姉さんに声をかけて追い返され。
花屋の看板娘に笑われ。
市場の女性達にはすっかり顔を覚えられた。
ハヤト:「人気者になってきたな。」
フローネ:「違うと思います。」
リーフィア:「完全に違いますわ。」
◆◇◆
四日目。
ついに証拠が見つかった。
ある貴族だった。
王都へ送られる食料を横流しし、莫大な利益を得ていたのである。
フローネ:「最低ですね。」
リーフィア:「ええ。」
ハヤト:「捕まったんだから解決だな。」
しかし。
リーフィアは首を横に振った。
リーフィア:「違いますわ。」
ハヤト:「へ?」
リーフィア:「この程度の貴族が、こんな大規模な工作を一人で出来るはずがありません。」
フローネ:「背後に誰かいる?」
リーフィア:「おそらくは。」
その表情は険しかった。
◆◇◆
同じ頃。
王都の外れ。
誰もいない廃屋。
黒いローブを羽織った男が窓から王城を眺めていた。
その足元には魔法陣。
そして不気味な黒い結晶。
男:「勇者。」
男:「予想以上だな。」
男はゆっくりと笑う。
歪な笑みだった。
男:「だが問題ない。」
男:「計画は予定通り進める。」
闇の中で赤い瞳が光る。
その姿を見た者は誰もいない。
◆◇◆
王城への帰り道。
ハヤトは大きく伸びをした。
ハヤト:「終わった終わった。」
フローネ:「そう簡単な話ではないと思いますが。」
ハヤト:「でも解決しただろ?」
リーフィア:「楽観的ですわね。」
ハヤト:「人生は前向きな方が楽しいんです。」
フローネは呆れたように笑った。
リーフィアも小さく苦笑する。
だが二人とも気付いていた。
この事件はまだ終わっていない。
そして。
魔王軍の影は、思っているよりずっと近くまで迫っていることを。
その事実を知る日は、そう遠くなかった。




