第3話 最初の仲間は女騎士
王都へ召喚されて三日目。
ハヤトは王城の客室で盛大に伸びをしていた。
ハヤト:(いい朝だ。)
(飯は美味いし、部屋は広いし、俺は勇者だ。)
(勝ち組街道まっしぐらだな。)
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
コンコン。
ハヤト:「どうぞ!」
入ってきたのはリーフィアだった。
今日も相変わらず綺麗だった。
ハヤトは思わず見惚れる。
リーフィア:「その顔をやめていただけます?」
ハヤト:「どの顔です?」
リーフィア:「残念な顔です。」
ハヤト:「ひどくない!?」
リーフィア:「本日の予定をお伝えしに来ました。」
ハヤト:「おっ、何ですか?」
リーフィア:「騎士団との合同訓練ですわ。」
ハヤト:「また模擬戦ですか?」
リーフィア:「今回は少し違います。」
リーフィアの口元がわずかに笑った。
嫌な予感しかしない。
◆◇◆
王城の訓練場は朝から騒がしかった。
数百人の騎士たちが集まっている。
その中央でハヤトは首を傾げていた。
ハヤト:「なんか人多くない?」
リーフィア:「当然ですわ。」
ハヤト:「なんで?」
リーフィア:「騎士団最強と呼ばれる人物との模擬戦ですもの。」
ハヤト:「へぇ。」
ハヤト:「騎士団長とかですか?」
リーフィア:「いいえ。」
その時。
訓練場の向こう側がざわつき始めた。
騎士たちが道を開く。
そして一人の女性が歩いてきた。
長い金髪。
青い瞳。
鍛え上げられた身体。
騎士鎧を着ているにも関わらず隠しきれない美貌。
凛とした立ち姿だけで周囲を圧倒していた。
ハヤトの思考が止まった。
(美人だ。)
(めちゃくちゃ美人だ。)
(王女様系じゃないな。)
(騎士系だ。)
(強そう。)
(でも美人だ。)
(最高だ。)
リーフィア:「騎士団副団長フローネ。」
リーフィア:「我が国最強の女騎士ですわ。」
ハヤト:「副団長!?」
フローネはハヤトの前まで歩いてきた。
そして一礼する。
フローネ:「初めまして勇者様。」
フローネ:「フローネです。」
ハヤトは慌てて背筋を伸ばした。
ハヤト:「初めまして!」
ハヤト:「山崎隼人です!」
フローネ:「存じております。」
ハヤト:「ちなみに恋人とか。」
フローネ:「おりません。」
ハヤト:「よし!」
フローネ:「何がですか?」
リーフィアが遠い目をした。
◆◇◆
模擬戦が行われることになった。
観客席は満席。
騎士たちの期待も大きい。
フローネは訓練用の剣を構えた。
無駄のない綺麗な構えだった。
それだけで実力が分かる。
ハヤトも剣を持つ。
ハヤト:(美人だな。)
(マジで美人だな。)
(戦い終わったら食事に誘えないかな。)
フローネ:「勇者様。」
ハヤト:「はい?」
フローネ:「話を聞いていますか?」
ハヤト:「聞いてました。」
フローネ:「絶対聞いてませんよね。」
試合開始の合図が鳴った。
次の瞬間。
フローネが消えた。
ハヤト:「え?」
鋭い踏み込み。
一瞬で距離を詰められる。
ガン!
剣がぶつかった。
衝撃が腕に響く。
ハヤトは目を見開いた。
(速い!)
(今までの騎士と全然違う!)
フローネは止まらない。
二撃。
三撃。
四撃。
美しいほど正確な連撃だった。
ハヤトも慌てて応戦する。
ガキン!
ガキン!
ガキン!
観客席から歓声が上がる。
騎士A:「副団長が押してる!」
騎士B:「すげぇ!」
ハヤトは少し嬉しくなった。
(かっこいいじゃんこの人。)
(いいな。)
(付き合いたい。)
フローネ:「集中してください!」
ハヤト:「してます!」
フローネ:「顔が緩んでます!」
◆◇◆
数分後。
勝負が動いた。
フローネが大きく踏み込む。
同時にハヤトも反応した。
ただ。
少し力が入り過ぎた。
ドォン!!
凄まじい衝撃が響いた。
フローネの剣が空高く舞う。
観客席が静まり返った。
誰も動かない。
フローネ本人も呆然としている。
ハヤトも呆然としている。
ハヤト:「あれ?」
ハヤト:「折れた?」
フローネの剣は真っ二つだった。
完全に破壊されていた。
ハヤト:「ご、ごめんなさい!」
フローネ:「……。」
ハヤト:「本当にごめんなさい!」
フローネ:「……。」
ハヤト:「怒ってます?」
フローネ:「当然です。」
ハヤト:「ですよね!」
◆◇◆
試合終了後。
控室。
ハヤトは正座させられていた。
目の前にはフローネ。
腕を組んでいる。
かなり怒っている。
ハヤト:「本当にすみませんでした。」
フローネ:「あの剣は十年以上使っていました。」
ハヤト:「重ねて申し訳ありません。」
フローネ:「愛着もありました。」
ハヤト:「ごめんなさい。」
フローネ:「お気に入りでした。」
ハヤト:「ごめんなさい。」
完全に反省会だった。
その様子を見ていたリーフィアが笑いを堪えている。
ハヤト:「助けてください王女様。」
リーフィア:「無理ですわ。」
ハヤト:「ですよね。」
◆◇◆
しばらくして。
謝罪を受け入れたフローネはため息をついた。
フローネ:「勇者様。」
ハヤト:「はい。」
フローネ:「あなたは確かに強いです。」
ハヤト:「ありがとうございます。」
フローネ:「ですが未熟です。」
ハヤト:「ぐっ。」
フローネ:「戦い方も荒い。」
フローネ:「慢心もしている。」
ハヤトは黙った。
確かにその通りだった。
最近、自分は調子に乗っていた。
チート能力。
勇者という肩書き。
周囲からの称賛。
どこかで魔王さえ簡単に倒せると思っていた。
フローネ:「だから私が同行します。」
ハヤト:「へ?」
フローネ:「勇者様の監視役です。」
リーフィア:「正式には護衛兼教育係ですわ。」
ハヤトはしばらく固まった。
そして。
ハヤト:「つまり。」
ハヤト:「これからずっと一緒ってことですか?」
フローネ:「そうなります。」
ハヤト:「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」
フローネ:「な、何故喜ぶんですか!?」
ハヤト:「美人だからです!」
フローネ:「もう帰ります!」
顔を真っ赤にして出ていってしまった。
残されたハヤトは満面の笑みだった。
ハヤト:(美人騎士と旅。)
(これはもう勝ちだろ。)
(絶対楽しいじゃん。)
リーフィアはそんなハヤトを見ながら小さく呟いた。
リーフィア:「先が思いやられますわね……。」
こうして勇者ハヤトは、最初の仲間となる女騎士フローネと出会ったのだった。




