第2話 これ勝ち確では?
勇者召喚の翌朝。
ハヤトはふかふかのベッドの上で目を覚ました。
見上げた天井には精巧な装飾が施されている。
部屋も広い。
というか広すぎる。
日本の自宅なら、この部屋だけで家一軒分くらいありそうだった。
(やっば……。)
(昨日まで普通の高校生だったのに。)
(今日は勇者専用客室かよ。)
(勝ち組じゃん。)
ハヤトはベッドから起き上がり、窓を開けた。
朝日が差し込む。
窓の外には巨大な王都の街並みが広がっていた。
石造りの建物。
活気のある市場。
遠くに見える城壁。
まさしくファンタジー世界そのものだった。
ハヤト:「異世界最高ぉぉぉぉぉ!!」
勢いよく叫んだ瞬間。
コンコン。
ドアがノックされた。
ハヤト:「どうぞ!」
入ってきたのはリーフィアだった。
今日も美しい。
長い翡翠色の髪。
白を基調とした上品なドレス。
朝から破壊力が高い。
(可愛いなぁ。)
(本当に可愛いなぁ。)
(これは王女じゃなくても惚れる。)
リーフィア:「視線が鬱陶しいですわ。」
ハヤト:「まだ何も言ってないですよ!?」
リーフィア:「顔に書いてありますもの。」
ハヤト:(見えるの!?)
リーフィアは小さく咳払いした。
リーフィア:「本日は勇者様の今後について説明があります。」
ハヤト:「はい。」
リーフィア:「その前に朝食ですわ。」
ハヤト:「朝食!」
ハヤトの目が輝いた。
◆◇◆
食堂へ案内されたハヤトは驚愕していた。
長いテーブルの上に大量の料理が並んでいる。
焼き立てのパン。
分厚いベーコン。
スープ。
果物。
香ばしい香りの肉料理。
どれも美味しそうだった。
ハヤト:「すごいなこれ。」
ハヤト:「ホテルのバイキングじゃん。」
リーフィア:「比較対象がよく分かりませんわ。」
ハヤトはさっそくベーコンを頬張った。
ハヤト:「うまっ!」
ハヤト:「何これうまっ!!」
リーフィア:「そうですか。」
ハヤト:「毎日これですか!?」
リーフィア:「勇者ですので。」
ハヤト:「勝ったな。」
リーフィア:「何にですの。」
ハヤト:「人生。」
またかという顔をされた。
◆◇◆
朝食後。
二人は王城を歩いていた。
リーフィアは今日の予定を説明する。
リーフィア:「午前中は王都の見学。」
リーフィア:「午後には騎士団による実力確認があります。」
ハヤト:「実力確認?」
リーフィア:「模擬戦ですわ。」
ハヤト:「なるほど。」
リーフィア:「勇者様がどの程度の力を持つのか確認する必要があります。」
ハヤトは胸を張った。
ハヤト:「安心してください。」
ハヤト:「俺、けっこう強いんで。」
リーフィア:「昨日召喚されたばかりなのですが。」
ハヤト:「でもSSですよ?」
リーフィア:「その単語だけ聞くと不安になりますわね。」
◆◇◆
その後。
二人は王都へ出た。
城門を抜けると大勢の人々が行き交っている。
店が並び。
露店が並び。
活気があふれていた。
ハヤトは完全に観光客だった。
ハヤト:「おおー!」
ハヤト:「すげぇ!」
ハヤト:「本物の異世界だ!」
リーフィア:「異世界で間違いありませんわ。」
その時だった。
向こうから美しい女性が歩いてきた。
金髪。
長身。
どこか大人の色気がある。
ハヤトは一瞬で姿勢を正した。
(来たな。)
(異世界のお姉さんだ。)
(ここは大人の余裕を見せる。)
さりげなく髪をかき上げる。
低い声を作る。
ハヤト:「こんにちは。」
ハヤト:「今日は良い天気ですね。」
女性:「そうですね。」
女性はそのまま歩いていった。
ハヤト:「……。」
リーフィア:「……。」
ハヤト:「今のどうでした?」
リーフィア:「挨拶でしたわ。」
ハヤト:「いやその先の可能性とか。」
リーフィア:「ありません。」
即答だった。
◆◇◆
王都広場に到着すると様子がおかしかった。
人が集まっている。
どんどん集まっている。
そして誰かが叫んだ。
町人A:「勇者様だ!」
町人B:「勇者様だぞ!」
町人C:「本物だ!」
一瞬で取り囲まれた。
歓声が上がる。
子供たちが目を輝かせる。
ハヤトは少し驚いた。
同時に。
嬉しくなった。
(勇者なんだよな俺。)
(本当に。)
町人A:「世界を救ってください!」
町人B:「魔王を倒してください!」
ハヤトは大きく手を振った。
ハヤト:「任せてください!」
ハヤト:「魔王なんてすぐ倒します!」
歓声がさらに大きくなる。
リーフィアは少しだけ苦笑した。
リーフィア:「人気者ですわね。」
ハヤト:「でしょう?」
ハヤト:「これ絶対モテますよね。」
リーフィア:「台無しですわ。」
◆◇◆
午後。
王城訓練場。
観客席には騎士たちが集まっていた。
勇者の実力確認。
そのための模擬戦である。
騎士団長が前へ出た。
騎士団長:「まずは一対一で行う。」
ハヤト:「了解です!」
最初の相手は歴戦の騎士だった。
大柄で筋肉質。
いかにも強そうである。
騎士:「よろしくお願いします。」
ハヤト:「こちらこそ!」
開始の合図が鳴る。
次の瞬間。
ハヤトは剣を振った。
ただそれだけだった。
ドゴォォォン!!
騎士が吹き飛ぶ。
訓練場の端まで一直線だった。
沈黙。
騎士も呆然としている。
観客も呆然としている。
ハヤト自身も呆然としていた。
ハヤト:「え?」
ハヤト:「終わった?」
◆◇◆
その後も同じだった。
二人目。
三人目。
四人目。
全員が一撃だった。
訓練場は騒然となる。
騎士A:「強すぎる……。」
騎士B:「本当にレベル1か?」
騎士団長でさえ驚きを隠せなかった。
リーフィアは腕を組んで呟く。
リーフィア:「規格外ですわね。」
ハヤトは上機嫌だった。
(強い。)
(俺強い。)
(めちゃくちゃ強い。)
(これ魔王も余裕じゃね?)
調子に乗り始めていた。
◆◇◆
夜。
客室へ戻ったハヤトは机に向かっていた。
真剣な表情で紙を広げる。
そして大きく書く。
『ハーレム計画書』
ハヤト:「よし。」
ハヤト:「計画は大事だからな。」
①可愛い。
②優しい。
③俺を好き。
④仲良く暮らす。
⑤みんな幸せ。
ハヤト:「完璧だ。」
ハヤト:「穴がない。」
その時だった。
コンコン。
ドアがノックされる。
ハヤト:「どうぞ!」
入ってきたのはリーフィアだった。
リーフィア:「明日の予定ですが……。」
途中で動きが止まる。
机を見る。
紙を見る。
もう一度見る。
沈黙。
ハヤトは嫌な予感がした。
リーフィアは紙を持ち上げる。
リーフィア:「ハーレム計画書。」
リーフィア:「可愛い。」
リーフィア:「優しい。」
リーフィア:「俺を好き。」
リーフィア:「……。」
ハヤト:「返してください。」
リーフィア:「勇者様。」
ハヤト:「はい。」
リーフィア:「最低ですわ。」
ハヤト:「なんでですか!?」
リーフィア:「むしろ何故違うと思うのです!?」
王女のツッコミが部屋中に響いた。
その夜。
ハヤトはベッドに寝転がりながら考えていた。
異世界。
勇者。
チート能力。
王族との出会い。
人気者。
そして未来のハーレム。
(いいなぁ。)
(最高だなぁ。)
(魔王倒したら完全勝利じゃん。)
無論。
そんなに甘くないことを。
今のハヤトはまだ知らない。




