第1話 勇者ガチャSSS
山崎隼人は死んだ。
朝の通学途中だった。
コンビニで新発売のカップ焼きそばを買い、上機嫌で学校へ向かっていた時のことである。
(今日は昼飯が楽しみだな。)
(絶対うまいやつだろこれ。)
そんなことを考えていた次の瞬間。
けたたましいクラクションが鳴り響いた。
振り返った視界いっぱいに大型トラックが迫り、何かを考える暇もなく衝撃が全身を貫いた。
そこで記憶は途切れている。
◆◇◆
気が付くと、真っ白な空間に立っていた。
床も白。
壁も白。
天井すら見えない。
ただ白だけが果てしなく続いている。
ハヤトはしばらく周囲を見回した後、小さく首を傾げた。
ハヤト:「……ここどこだ?」
ハヤト:「病院じゃないよな?」
ハヤト:「ていうか俺、生きてるのか?」
返事はない。
静寂だけが広がっていた。
ハヤトが不安になり始めたその時だった。
目の前に淡い光が現れた。
無数の光粒が集まり、やがて人の形を作り上げていく。
そして現れたのは、一人の女性だった。
銀色の長い髪。
透き通るような白い肌。
宝石のような青い瞳。
思わず息を呑むほど美しい女性だった。
ハヤトは数秒ほど見惚れた後、慌てて咳払いした。
(落ち着け俺。)
(第一印象は大事だ。)
(こういう時は余裕のある男を演出するんだ。)
ハヤト:「初めまして!」
ハヤト:「もし独身ならお付き合いを前提に仲良くなりませんか!」
女性は美しい顔をわずかに引きつらせた。
女神:「死んだ直後にナンパする人を初めて見ました。」
ハヤト:「やっぱり死んでるんですか俺!?」
◆◇◆
十分後。
ハヤトは大まかな事情を聞き終えていた。
目の前の女性は女神エルフェリア。
そして自分は交通事故で死亡したらしい。
そこまではいい。
問題はこの後だった。
女神:「あなたには異世界へ行っていただきます。」
ハヤト:「ほう。」
女神:「現在その世界では魔王が勢力を拡大しています。」
ハヤト:「なるほど。」
女神:「そして勇者が必要です。」
ハヤト:「つまり?」
女神:「あなたが勇者です。」
ハヤトは真顔になった。
数秒考える。
そして。
ハヤト:「やります。」
女神:「即決ですね。」
ハヤト:「だって異世界ですよ?」
ハヤト:「勇者ですよ?」
ハヤト:「男なら一回は憧れるでしょう!」
女神:「そういうものですか。」
ハヤト:「そういうものです!」
勢いよく答えるハヤトを見ながら、女神はどこか疲れたように息を吐いた。
女神:「ちなみに理由はそれだけですか?」
ハヤトは満面の笑みを浮かべた。
ハヤト:「あとモテそうです!」
女神:「やっぱりそれですか。」
◆◇◆
女神が指を鳴らすと、目の前に半透明の光の板が現れた。
ハヤトは思わず前のめりになる。
ハヤト:「おおっ!」
ハヤト:「ステータスだ!」
――――――――
名前:ハヤト
職業:勇者
レベル:1
筋力:SS
魔力:SS
敏捷:SS
幸運:SSS
固有スキル
・勇者補正
・全属性適性
・成長加速
・状態異常無効
・言語理解
――――――――
ハヤトは三回見直した。
そしてもう一回見直した。
ハヤト:「強くない?」
女神:「勇者ですから。」
ハヤト:「いやいや。」
ハヤト:「レベル1ですよ?」
ハヤト:「もうラスボス倒せません?」
女神:「倒せません。」
ハヤト:「じゃあ中ボスは?」
女神:「無理です。」
ハヤト:「魔王軍の雑兵なら?」
女神:「それなら大丈夫でしょう。」
ハヤトは少し考えた。
そしてニヤリと笑う。
(勝ったな。)
(勇者だし。)
(チートだし。)
(異世界だし。)
(絶対モテる。)
(人生大逆転じゃん。)
◆◇◆
やがて転移の時間が訪れた。
ハヤトの身体が光に包まれる。
女神はそんな彼を見つめながら静かに言った。
女神:「最後に一つだけ。」
ハヤト:「何ですか?」
女神:「あなたはきっと、自分で思っているより優しい人です。」
ハヤト:「初めて言われました。」
女神:「ですから、後悔しない選択をしてください。」
ハヤト:「よく分かりませんけど。」
ハヤト:「頑張ります!」
女神は小さく微笑んだ。
女神:「ええ。」
女神:「行ってらっしゃい。」
◆◇◆
次の瞬間。
眩しい光の中からハヤトは石造りの巨大な部屋へと降り立った。
床には巨大な魔法陣。
周囲にはローブ姿の魔導師たち。
さらに奥には鎧を着た騎士たちがずらりと並んでいる。
まさに異世界の勇者召喚そのものだった。
(うおおおお……。)
(本物じゃん。)
(俺、本当に異世界来たんだ。)
感動に震えるハヤトの前へ、一人の老人が歩み出た。
豪華な王冠を被り、深紅のマントを羽織っている。
誰が見ても王様だった。
国王:「勇者よ。」
国王:「よくぞ参られた。」
ハヤト:「どうも!」
緊張感のない返事に騎士たちがざわつく。
その時だった。
国王の隣に立つ少女が目に入った。
長い翡翠色の髪。
整った顔立ち。
透き通るような白い肌。
そして凛とした気品。
ハヤトは完全に見惚れた。
(やばい。)
(めちゃくちゃ可愛い。)
(王女様かな?)
(異世界レベル高すぎない?)
国王:「こちらは娘のリーフィアだ。」
リーフィア:「初めまして。」
リーフィア:「リーフィアと申します。」
ハヤト:(声まで可愛い……。)
◆◇◆
その後、魔王についての説明や今後の方針について話が進んだ。
だがハヤトの頭には半分も入ってこなかった。
なぜなら。
(王女様美人だな。)
(いや落ち着け俺。)
(まずは勇者として実績を作るんだ。)
(それから自然な感じで仲良くなれば……。)
そんなことばかり考えていたからである。
やがて国王が話を締めくくった。
国王:「何か質問はあるか?」
ハヤトは勢いよく手を挙げた。
ハヤト:「あります!」
国王:「申してみよ。」
ハヤト:「魔王を倒したら、美人のお嫁さんを紹介してもらえますか!?」
しんと静まり返った。
魔導師も。
騎士も。
貴族も。
全員が固まっている。
ハヤトだけが状況を理解していなかった。
(え?)
(そんな変なこと言った?)
やがてリーフィアが額を押さえながら口を開く。
リーフィア:「お父様。」
国王:「うむ。」
リーフィア:「とんでもない勇者を召喚してしまいましたわ……。」
こうして。
異世界初日から勇者ハヤトは、王城中を頭痛にさせる存在となったのだった。




