零話 勇者になる前の俺は、ただのむっつりスケベだった
山崎隼人はモテなかった。
別に顔が悪いわけではない。
勉強も普通。
運動も普通。
友達だってそこそこいる。
だが。
モテない。
致命的にモテない。
◆◇◆
高校三年生。
昼休み。
教室の隅。
ハヤトはスマホを眺めながらため息を吐いていた。
ハヤト:(彼女欲しいなぁ……。)
友人A:「またか。」
ハヤト:「仕方ないだろ。」
ハヤト:「青春だぞ?」
友人B:「彼女いたことないもんな。」
ハヤト:「うるさい。」
友人A:「告白したことは?」
ハヤト:「ない。」
友人B:「話しかけたことは?」
ハヤト:「あんまりない。」
友人A:「なんで彼女できると思ってるんだ?」
その正論は胸に刺さった。
◆◇◆
その日の放課後。
ハヤトは帰り道を歩いていた。
前方に制服姿の女子生徒がいる。
しかもかなり可愛い。
ハヤトの脳内会議が始まった。
(今だ。)
(話しかけろ。)
(青春だぞ。)
(頑張れ俺。)
女子生徒が前を歩く。
ハヤトも歩く。
距離五メートル。
四メートル。
三メートル。
(いける。)
(二人きりだ。)
(話しかけるだけ。)
(挨拶だけ。)
(二文字だ。)
(こんにちは。)
(ほら言え。)
結果。
女子生徒が曲がり角を曲がるまで何も言えなかった。
ハヤト:「……。」
ハヤト:「無理だろ。」
◆◇◆
帰宅後。
自室。
ベッドへダイブ。
ハヤト:(俺に恋愛は難易度高すぎる。)
(異世界ならモテるのかなぁ。)
(勇者とかになったらモテそうだよな。)
毎日そんな妄想をしていた。
勇者。
剣。
魔法。
ドラゴン。
美少女パーティ。
ハーレム。
高校生らしい。
いや。
むしろ高校生らしすぎる妄想だった。
◆◇◆
そんなある日のこと。
ハヤトはコンビニへ向かっていた。
目的は新発売のカップ焼きそばである。
期間限定。
大盛り。
特盛ソース付き。
絶対うまい。
ハヤトは棚から商品を取り出した。
ハヤト:(勝った。)
(今日の昼飯は決まった。)
レジへ向かう。
会計を済ませる。
店を出る。
その時だった。
泣き声が聞こえた。
小さな子供だった。
五歳くらい。
道路脇で泣いている。
ハヤトは立ち止まる。
ハヤト:(迷子か。)
少し迷った。
面倒だった。
正直関わりたくなかった。
でも。
放ってもおけなかった。
ハヤト:「どうした?」
子供:「ぐすっ……。」
ハヤト:「親とはぐれた?」
子供が頷く。
結局。
三十分かけて交番へ連れて行った。
母親も見つかった。
何度も頭を下げられた。
ハヤトは照れ臭くなった。
ハヤト:「別に。」
ハヤト:「たまたまだし。」
母親:「本当にありがとうございました。」
子供:「お兄ちゃんありがと!」
◆◇◆
帰り道。
ハヤトは少しだけ笑った。
(まぁ。)
(悪くないか。)
誰かを助けた。
それだけで少し嬉しかった。
だが。
その数分後。
運命は急変する。
交差点。
赤信号。
そして。
暴走する大型トラック。
ハヤト:「え?」
それが。
山崎隼人という普通の高校生の人生。
最後の日だった。
◆◇◆
これは。
むっつりスケベで。
女の子に話しかける勇気もなくて。
だけど困っている人を放っておけない。
そんな少年が異世界で勇者になる物語である。




