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せっかく勇者に転生したのだから、さくっと魔王を倒してあとはハーレムを作りたい  作者: naomikoryo


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第59話 勇者、王都へ帰る

王都。

巨大な城壁が見えた瞬間、ハヤトは大きく両手を広げた。


ハヤト:「帰ってきたぁぁぁぁ!!」

フローネ:「急に叫ばないでください。」

ハヤト:「だって久しぶりだろ!」

セレナ:「そんなに長く離れてないわよ。」

ハヤト:「体感だと半年くらい。」

アスカ:「色々ありましたからね。」

ガルデ:「世界樹まで行ったからな。」

ヴェルミナ:「二回くらい死にかけてたし。」

ハヤト:「二回で済んでた?」

フローネ:「数えましょうか?」

ハヤト:「やめよう。」


即答だった。

そんな一行の少し後ろを導師が無言で歩いていた。

両手には拘束用の魔法具が付けられている。

逃走防止のためだった。

もっとも導師本人に逃げる意思はないらしい。


導師:「勇者。」

ハヤト:「何?」

導師:「騒がしい。」

ハヤト:「帰ってきたんだからいいだろ。」

導師:「まだ城門にも入っていない。」

ハヤト:「細かいな。」

導師:「お前が大雑把すぎる。」

ハヤト:「助けてもらった恩を忘れた?」

導師:「お前が勝手に助けた。」

ハヤト:「それはそうだけど!」


ガルデが大声で笑った。


ヴェルミナ:「あなたたち、本当に仲良くなったわね。」

ハヤト:「なってない。」

導師:「なっていない。」


声が重なった。


セレナ:「仲良いじゃない。」

ハヤト:「違うって!」

導師:「不愉快だ。」

ハヤト:「そこまで言う!?」


いつもの会話が続く。

だが城門へ近付くにつれて。

一行は少しずつ異変に気付いていった。

兵士の数が多い。

城壁の上にも。

城門前にも。

完全武装した騎士が配置されている。


フローネ:「警戒態勢?」

セレナ:「私たちを歓迎するため、ではなさそうね。」

アスカ:「結界が消えた影響でしょう。」


ハヤトも城壁を見る。

以前なら目には見えなくても王都全体を巨大な魔法結界が覆っていた。

魔族の侵入を防ぐためのものだ。

だが今はもう存在しない。


ハヤト:「本当に消えたんだな。」

ヴェルミナ:「ええ。」


その声に城門の兵士たちが反応した。

複数の槍が一斉にヴェルミナへ向けられる。


兵士:「魔族!」

フローネ:「待ってください!」


フローネが即座に前へ出た。

ハヤトもヴェルミナの前に立つ。


ハヤト:「味方だ!」

兵士:「ですが!」

ハヤト:「俺が保証する!」


兵士たちが戸惑う。


ヴェルミナ:「別に。」

ヴェルミナ:「慣れてるわよ。」

ハヤト:「俺が嫌なんだよ。」

ヴェルミナ:「え?」

ハヤト:「仲間に槍向けられるの。」


ヴェルミナは言葉を失った。

ハヤト自身は何でもないことのように言っている。


ヴェルミナ:(本当に。)

ヴェルミナ:(こういうところなのよね。)


城門の兵士たちは最終的に槍を下ろした。

だが警戒した視線までは消えていない。

人間と魔族の境界はなくなった。

それでも心の境界まで一日で消えるわけではなかった。


◆◇◆


王城。

大会議室。

国王。

リーフィア。

騎士団の幹部。

大神官。

各地の貴族。

さらに。

勇者パーティ。

ガルデ。

ヴェルミナ。

そして導師。

異様な顔ぶれだった。


リーフィア:「……。」

ハヤト:「ただいま。」

リーフィア:「勇者様。」

ハヤト:「はい?」

リーフィア:「少しお聞きしたいのですが。」

ハヤト:「どうぞ。」

リーフィア:「世界樹を調査しに行ったはずですわよね?」

ハヤト:「そうです。」

リーフィア:「なぜ。」


リーフィアは導師を見る。


リーフィア:「最大の容疑者まで連れて帰ってくるのです?」

ハヤト:「色々あって。」

リーフィア:「その『色々』を説明するための会議ですわ!」

ハヤト:「ですよね。」

導師:「私から説明しよう。」


全員の空気が変わった。

導師は拘束されたまま会議室の中央へ進む。


導師:「黒い魔石を各地へ流したのは私だ。」

導師:「人体実験を行ったのも。」

導師:「獣人や魔族を実験に利用したのも。」

導師:「世界樹の封印を破壊したのも。」

導師:「全て私が行った。」


会議室が騒然となる。


貴族:「何だと!?」

騎士:「こいつが!」

貴族:「今すぐ処刑すべきだ!」


怒号が飛び交う。

それでも導師は逃げなかった。


導師:「反論はしない。」

導師:「処罰も受ける。」


リーフィアは導師をじっと見つめる。


リーフィア:「随分と素直ですのね。」

導師:「勇者に言われた。」

リーフィア:「勇者様に?」

導師:「生きて責任を取れと。」


全員の視線がハヤトへ集まる。


ハヤト:「俺?」

セレナ:「あなた以外に誰がいるのよ。」

ハヤト:「いや。」

ハヤト:「改めて全員に見られると恥ずかしいなって。」


リーフィアは小さく息を吐いた。

そして。


リーフィア:「導師の処遇は後ほど決定します。」

リーフィア:「まずは世界樹について。」


そこから長い報告が始まった。

千年前、人間と魔族は共に暮らしていたこと。

世界樹に黒きものが封じられていたこと。

人と魔が世界樹の力を分けたこと。

歴史が少しずつ書き換えられやがて互いを敵として認識するようになったこと。

そしてハヤトたちが世界樹の心臓で二つの力を再び一つに戻したこと。

説明が終わる頃には会議室は完全に静まり返っていた。


国王:「信じ難い話だ。」

セレナ:「証拠はあります。」


セレナは世界樹から回収した記録を机へ置く。


セレナ:「世界樹戦争記。」

セレナ:「人間側だけでなく、古代魔族語でも同じ内容が記されています。」

大神官:「調査が必要でしょうな。」

リーフィア:「ええ。」


その時、一人の貴族が立ち上がった。


貴族:「仮に事実だとして。」

貴族:「それが何だというのです?」


全員がそちらを見る。


貴族:「千年前に共存していたからといって。」

貴族:「現在の魔族が敵であることに変わりはない!」


別の貴族も頷く。


貴族:「その通りだ!」

貴族:「結界が消えた今こそ。」

貴族:「先に魔族領へ攻め込むべきでは?」


会議室がざわめく。


ハヤト:「待てよ。」

貴族:「勇者殿。」

ハヤト:「それ。」

ハヤト:「今までと同じじゃないか?」

貴族:「何がです?」

ハヤト:「向こうが何かするかもしれないから。」

ハヤト:「先に攻撃する。」

ハヤト:「向こうも同じこと考えたら?」


誰も答えない。


ハヤト:「また戦争だろ。」

貴族:「しかし。」

ハヤト:「だったら。」

ハヤト:「一回話せばいいじゃん。」

貴族:「誰と?」

ハヤト:「魔王。」


会議室が完全に静まり返った。


リーフィア:「……。」

国王:「……。」

フローネ:「……。」

セレナ:「……。」


ヴェルミナだけが少し面白そうにハヤトを見ていた。


ハヤト:「何?」

ヴェルミナ:「言うと思っただけ。」

大神官:「勇者殿。」

大神官:「魔王との交渉を提案されるのですか?」

ハヤト:「駄目?」

大神官:「駄目というより。」

大神官:「前例がありません。」

ハヤト:「じゃあ。」

ハヤト:「最初の一回にすればいい。」


ヴェルミナが吹き出した。

リーフィアは額を押さえる。


リーフィア:「勇者様らしいですわね。」


国王だけはしばらく目を閉じて考えていた。

やがてゆっくりと口を開く。


国王:「よかろう。」


会議室がざわめく。


国王:「ただし。」

国王:「いきなり魔王と会談することはできぬ。」

ハヤト:「なんで?」

ヴェルミナ:「当たり前でしょ。」

ハヤト:「そうなの?」

ヴェルミナ:「魔王軍にも事情があるのよ。」


ヴェルミナの表情が真剣になる。


ヴェルミナ:「魔王様が和平すると決めても。」

ヴェルミナ:「四天王が納得しなければ終わらない。」

ハヤト:「ネクロスはもういない。」

ヴェルミナ:「ええ。」

ヴェルミナ:「でも。」


ヴェルミナは一人ずつ名前を挙げる。


ヴェルミナ:「剣王バルガス。」


ハヤトの表情が変わる。

人生で初めて完膚なきまでに負けた相手。

そして黒の工房でも最後まで決着がつかなかった男。


ヴェルミナ:「獣王グラヴ。」


今度はガルデが反応した。

実の兄。

かつて獣王国最強と呼ばれ腐った世界へ失望し魔王軍へ渡った男。


ヴェルミナ:「そして。」

ヴェルミナ:「魔導王ゼルド。」

ハヤト:「そいつだけ会ったことないな。」

セレナ:「そこなの?」

ヴェルミナ:「むしろ。」

ヴェルミナ:「一番面倒なのはゼルドかもしれないわよ。」

ハヤト:「どんな奴?」


ヴェルミナは少しだけ考えた。


ヴェルミナ:「会えば分かる。」

ハヤト:「嫌な言い方!」

ヴェルミナ:「事実だもの。」

国王:「勇者ハヤト。」

ハヤト:「はい。」

国王:「魔王との交渉を望むのであれば。」

国王:「まずは残る三人の四天王と接触せよ。」

ハヤト:「俺が?」

国王:「他に誰がおる。」


ハヤトは周囲を見る。

誰も視線を合わせなかった。


ハヤト:「そういう時だけ目を逸らすのやめない!?」


◆◇◆


長かった会議が終わった。

王城の廊下でハヤトは全身から疲れ切った空気を漂わせながら歩いていた。


ハヤト:「戦うより疲れた。」

セレナ:「ほとんど私たちが説明してたでしょう。」

ハヤト:「聞いてるだけでも疲れるんだよ。」

アスカ:「子供ですね。」

ハヤト:「十八歳だから。」

ガルデ:「まだそれ言ってんのか。」


フローネは小さく笑う。

その少し後ろをヴェルミナが歩いていた。


ハヤト:「なあ。」

ヴェルミナ:「何?」

ハヤト:「お前。」

ハヤト:「バルガスたちと知り合いなんだよな?」

ヴェルミナ:「当然でしょ。」

ハヤト:「仲良かった?」

ヴェルミナ:「……。」

ハヤト:「その間は何?」

ヴェルミナ:「昔の話よ。」

ハヤト:「気になる。」

ヴェルミナ:「教えない。」

ハヤト:「なんで?」

ヴェルミナ:「秘密が多い方が魅力的でしょう?」

ハヤト:「そういうもん?」

ヴェルミナ:「そういうものよ。」


ハヤトは納得していなかった。

だが無理に聞くこともしなかった。

ヴェルミナはそんなハヤトの横顔を見る。

これからかつての仲間たちに会う。

今の自分をどう見られるのか少しだけ不安だった。

その時。


ハヤト:「一緒に来てくれる?」

ヴェルミナ:「え?」

ハヤト:「四天王のところ。」

ヴェルミナ:「……。」

ハヤト:「嫌なら無理しなくていいけど。」


ヴェルミナは数秒黙った。

そして小さく笑う。


ヴェルミナ:「行くわよ。」

ヴェルミナ:「あなた一人で行かせたら。」

ヴェルミナ:「何するか分からないもの。」

ハヤト:「信用ないなぁ。」

ヴェルミナ:「日頃の行いね。」

フローネ:「その点は同意します。」

ハヤト:「フローネまで!?」


いつものやり取りだった。

だがその日の夕方。

ハヤトは再び王城へ呼び出された。

今度は国王とリーフィアだけだった。


ハヤト:「まだ会議?」

リーフィア:「違いますわ。」

ハヤト:「よかった。」

リーフィア:「勇者様の今後についてです。」

ハヤト:「俺の?」

国王:「うむ。」


国王は一枚の書状をハヤトへ差し出した。


国王:「今回の功績。」

国王:「そして今後の役目を考え。」

国王:「そなたへ王都の屋敷を与える。」

ハヤト:「……。」

リーフィア:「勇者様?」

ハヤト:「屋敷?」

国王:「不満か?」

ハヤト:「いや。」

ハヤト:「掃除大変そうだなって。」

リーフィア:「そこですの!?」

ハヤト:「だって俺。」

ハヤト:「一人暮らししたことないし。」

リーフィア:「使用人を雇ってください!」

ハヤト:「なるほど。」


国王は思わず苦笑した。


国王:「そして。」

ハヤト:「まだあるの?」

国王:「そなたを。」

国王:「王国特別指南役兼遊撃官に任命する。」

ハヤト:「長い。」

リーフィア:「感想がそれですの?」

ハヤト:「何する仕事?」

リーフィア:「王都衛兵や騎士の戦闘指導。」

リーフィア:「大型魔獣が現れた際の討伐。」

リーフィア:「王国の非常時における自由出動。」

リーフィア:「そして。」

リーフィア:「魔王軍との交渉が始まった場合。」

リーフィア:「王国側の交渉使節ですわ。」

ハヤト:「俺。」

ハヤト:「そんな重要人物になってない?」

リーフィア:「世界を救っておいて今さらですの?」

ハヤト:「言われてみれば。」

リーフィア:「自覚してくださいませ!」


こうして魔王を倒したらのんびりハーレムを作る。

そんなことを夢見ていた勇者ハヤトはなぜか魔王を倒す前に王都の屋敷と安定した仕事と魔族との交渉役という、妙に現実的な生活基盤を手に入れることになった。

そして当の本人はまだ知らない。

その屋敷へ誰より早く荷物を運び込もうと考えている魔族がいることを。

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