↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかく勇者に転生したのだから、さくっと魔王を倒してあとはハーレムを作りたい  作者: naomikoryo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/65

第53話 生きて償え

ハヤトはゆっくりと目を開いた。

最初に見えたのは。

世界樹の天井だった。


ハヤト:「……戻った?」

フローネ:「ハヤト!」


次の瞬間。

フローネが勢いよく駆け寄ってくる。


ハヤト:「うおっ!」

フローネ:「大丈夫ですか!?」

ハヤト:「たぶん。」

フローネ:「たぶん!?」

ハヤト:「いや。」

ハヤト:「大丈夫です。」

フローネ:「本当ですね?」

ハヤト:「本当。」


フローネはしばらくハヤトの顔を見つめる。

そしてようやく安心したように息を吐いた。

その反対側からヴェルミナが近付いてくる。


ヴェルミナ:「遅い。」

ハヤト:「え?」

ヴェルミナ:「戻ってくるのが遅い。」

ハヤト:「そんなに経った?」

セレナ:「こっちでは数分よ。」

ハヤト:「じゃあ早いじゃん。」

ヴェルミナ:「私には長かったの。」

ハヤト:「……。」

ヴェルミナ:「何よ?」

ハヤト:「いや。」

ヴェルミナ:「変な顔しないで。」

ハヤト:「してないって。」

ヴェルミナはハヤトの肩を軽く叩く。

ヴェルミナ:「約束。」

ハヤト:「ん?」

ヴェルミナ:「守ったわね。」

ハヤト:「帰ってくるってやつ?」

ヴェルミナ:「そう。」

ハヤト:「約束したからな。」


ヴェルミナは少しだけ笑った。

フローネはそんな二人を見る。

胸の奥がまた少しだけざわついた。


フローネ:(またです。)

フローネ:(でも、今は……。)


今はそれより確認しなければならないことがある。

フローネは導師を見る。


フローネ:「それで。」

フローネ:「導師は?」


全員の視線が一斉に導師へ向いた。


◆◇◆


導師は魔法陣の中央で膝をついていた。

先ほどまで身体を覆っていた黒い紋様はほとんど消えている。

呼吸も安定していた。

アスカは導師の隣に座り慎重に魔力の状態を確認している。


アスカ:「黒い魔力は感じません。」

セレナ:「本体は?」

アスカ:「ありません。」


原初の王も導師へ近付く。

胸元へ手をかざし目を閉じる。

しばらくして静かに手を下ろした。


原初の王:「消えている。」

ハヤト:「本当に?」

原初の王:「疑うなら、お前が確認するか?」

ハヤト:「俺に分かるわけないだろ。」

原初の王:「ならば信じろ。」

ハヤト:「分かった。」

セレナ:「切り替え早いわね。」

ハヤト:「専門家が言ってるんだから信じるしかないだろ。」

原初の王:「専門家。」

ハヤト:「違うの?」

原初の王:「間違ってはいない。」

ガルデ:「そこ気にすんのかよ。」


その時導師の指が動いた。


ハヤト:「お。」


導師がゆっくり目を開く。

焦点の定まらない瞳が少しずつ周囲を見る。

そしてハヤトの姿を捉えた。


導師:「……勇者。」

ハヤト:「よう。」

導師:「生きていたか。」

ハヤト:「第一声がそれ?」

導師:「精神世界へ送り込んだ時点で。」

導師:「戻れない可能性の方が高いと思っていた。」

ハヤト:「先に言えよ!」

原初の王:「言った。」

ハヤト:「そうだった。」

セレナ:「忘れてたの?」

ハヤト:「ちょっと。」

セレナ:「本当に馬鹿ね。」

ハヤト:「今は否定できない。」


導師は身体を起こそうとする。

だが力が入らない。


ハヤト:「無理すんな。」

導師:「触るな。」

ハヤト:「助けようとしただけだろ。」

導師:「自分で立つ。」

ヴェルミナ:「立てないでしょう。」

導師:「……。」

ヴェルミナ:「変なところで意地を張るのね。」

導師:「お前に言われたくない。」

ヴェルミナ:「何ですって?」

ハヤト:「お前ら、今喧嘩する元気ある?」

ヴェルミナ:「ない。」

導師:「ない。」

ハヤト:「じゃあ休めよ!」


二人とも黙った。

妙なところだけ息が合っていた。


◆◇◆


導師は壁へ背中を預けた。


ハヤト:「覚えてるか?」

導師:「何をだ?」

ハヤト:「中で会ったこと。」

導師:「中?」

ハヤト:「お前の精神の中。」


導師は少し考える。


導師:「いや。」

ハヤト:「覚えてないのか。」

導師:「断片的な感覚だけだ。」

導師:「誰かと話していた気はする。」

ハヤト:「子供の頃のお前だった。」


導師の表情が僅かに変わる。


導師:「何を見た?」

ハヤト:「色々。」

導師:「具体的に言え。」

ハヤト:「人間と魔族が戦う理由を調べてた頃とか。」

導師:「……。」

ハヤト:「黒い魔石を最初に見つけた時とか。」

導師:「……。」

ハヤト:「人を実験に使おうって決めた時も。」


空気が変わる。

ヴェルミナの表情から笑みが消えた。

フローネも黙っている。

導師は視線を落とす。


導師:「そうか。」

ハヤト:「お前。」

ハヤト:「最初から世界を壊したかったわけじゃなかったんだな。」

導師:「だから何だ?」

ハヤト:「別に。」

導師:「同情でもするつもりか?」

ハヤト:「しない。」


即答だった。

導師が顔を上げる。


ハヤト:「最初がどうだったとか。」

ハヤト:「黒きものに影響されてたとか。」

ハヤト:「それで、お前がやったことが消えるわけじゃないだろ。」

導師:「ああ。」

ハヤト:「だから。」

ハヤト:「生きろよ。」

導師:「……。」

ハヤト:「生きて。」

ハヤト:「ちゃんと自分で責任取れ。」


ヴェルミナがハヤトを見る。

先ほど自分も同じようなことを言った。

だがハヤトの言葉は少し違って聞こえた。


ハヤト:「死んで終わるのが一番簡単だろ。」

導師:「私に生きろと?」

ハヤト:「そう。」

導師:「お前を殺そうとした。」

ハヤト:「そうだな。」

導師:「お前の仲間も。」

ハヤト:「そうだな。」

導師:「無関係な人間も。」

ハヤト:「知ってる。」

導師:「魔族も。」

ヴェルミナ:「忘れてないわよ。」

導師:「それでもか?」

ハヤト:「それでも。」


導師は理解できないようにハヤトを見ていた。


ハヤト:「勘違いすんなよ。」

ハヤト:「許すって言ってるわけじゃない。」

導師:「……。」

ハヤト:「お前が傷つけた人たちに謝って。」

ハヤト:「罰があるなら受けて。」

ハヤト:「それでも終わりじゃないなら。」

ハヤト:「その後も生きろ。」

導師:「なぜそこまで生きることに拘る?」

ハヤト:「知らん。」

導師:「またそれか。」

ハヤト:「死にかけたばっかりだから。」

ハヤト:「今は特にそう思う。」


ガルデが小さく笑う。


セレナ:「説得力があるのかないのか分からないわね。」

アスカ:「勇者様らしいと思います。」

ハヤト:「褒められてる?」

アスカ:「半分くらいは。」

ハヤト:「半分か。」


◆◇◆


導師はしばらく何も言わなかった。

やがて自分の手を見る。

黒い紋様はもうない。

三十七年間、自分でも気付かなかったものが確かに消えていた。


導師:「勇者。」

ハヤト:「何?」

導師:「お前は。」

導師:「私の中で何を見た?」

ハヤト:「だから色々。」

導師:「最後に。」

導師:「何を見た?」


ハヤトは白い空間で出会った少年を思い出す。


少年:「伝えて。」

少年:「僕が知りたかった答えは。」

少年:「世界を壊さなくても見つかったって。」

ハヤト:「お前から伝言。」

導師:「私から?」

ハヤト:「子供のお前から。」


導師は黙る。


ハヤト:「知りたかった答えは。」

ハヤト:「世界を壊さなくても見つかった。」


導師の目が僅かに揺れた。


ハヤト:「だってさ。」

導師:「……。」


誰も口を挟まなかった。

長い沈黙だった。

そして導師は目を閉じた。


導師:「そうか。」


それだけだった。

だがその声は今まで聞いた導師の声とは少しだけ違っていた。


◆◇◆


原初の王が立ち上がる。


ハヤト:「どうした?」

原初の王:「まだ終わっていない。」

ハヤト:「黒いやつ消えたんだろ?」

原初の王:「消えた。」

原初の王:「だが。」


原初の王は世界樹の壁を見る。

黒い侵食は消えている。

それでも壁を流れていた青い魔力は戻っていなかった。

世界樹全体が少しずつ弱っている。


アスカ:「魔力が減少しています。」

セレナ:「黒きものの影響?」

原初の王:「それだけではない。」

原初の王:「封印が壊れた。」

原初の王:「私が目覚めたことで。」

原初の王:「世界樹は本来の役割を失いつつある。」

ハヤト:「本来の役割?」

原初の王:「世界へ魔力を循環させることだ。」

セレナ:「待って。」

セレナ:「それが止まったらどうなるの?」

原初の王:「魔力が世界を巡らなくなる。」

アスカ:「魔法が使えなくなる?」

原初の王:「それだけではない。」

原初の王:「魔力によって生きる生物。」

原初の王:「魔力に支えられた土地。」

原初の王:「全てに影響が出る。」

ヴェルミナ:「魔族は?」

原初の王:「最も大きな影響を受ける。」


ヴェルミナの顔色が変わった。

魔族は人間よりも遥かに魔力への依存が大きい。

世界から魔力が失われればどうなるか。

考えるまでもなかった。


ハヤト:「直せるんだろ?」

原初の王:「方法はある。」

ハヤト:「よし。」

原初の王:「だが。」

ハヤト:「その『だが』嫌いになってきた。」

原初の王:「私も言いたくはない。」

ハヤト:「何が必要なんだ?」


原初の王はハヤトを見る。

そしてヴェルミナを見る。

さらにフローネを見る。


原初の王:「人の力。」

原初の王:「魔の力。」

ハヤト:「また二つ?」

原初の王:「千年前。」

原初の王:「世界樹を止めるために。」

原初の王:「人と魔の力を分けた。」

原初の王:「今度は逆だ。」

原初の王:「二つをもう一度繋げる。」

セレナ:「どうやって?」

原初の王:「世界樹の心臓へ行く。」

ハヤト:「心臓?」

原初の王:「このさらに奥だ。」


原初の王は封印があった亀裂とは別の場所を見る。

そこには今まで存在しなかった淡い光の扉が現れていた。


原初の王:「そこで。」

原初の王:「千年前に分かたれたものを。」

原初の王:「元に戻す。」

ハヤト:「それで世界樹が助かる?」

原初の王:「成功すれば。」

ハヤト:「失敗したら?」

原初の王:「世界から魔力が消える。」

ハヤト:「……。」

ガルデ:「規模がでかくなりすぎじゃねぇか?」

セレナ:「今さらね。」

ヴェルミナ:「行くしかないでしょう。」

フローネ:「はい。」

アスカ:「私も同意します。」


ハヤトは立ち上がる。


ハヤト:「じゃあ決まり。」

導師:「待て。」

ハヤト:「何?」


導師も壁に手をつきながら立ち上がろうとしていた。


ハヤト:「お前は休んでろ。」

導師:「同行する。」

ヴェルミナ:「立つのもやっとでしょう。」

導師:「世界樹をこうした原因は私だ。」

導師:「最後まで見る。」

ハヤト:「……。」

フローネ:「どうしますか?」

ハヤト:「来たいなら来れば?」

セレナ:「軽いわね。」

ハヤト:「止めても来そうだし。」

導師:「正しい判断だ。」

ハヤト:「偉そうだな!」

導師:「性格は変わっていない。」

ハヤト:「少しくらい反省して大人しくなれよ!」

ヴェルミナ:「無理でしょうね。」

導師:「お前に言われたくない。」

ヴェルミナ:「何ですって?」

ハヤト:「だから喧嘩する元気あるなら歩け!」


世界樹を救うため。

そして人と魔が千年前に分けたものをもう一度繋ぐため。

ハヤトたちは世界樹のさらに奥へ向かう。

その先に、千年前に人間と魔族が別々の道を歩み始めた。

本当の理由が待っているとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。