第39話 戦いのあと
ネクロスが消えてから。
村には静けさが戻っていた。
空を覆っていた黒い霧は消え。
降り続いていた雪も、いつの間にか弱くなっている。
死霊となっていた人々も解放され。
村人たちはようやく家族に本当の別れを告げることができた。
だが。
勇者パーティには一つだけ問題が残っていた。
ヴェルミナ:「無理。」
ハヤト:「は?」
ヴェルミナ:「歩けない。」
ハヤト:「さっきまで立ってただろ!」
戦いが終わり。
村へ戻ろうとした直後だった。
生命共有術の反動で。
ヴェルミナの身体から完全に力が抜けていた。
本人は平然とした顔をしているが。
足にはまったく力が入っていないらしい。
ヴェルミナ:「あの時は気合いよ。」
ハヤト:「気合いで立ってたのかよ!」
ヴェルミナ:「あなたがまた死にそうだったから仕方ないでしょう。」
ハヤト:「いや、俺のせいなんだけどさ。」
ヴェルミナ:「そうね。」
ハヤト:「即答だな。」
ヴェルミナ:「誰のために生命力を使ったと思ってるの?」
ハヤト:「俺です。」
ヴェルミナ:「よろしい。」
ハヤトは何も言い返せなかった。
そんな二人を見ながら。
セレナは呆れたようにため息をつく。
セレナ:「どうするの?」
ハヤト:「どうするって?」
セレナ:「ヴェルミナをここに置いていく気?」
ハヤト:「そんなわけないだろ。」
ガルデ:「じゃあ、誰かが運ぶしかねぇな。」
ハヤト:「誰かって。」
全員の視線がハヤトへ集まった。
ハヤト:「なんで俺を見る?」
セレナ:「原因。」
アスカ:「原因ですね。」
ガルデ:「原因だな。」
フローネ:「原因です。」
ハヤト:「フローネまで!?」
ヴェルミナは少しだけ嬉しそうに笑っていた。
ヴェルミナ:「頑張ってね、勇者様。」
ハヤト:「お前が一番楽しんでないか?」
ヴェルミナ:「気のせいよ。」
絶対に気のせいではなかった。
◆◇◆
ハヤトはヴェルミナを背負い。
雪道を村へ向かって歩いていた。
ヴェルミナ:「もう少しゆっくり。」
ハヤト:「注文多くない?」
ヴェルミナ:「病人には優しくしなさい。」
ハヤト:「病人っていうか、魔力切れだろ。」
ヴェルミナ:「誰のせい?」
ハヤト:「俺です。」
さっきからこればかりだった。
ガルデは後ろで笑っている。
セレナも面白そうに眺めていた。
アスカは治療した青年に肩を貸しながら歩いている。
そして。
フローネはハヤトの少し後ろを歩いていた。
ハヤトの背中にはヴェルミナがいる。
ヴェルミナはハヤトの肩に顔を預け。
妙に満足そうだった。
フローネ:(……近いですね。)
そう思ってから。
自分でも首を傾げる。
別におかしなことではない。
歩けないのだから。
背負うしかない。
それは分かっている。
フローネ:(分かっているのですが……。)
なぜか気になる。
ものすごく気になる。
フローネは少しだけ歩く速度を上げた。
そして。
ハヤトの隣へ並ぶ。
ハヤト:「どうした?」
フローネ:「何がですか?」
ハヤト:「いや、急に横に来たから。」
フローネ:「別に意味はありません。」
ハヤト:「そう?」
フローネ:「そうです。」
ヴェルミナがハヤトの背中越しにフローネを見る。
ヴェルミナ:「あら。」
フローネ:「何ですか?」
ヴェルミナ:「別に。」
フローネ:「そうですか。」
ヴェルミナ:「そうよ。」
二人の視線がぶつかった。
ハヤトだけが何も気付かず歩き続けている。
後ろを歩いていたセレナが。
アスカに小声で話しかけた。
セレナ:「あれ、始まってない?」
アスカ:「おそらく。」
セレナ:「面倒ね。」
アスカ:「面白くなってきました。」
セレナは思わずアスカを見る。
セレナ:「あなた、意外と楽しんでるわね。」
アスカ:「何のことでしょう?」
アスカは何事もなかったように前を向いた。
◆◇◆
その日の夜。
勇者パーティは村の宿で休息を取っていた。
死霊王が倒されたことで。
村人たちにも少しずつ笑顔が戻り始めている。
一方。
宿の一室には。
ハヤト。
フローネ。
セレナ。
アスカ。
ガルデ。
ヴェルミナ。
そして。
亡霊巨人から救出された青年が集まっていた。
青年の体調もかなり戻っている。
ハヤト:「それで。」
ハヤト:「もう一度聞かせてくれ。」
青年:「世界樹のことですね。」
ハヤト:「ああ。」
青年は静かに頷いた。
青年:「導師は工房を離れる前に言っていました。」
青年:「世界を作り直す準備が整った、と。」
セレナ:「世界を作り直す……。」
ガルデ:「意味分かんねぇな。」
アスカ:「世界樹には、それほどの力があるのでしょうか?」
セレナは少し考える。
セレナ:「伝承が正しければ。」
セレナ:「世界樹は、この世界に流れる魔力の中心よ。」
セレナ:「大地を巡る魔力のほとんどが、世界樹と繋がっていると言われているわ。」
ハヤト:「それを導師が使ったら?」
セレナ:「分からない。」
セレナ:「でも。」
セレナ:「ろくなことにはならないでしょうね。」
全員が黙った。
今までとは違う。
魔王軍を倒すだけの旅ではなくなってきている。
導師が本当に世界そのものを変えようとしているのなら。
止めなければならない。
ハヤト:「決まりだな。」
フローネ:「世界樹へ向かうのですね。」
ハヤト:「ああ。」
ガルデ:「異論はねぇ。」
アスカ:「私もです。」
セレナ:「ここまで来たら最後まで付き合うわ。」
全員の視線がヴェルミナへ向く。
ヴェルミナ:「何?」
ハヤト:「お前は?」
ヴェルミナ:「行くわよ。」
ハヤト:「即答だな。」
ヴェルミナ:「導師には私も借りがあるもの。」
少しだけ間を置いて。
ヴェルミナはハヤトを見る。
ヴェルミナ:「それに。」
ハヤト:「それに?」
ヴェルミナ:「放っておいたら、また誰かさんが死にかけそうだから。」
ハヤト:「もう死にかけないって!」
フローネ:「信用できません。」
セレナ:「信用できないわ。」
アスカ:「信用できません。」
ガルデ:「無理だろ。」
ハヤト:「なんで全員そこだけ団結するんだよ!」
宿の中に笑い声が響いた。
明日から勇者パーティは再び旅に出る。
次の目的地は世界樹。
そしてその先で待つのは。
魔王軍ですら知らなかった導師の本当の目的だった。




