第34話 空を駆ける勇者
墓地を突き破って現れた亡霊巨人は、まるで山そのものだった。
村人たちは絶望したようにその姿を見上げる。
ハヤトも思わず首が痛くなるほど見上げた。
ハヤト: 「でかくないか?」
ガルデ: 「でかいな。」
セレナ: 「感想じゃないのよ。」
ネクロスは満足そうに笑った。
ネクロス: 「私の最高傑作だ。」
ネクロス: 「絶望するには十分だろう?」
しかしハヤトは首を傾げる。
ハヤト: 「いや。」
ネクロス: 「いや?」
ハヤト: 「倒せばいいだけじゃん。」
その言葉にネクロスは本気で不思議そうな顔をした。
ネクロス: 「中に人間がいるんだよ?」
ネクロス: 「壊せば死ぬ。」
ネクロス: 「助けようとすれば村が壊れる。」
ネクロス: 「君に選べるのかな?」
ハヤトは巨人の胸を見上げた。
巨大な黒い結晶。
その奥。
確かに人影が見える。
縛り付けられた青年だった。
ハヤト: 「別に。」
ネクロス: 「ん?」
ハヤト: 「両方やる。」
沈黙。
ネクロスが固まる。
セレナが額を押さえる。
アスカがため息を吐く。
ガルデは笑った。
ガルデ: 「言うと思った。」
ネクロス: 「無理だ。」
ハヤト: 「知らん。」
ネクロス: 「出来る訳がない。」
ハヤト: 「やる前から諦める方が嫌だ。」
ネクロスは黙った。
その考え方そのものが理解できなかった。
◆◇◆
亡霊巨人が腕を振り上げる。
次の瞬間。
巨大な拳が振り下ろされた。
ドォォォォォォン!!
地面が砕ける。
雪が吹き飛ぶ。
村の外壁が半分消し飛んだ。
フローネ: 「まずい!」
アスカ: 「このままでは村が!」
ハヤトは即座に剣を抜く。
ハヤト: 「アスカ!」
アスカ: 「はい!」
ハヤト: 「中の奴助けたら止まるか!」
アスカは目を閉じた。
聖術による感知。
巨人全体を流れる魔力を調べる。
数秒後。
アスカは力強く頷いた。
アスカ: 「止まります!」
アスカ: 「中の方が核です!」
ハヤト: 「よし!」
セレナ: 「全然よしじゃない!」
セレナ: 「どうやって行くのよ!」
ハヤト: 「飛べばいい!」
セレナ: 「飛べないでしょうが!」
その時だった。
後ろから声が聞こえる。
ヴェルミナ: 「飛ばしてあげるわ。」
全員が振り返った。
ヴェルミナは腕を組みながら立っていた。
ハヤト: 「出来るのか?」
ヴェルミナ: 「誰に言ってるの?」
少し得意げだった。
しかしその目は真剣だった。
ハヤトを助けるためではない。
村を守るためでもない。
その両方だった。
ヴェルミナの魔法陣が展開される。
巨大な転移魔法。
紫色の光が地面を覆った。
セレナも思わず息を呑む。
セレナ: 「凄い魔力……。」
ヴェルミナ: 「一回しか飛ばせない。」
ヴェルミナ: 「失敗したら許さないわよ。」
ハヤト: 「大丈夫だ。」
ヴェルミナ: 「何の根拠があるの。」
ハヤト: 「勘。」
ヴェルミナ: 「最悪。」
しかし少しだけ笑っていた。
ハヤトは巨人を見上げる。
胸の結晶。
眠る青年。
絶望した村人たち。
全部見えた。
だから迷わない。
ハヤト: 「行ってくる。」
フローネ: 「必ず戻ってください。」
ハヤト: 「おう。」
ガルデ: 「死ぬなよ。」
ハヤト: 「善処する。」
セレナ: 「嫌な予感しかしない。」
アスカ: 「私もです。」
ヴェルミナは小さく息を吐いた。
そして。
ヴェルミナ: 「行きなさい。」
次の瞬間。
紫色の光が炸裂する。
ハヤトの身体が空高く打ち上げられた。
亡霊巨人の胸へ向かって一直線に。
ネクロスの顔色が初めて変わる。
ネクロス: 「なに?」
ハヤトは剣を構える。
あと少し。
あと少しで届く。
しかし。
ネクロスも黙って見ている相手ではなかった。
ネクロス: 「邪魔をするな。」
巨大な黒い魔法陣が空中に展開される。
無数の亡霊がハヤトへ向かって飛び出した。
ハヤト: 「うおっ!?」
フローネ: 「勇者様!」
ガルデ: 「くそっ!」
だが。
その亡霊たちを巨大な炎が飲み込む。
ヴェルミナの魔法だった。
ヴェルミナ: 「前だけ見なさい!」
ハヤト: 「助かる!」
ヴェルミナ: 「後で感謝しなさい!」
ハヤト: 「する!」
ネクロスはその光景を見ていた。
理解できなかった。
魔族が勇者を助ける。
命を懸けて。
そんなことがあるはずがない。
だが現実に起きている。
ネクロス: 「理解できない……。」
その呟きと同時にハヤトはついに巨人の胸へ到達した。
そして剣を振り上げる。
亡霊巨人との決着まであと一歩だった。




