第33話 最後の教え
雪は静かに降り続いていた。
フローネは剣を構えたまま目の前の師を見つめる。
かつて王国最強と呼ばれた騎士。
そして、自分に剣を教えてくれた恩師。
だが今の団長は死人だった。
ネクロスによって蘇らされ。
黒い魔石によって操られている。
ネクロス: 「さあ、続きを見せてもらおう。」
ネクロス: 「弟子は師を斬れるのかな?」
フローネは言い返さない。
ただ静かに剣を握り直した。
さっきまであった迷いは消えている。
死霊騎士団長が大剣を構える。
そして次の瞬間。
地面を蹴った。
速い。
雪が巻き上がる。
ガァァン!!
剣と剣が激突した。
衝撃で周囲の雪が吹き飛ぶ。
フローネ: 「はぁっ!!」
死霊騎士団長: 「……。」
言葉はない。
ただ剣だけが振るわれる。
何度も。
何度も。
かつて教わった型。
幼い頃から見てきた剣。
全部覚えていた。
だからこそ分かる。
昔より強い。
ネクロス: 「どうかな?」
ネクロス: 「優しい師匠だろう?」
ネクロス: 「死んでも弟子を鍛えてくれている。」
ハヤト: 「黙ってろ。」
ネクロス: 「なぜ?」
ハヤト: 「今いいところなんだよ。」
ネクロスは本気で意味が分からないという顔をした。
セレナは小さくため息を吐く。
セレナ: 「本当に会話が通じないわね。」
◆◇◆
戦いは続いていた。
フローネの額から汗が流れる。
押されている。
強化された団長は明らかに自分より強い。
それでも引かない。
引く訳にはいかなかった。
ガァァァン!!
再び剣がぶつかる。
フローネ: 「私は……!」
死霊騎士団長: 「……。」
フローネ: 「団長に教わりました!」
もう迷わない。
もう下を向かない。
そう決めた。
死霊騎士団長の剣を弾く。
一歩踏み込む。
さらにもう一歩。
胸元の黒い魔石が見えた。
ネクロスの表情が初めて曇る。
ネクロス: 「なるほど。」
ネクロス: 「そこに気付いたか。」
フローネ: 「終わらせます。」
剣を振り上げる。
その瞬間だった。
死霊騎士団長の動きが止まる。
ほんの一瞬。
理性が戻ったように見えた。
フローネ: 「団長……。」
死霊騎士団長: 「……誇りを……。」
声が聞こえる。
掠れている。
消えそうなほど弱い。
それでも確かに届いた。
死霊騎士団長: 「忘れるな……。」
フローネの瞳から涙が零れる。
死霊騎士団長: 「前を……向け……。」
それが最後だった。
フローネは頷く。
涙を拭う。
そして。
剣を振り下ろした。
パキィン!!
黒い魔石が砕け散る。
雪の上に黒い破片が舞った。
死霊騎士団長の身体から黒い魔力が抜けていく。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
◆◇◆
死霊騎士団長は膝をついた。
もう武器を持っていない。
穏やかな顔だった。
死人ではない。
フローネが知っている団長の顔だった。
フローネ: 「団長……。」
死霊騎士団長は微かに笑う。
死霊騎士団長: 「立派になったな。」
フローネは泣きながら笑った。
死霊騎士団長: 「仲間もいる。」
死霊騎士団長: 「安心した。」
視線がハヤトへ向く。
ハヤトは少しだけ驚いていた。
死霊騎士団長: 「良い仲間を持ったな。」
フローネ: 「はい。」
今度は迷わず答えられた。
死霊騎士団長は満足そうに頷く。
そして身体が少しずつ光になっていく。
もう時間がなかった。
死霊騎士団長: 「騎士は……。」
死霊騎士団長: 「最後まで前を向け。」
それが最後の教えだった。
死霊騎士団長の姿は光となって消えていく。
フローネは深く頭を下げた。
フローネ: 「ありがとうございました。」
しばらく誰も何も言わない。
雪だけが静かに降っていた。
しかし、その静寂を壊したのはネクロスだった。
ネクロス: 「実に残念だ。」
ネクロス: 「良い実験だったのに。」
ハヤト: 「やっぱりお前嫌いだ。」
ネクロスは肩をすくめる。
ネクロス: 「そうか。」
ネクロス: 「では次を見せよう。」
その瞬間。
村の墓地全体が黒く光った。
地面が大きく揺れる。
セレナの表情が変わる。
アスカも顔を上げた。
アスカ: 「待ってください……!」
セレナ: 「まずい!」
ガルデ: 「なんだ!?」
ネクロスは楽しそうに両手を広げる。
ネクロス: 「私の最高傑作だ。」
墓地の地下から。
巨大な腕が姿を現した。
まるで山のような漆黒の腕。
続いて巨大な頭部がゆっくりと地面を突き破る。
村人たちが悲鳴を上げた。
ハヤトも思わず見上げる。
ハヤト: 「でかくない?」
ガルデ: 「でかいな。」
セレナ: 「感想じゃないのよ!」
ネクロスだけが満足そうに笑っていた。
死霊王の切り札。
亡霊巨人。
本当の戦いはここから始まろうとしていた。




