第32話 師と弟子
雪が静かに降っていた。
広場の中央では死霊騎士団長が大剣を構えている。
かつて王国最強と呼ばれた騎士。
そしてフローネの師。
フローネは剣を握ったまま動けなかった。
目の前の姿が信じられない。
死んだはずなのだ。
数年前の戦争で。
国を守るために戦い。
そして命を落とした。
その人が今。
死人として立っている。
ネクロス: 「どうしたんだい?」
ネクロス: 「せっかく再会できたのに。」
フローネは唇を噛む。
ネクロスは本当に理解していない。
この状況がどれほど残酷なのか。
ネクロス: 「泣いてもいいんだよ?」
ネクロス: 「感動の再会だろう?」
ハヤト: 「お前さ。」
ネクロス: 「ん?」
ハヤト: 「本当に性格悪いな。」
ネクロスは少し考えるような顔をした。
ネクロス: 「よく言われる。」
ハヤト: 「自覚あるのかよ。」
ネクロス: 「ある。」
セレナ: 「救いようがないわね。」
その時だった。
死霊騎士団長が動く。
一瞬だった。
地面を蹴り。
一気に距離を詰める。
ガァァン!!
ハヤトが咄嗟に剣を合わせた。
腕が痺れる。
重い。
想像以上の一撃だった。
ハヤト: 「っ!?」
ガルデ: 「強ぇな!」
死霊騎士団長はさらに攻撃を続ける。
まるで嵐だった。
大剣が次々と振るわれる。
ハヤトも受けるだけで精一杯だった。
ネクロス: 「生前より強くしてある。」
ネクロス: 「自信作なんだ。」
ハヤト: 「聞いてねぇよ!」
フローネはその光景を見ていた。
身体が動かない。
剣を握っているのに。
足が前へ出ない。
相手は師匠だ。
子供の頃から憧れていた人だ。
剣を教わり。
騎士の誇りを教わり。
今の自分を作った人だ。
そんな相手へ剣を向けられるはずがない。
ネクロス: 「なるほど。」
ネクロス: 「無理か。」
フローネの肩が震える。
ネクロス: 「そうだよね。」
ネクロス: 「恩師だものね。」
ネクロス: 「殺せないよね。」
その言葉は毒だった。
少しずつ心へ入り込む。
ネクロス: 「なら勇者が代わりに殺すのかな。」
フローネは顔を上げた。
ネクロス: 「それも面白い。」
ハヤト: 「全然面白くねぇよ。」
死霊騎士団長の剣を受けながらハヤトが吐き捨てる。
しかし状況は悪い。
このままでは押し切られる。
フローネにもそれが分かった。
だが。
動けない。
その時だった。
ハヤト: 「フローネ!」
大声だった。
思わず身体が震える。
ハヤト: 「何やってんだ!」
フローネ: 「ですが……!」
ハヤト: 「ですがじゃない!」
初めてだった。
ハヤトがこんな強い口調で言うのは。
ハヤト: 「その人。」
ハヤト: 「お前が尊敬してるんだろ?」
フローネは目を見開く。
ハヤト: 「だったら。」
ハヤト: 「今のお前見て喜ぶのか?」
言葉が胸に刺さる。
思い出す。
厳しかった訓練。
何度も転んだ日々。
その度に言われた。
「前を向け。」
「騎士なら胸を張れ。」
フローネの手から震えが消えていく。
ハヤト: 「俺は知らねぇ。」
ハヤト: 「でも。」
ハヤト: 「そんな弱い人には見えない。」
雪が舞う。
死霊騎士団長が再び剣を振り上げる。
その前へ。
今度はフローネが踏み出した。
ガァァン!!
剣同士がぶつかる。
衝撃が走る。
しかし。
もう迷いはない。
フローネ: 「団長。」
フローネ: 「私は騎士です。」
真っ直ぐ見つめる。
死者となった恩師を。
フローネ: 「だから。」
フローネ: 「前を向きます。」
その瞬間だった。
死霊騎士団長の剣が止まる。
ほんの一瞬。
死人の目に光が戻ったように見えた。
フローネの呼吸が止まる。
死霊騎士団長: 「……フロ……ネ……。」
掠れた声。
今にも消えそうな声。
それでも確かに聞こえた。
フローネ: 「団長!」
死霊騎士団長: 「……強く……なった……な……。」
涙が溢れる。
だが。
今度は悲しい涙ではなかった。
死霊騎士団長はゆっくり胸元を指差す。
そこには黒い魔石が埋め込まれていた。
フローネは理解する。
ネクロスも気付いた。
ネクロス: 「余計なことを。」
黒い魔力が死霊騎士団長を包む。
理性が再び飲み込まれていく。
だがその前に。
死霊騎士団長は最後の力を振り絞った。
死霊騎士団長: 「誇りを……忘れるな……。」
その言葉を最後に。
瞳から光が消える。
フローネは剣を握る。
涙を拭った。
そして静かに構え直す。
フローネ: 「勇者様。」
ハヤト: 「おう。」
フローネ: 「力を貸してください。」
ハヤトは笑う。
いつもの笑顔だった。
ハヤト: 「もちろん。」
ネクロスは初めて表情を曇らせた。
今のは想定外だった。
心を折るつもりだった。
絶望させるつもりだった。
だが。
勇者たちは逆に強くなった。
ネクロス: 「理解できないな。」
その呟きを聞きながら。
ハヤトは剣を構えた。
次で終わらせる。
そんな予感がしていた。




