第30話 勇者と魔族
吹雪は止んでいた。
戦闘の後。
雪原には静寂が戻っている。
怪物は討伐された。
導師も撤退した。
犠牲は出た。
だが全滅は避けられた。
それだけでも奇跡に近い。
◆◇◆
ハヤトは雪の上に腰を下ろしていた。
身体中が痛い。
特に胸が痛い。
怪物の一撃は思った以上に重かった。
ハヤト:「いてぇ……。」
ガルデ:「無茶しやがって。」
ハヤト:「知ってる。」
ガルデ:「分かってねぇだろ。」
ハヤト:「それも知ってる。」
ガルデは呆れたように笑った。
少し離れた場所。
ヴェルミナは一人で空を見ていた。
誰とも話していない。
いつもの余裕もない。
アスカが隣へ座る。
ヴェルミナ:「何?」
アスカ:「別に。」
ヴェルミナ:「嫌いなんじゃなかった?」
アスカ:「嫌いですよ。」
ヴェルミナ:「正直ね。」
沈黙。
雪だけが舞っている。
アスカ:「でも。」
ヴェルミナ:「?」
アスカ:「敵ではなさそうです。」
ヴェルミナが苦笑した。
ヴェルミナ:「それは大間違い。」
アスカ:「そうですか?」
ヴェルミナ:「私は魔族よ。」
ヴェルミナ:「敵でしょ。」
アスカは返事をしなかった。
ただ。
じっとヴェルミナを見ている。
アスカ:「一つ聞いてもいいですか。」
ヴェルミナ:「なに?」
アスカ:「好きなんですか。」
沈黙。
ヴェルミナ:「は?」
アスカ:「勇者を。」
ヴェルミナ:「……。」
アスカ:「今の思考で確信しました。」
ヴェルミナ:「最悪ねその能力。」
顔が赤い。
珍しく本気で赤い。
アスカ:「認めるんですか。」
ヴェルミナ:「認めない。」
アスカ:「でも事実です。」
ヴェルミナ:「認めない。」
アスカ:「事実です。」
ヴェルミナ:「認めない。」
子供の喧嘩だった。
◆◇◆
その頃。
当の本人は。
ハヤト:「腹減った。」
フローネ:「さっき食べました。」
ハヤト:「もう減った。」
セレナ:「燃費悪すぎない?」
完全に平常運転だった。
◆◇◆
夜。
勇者パーティは山小屋へ戻った。
ガルデは先に眠る。
フローネは見張り。
セレナは資料整理。
アスカは祈り。
ハヤトは暖炉の前で欠伸をしていた。
すると。
窓が開く。
バタン。
冷たい風。
ハヤト:「またか。」
窓枠に座る紫髪の美女。
もう説明不要だった。
ヴェルミナ:「またよ♡」
ハヤト:「不法侵入だぞ。」
ヴェルミナ:「知ってる。」
ハヤト:「何しに来た。」
ヴェルミナ:「顔見に。」
ハヤト:「帰れ。」
ヴェルミナ:「ひどい。」
だが。
今日は少し違った。
ヴェルミナはいつものように近付いて来ない。
少し離れた場所に座ったままだ。
ハヤト:「怪我は?」
ヴェルミナ:「平気。」
ハヤト:「そうか。」
ヴェルミナ:「心配してくれるの?」
ハヤト:「そりゃするだろ。」
ヴェルミナ:「敵よ?」
ハヤト:「死んだら後味悪い。」
ヴェルミナは思わず吹き出した。
ヴェルミナ:(本当に。)
(どうしようもない男。)
だが。
だから好きになった。
ハヤトは気付かない。
全く気付かない。
気付く気配もない。
ヴェルミナ:「ねぇ。」
ハヤト:「ん?」
ヴェルミナ:「もし。」
ヴェルミナ:「魔族と人間が仲良くできるって言ったら?」
ハヤトは少し考えた。
ハヤト:「出来るんじゃないか。」
ヴェルミナの目が見開かれる。
ハヤト:「俺とお前。」
ハヤト:「普通に話してるじゃん。」
ヴェルミナは何も言えなかった。
しばらくして。
小さく笑う。
ヴェルミナ:「そうね。」
◆◇◆
その頃。
遥か北。
氷の神殿。
巨大な魔法陣。
世界樹の根から伸びる黒い結晶。
無数の実験体。
導師が立っていた。
導師:「勇者。」
その背後。
新たな影が現れる。
死人のように青白い男。
導師:「準備は整った。」
男が笑う。
不気味に。
男:「なら始めよう。」
男の足元から。
無数の亡霊が這い出してくる。
死霊王ネクロス。
四天王の一角。
最も不気味な王が。
ついに動き始めた。




