第27話 獣王の咆哮
三日後。
北の断崖。
雪が降っていた。
空は灰色。
吹雪も近い。
そんな場所に勇者パーティは立っていた。
誰も軽口を叩かない。
いつもなら騒がしいハヤトでさえ静かだった。
◆◇◆
ガルデだけが前を見ている。
断崖の向こう。
そこに一人の男が立っていた。
グラヴ。
獣王四天王。
そして。
かつての英雄。
グラヴ:「来たか。」
ガルデ:「来た。」
静かな声だった。
兄妹の再会。
だが。
もう昔みたいな笑顔は無い。
ハヤトは周囲を見回した。
ハヤト:「一人か。」
セレナ:「魔王軍の姿もない。」
アスカ:「罠ではなさそうです。」
フローネも頷く。
だが。
安心はできない。
目の前にいる男だけで国家級の脅威なのだから。
グラヴはゆっくり戦斧を肩へ担ぐ。
グラヴ:「聞きたいことがあるんだろ。」
ガルデ:「ある。」
グラヴ:「言え。」
ガルデは拳を握った。
そして。
ずっと聞きたかったことを口にする。
ガルデ:「なんでだ。」
ガルデ:「なんで魔王軍なんかに行った。」
風が吹いた。
雪が舞う。
グラヴは少しだけ空を見上げる。
グラヴ:「失望したからだ。」
ガルデ:「何に。」
グラヴ:「全部だ。」
グラヴの目は真っ直ぐだった。
怒りもない。
狂気もない。
ただ。
強い諦めだけがあった。
グラヴ:「獣人は弱い。」
グラヴ:「人間も弱い。」
グラヴ:「王も。」
グラヴ:「貴族も。」
グラヴ:「政治家も。」
グラヴ:「全部弱い。」
ハヤトが眉をひそめる。
グラヴは続けた。
グラヴ:「弱い奴が上に立つ。」
グラヴ:「力を持つ奴が潰される。」
グラヴ:「正しい奴が損をする。」
グラヴ:「そんな世界だ。」
グラヴ:「だから壊す。」
ガルデが叫ぶ。
ガルデ:「だから魔王軍か!?」
グラヴ:「そうだ。」
ガルデ:「馬鹿か!!」
グラヴ:「そうかもな。」
空気が震えた。
グラヴから魔力が溢れる。
雪が吹き飛ぶ。
地面が軋む。
四天王。
その名に相応しい圧力だった。
グラヴ:「だが。」
グラヴ:「今日は説得されに来た訳じゃない。」
ガルデ:「……。」
グラヴ:「見せてみろ。」
グラヴ:「お前達の正義とやらを。」
◆◇◆
戦闘開始。
最初に飛び出したのはガルデだった。
ガルデ:「うおおおおおお!!」
戦斧が唸る。
轟音。
地面が砕ける。
だが。
グラヴは受け止めた。
片手で。
ガルデ:「なっ……!?」
グラヴ:「軽い。」
ガルデの身体が吹き飛ぶ。
岩壁へ激突。
雪崩が起こる。
ハヤトが飛び出す。
今度は最初から全力。
前回のバルガス戦よりも速い。
強い。
成長した。
確実に。
ハヤト:「うおおおお!!」
グラヴ:「いい目だ。」
ガガガガガァァァン!!
剣と戦斧。
衝撃波。
空気が裂ける。
だが。
届かない。
押し切れない。
グラヴは笑っていた。
楽しそうに。
セレナの魔法。
アスカの支援。
フローネの援護。
全員が連携する。
それでも。
少しずつ押されていく。
グラヴ:「その程度か。」
ハヤト:「くっ……!」
グラヴ:「悪くない。」
グラヴ:「だが弱い。」
次の瞬間。
戦斧が振り下ろされた。
ドォォォォォォン!!
大地が裂ける。
全員吹き飛ばされる。
フローネが転がる。
アスカも倒れる。
ガルデが膝をつく。
ハヤトだけが立っていた。
息が荒い。
腕が震える。
それでも剣は離さない。
グラヴはそんなハヤトを見る。
そして。
少しだけ笑った。
グラヴ:「いい。」
グラヴ:「お前は嫌いじゃない。」
ハヤト:「嬉しくねぇよ。」
グラヴ:「そうか。」
その時だった。
吹雪が強くなる。
視界が真っ白になる。
そして。
雪の向こうから。
新たな魔力が現れた。
セレナが顔色を変える。
アスカも固まる。
フローネが息を呑む。
そこにいたのは。
紫髪の魔族。
ヴェルミナだった。
ヴェルミナ:「やりすぎよ。」
グラヴ:「来たか。」
ヴェルミナ:「それ以上やると。」
ヴェルミナ:「本気で怒られるわよ。」
グラヴが笑う。
ハヤトは首を傾げた。
ハヤト:「誰に?」
ヴェルミナは答えない。
ただ。
少し困ったように笑う。
ヴェルミナ:「魔王様に。」
沈黙。
雪だけが降っていた。
そして。
勇者達はまだ知らない。
魔王軍の中ですら一枚岩ではないこと。
ヴェルミナが魔王直属に近い立場であること。
そして。
近い未来。
この魔族の女を巡って大事件が起きることを。




