第24話 導師の研究資料
黒の工房事件から三日後。
勇者パーティは北方駐屯地へ滞在していた。
回収した資料の解析である。
ハヤト以外は忙しかった。
◆◇◆
ハヤトは暇だった。
ものすごく暇だった。
ハヤト:「暇だ。」
フローネ:「資料を読みなさい。」
ハヤト:「字が多い。」
フローネ:「子供ですか?」
ハヤト:「まだ十八だ。」
フローネ:「知っています。」
ハヤト:「優しくして。」
フローネ:「嫌です。」
即答だった。
◆◇◆
会議室。
机の上には大量の資料。
導師が残した研究記録だった。
リーフィアは一枚ずつ目を通している。
セレナも同じだ。
アスカも真剣だった。
ガルデだけが眠そうだった。
ガルデ:「文字多すぎねぇか。」
ハヤト:「分かる。」
ガルデ:「仲間だな。」
ハヤト:「仲間だな。」
フローネとアスカが同時にため息を吐いた。
数時間後。
ついに解析結果がまとまった。
リーフィア:「まず一つ。」
全員が顔を上げる。
リーフィア:「導師は魔王直属ではありません。」
沈黙。
ハヤトが首を傾げる。
ハヤト:「敵じゃないのか?」
セレナ:「敵よ。」
ハヤト:「じゃあ同じじゃん。」
セレナ:「違うの。」
アスカ:「魔王軍の命令系統に属していないんです。」
ハヤト:「なるほど。」
ハヤト:「分からん。」
ガルデ:「俺もだ。」
リーフィアが説明を続けた。
リーフィア:「導師の目的は魔王軍の勝利ではありません。」
フローネ:「では何が目的ですか。」
リーフィア:「進化。」
全員が黙った。
嫌な単語だった。
リーフィア:「強い存在を作る。」
リーフィア:「そのためなら人間でも。」
リーフィア:「魔族でも。」
リーフィア:「誰でも利用する。」
リーフィア:「それが導師です。」
ガルデ:「胸糞悪ぃな。」
セレナも頷く。
珍しく全員同意だった。
そして。
さらに衝撃的な事実が判明する。
アスカ:「これを見てください。」
古い羊皮紙だった。
そこには奇妙な図が描かれている。
巨大な樹。
世界地図。
そして複数の魔法陣。
ハヤト:「なんだこれ。」
セレナ:「世界樹。」
ハヤト:「おお。」
ハヤト:「ファンタジー。」
アスカ:「真面目にしてください。」
どうやら黒い魔石は、
世界樹の根から採取される特殊鉱石で作られているらしい。
フローネ:「世界樹?」
リーフィア:「建国神話にも出てくる存在ですわ。」
ハヤト:「ほんとにあるのか。」
セレナ:「あるわ。」
ハヤト:「すげぇ。」
その時だった。
会議室の窓が開く。
バンッ!
全員が反射的に振り向く。
そして。
頭を抱えた。
窓枠に腰掛けていたのは。
紫髪の美女だった。
ヴェルミナである。
ヴェルミナ:「こんにちは♡」
ハヤト:「お前またか。」
ヴェルミナ:「会いに来たわ。」
ハヤト:「なんでだよ。」
ヴェルミナ:「暇だったから♡」
絶対違う。
全員そう思った。
フローネ:「帰ってください。」
セレナ:「今忙しいの。」
アスカ:「不法侵入です。」
ガルデ:「相変わらずだな。」
ヴェルミナは気にしない。
そして。
ハヤトの隣へ座った。
距離が近い。
かなり近い。
ハヤト:「近い。」
ヴェルミナ:「そう?」
ハヤト:「近い。」
ヴェルミナ:「気のせいよ。」
ハヤト:「気のせいじゃない。」
ヴェルミナが少しだけ笑う。
すると。
机の上の資料が目に入った。
世界樹の図面。
導師の研究書。
ヴェルミナの表情が変わる。
本当に一瞬だった。
だが。
セレナは見逃さなかった。
セレナ:「知ってるの?」
ヴェルミナ:「……。」
沈黙。
ヴェルミナは珍しく笑わなかった。
そして。
小さく呟く。
ヴェルミナ:「そこまで辿り着いたのね。」
部屋の空気が変わる。
ハヤトも気付く。
これは。
普段のヴェルミナじゃない。
ヴェルミナ:「勇者。」
ハヤト:「なんだ。」
ヴェルミナ:「世界樹には近付かない方がいいわ。」
ハヤト:「なんで。」
ヴェルミナ:「死ぬから。」
誰も冗談だと思えなかった。
ヴェルミナは立ち上がる。
窓へ向かう。
そして最後に振り返る。
ヴェルミナ:「次は本当に危ない。」
ハヤト:「お前はどうする。」
ヴェルミナは少しだけ驚いた顔をした。
ハヤト:「敵なら敵でいい。」
ハヤト:「でも。」
ハヤト:「死ぬなよ。」
沈黙。
ヴェルミナは何も言わない。
ただ。
ほんの少しだけ。
嬉しそうに笑った。
ヴェルミナ:「それ。」
ヴェルミナ:「反則よ。」
紫色の魔法陣。
そして転移。
姿が消える。
◆◇◆
残された会議室。
セレナが小さく呟く。
セレナ:「これはまずいわね。」
フローネ:「何がです?」
セレナ:「あの魔族。」
セレナ:「確実に面倒なことになる。」
ハヤト:「何の話だ?」
誰も答えなかった。
その頃。
遙か北方。
雪に閉ざされた大地で。
四天王の一人が目を開く。
獣王グラヴ。
そして。
導師が動き出していた。
第二幕は。
さらに大きく加速し始める。




