第23話 目覚め
黒の工房崩壊から二日後。
勇者パーティは北方の小さな要塞都市に滞在していた。
負傷者の治療。
避難民の保護。
そして工房の後始末。
やることは山ほどあった。
◆◇◆
ハヤトは宿のベッドで目を覚ました。
全身が痛い。
特に背中が痛い。
腕も痛い。
足も痛い。
結論として全部痛かった。
ハヤト:「いててて……。」
フローネ:「起きましたか。」
ハヤト:「うお!?」
ベッドの横にフローネがいた。
ハヤト:「なんでいるんだ。」
フローネ:「見張りです。」
ハヤト:「見張り?」
フローネ:「また勝手に死にかけないようにです。」
ハヤト:「ひどい。」
フローネ:「自覚が無いんですか。」
ハヤト:「少しはある。」
フローネ:「少しなんですね。」
数分後。
食堂へ向かうと全員が揃っていた。
ガルデ。
セレナ。
アスカ。
そして。
王都から駆け付けたリーフィアまでいる。
ハヤト:「お。」
ハヤト:「王女様。」
リーフィア:「勇者様。」
リーフィア:「目覚めて第一声がそれですの?」
ハヤト:「可愛いなって。」
リーフィア:「帰りますわよ?」
ハヤト:「ごめんなさい。」
即謝罪だった。
◆◇◆
朝食が運ばれてくる。
ハヤトはパンを頬張りながら尋ねた。
ハヤト:「で?」
ハヤト:「どうなったんだ。」
セレナが資料を机に置く。
セレナ:「黒の工房は完全崩壊。」
アスカ:「捕らわれていた方々も保護済みです。」
ガルデ:「導師の資料もある程度回収できた。」
フローネ:「成果としては十分ですね。」
ハヤトは少し安心した。
少なくとも無駄な戦いではなかったらしい。
だが。
リーフィアの表情はまだ硬い。
ハヤト:「なんかあったか?」
リーフィア:「ありますわ。」
その一言で空気が変わる。
リーフィアは机の上へ一枚の地図を広げた。
北方全域の地図だった。
ハヤト:「おお。」
ハヤト:「難しそう。」
セレナ:「黙ってなさい。」
地図には幾つもの赤い印が付いていた。
リーフィア:「黒い魔石。」
リーフィア:「これは一つの工房だけではありませんでした。」
全員が顔を上げる。
リーフィアは続けた。
リーフィア:「同じような施設が少なくとも七か所。」
ガルデ:「はぁ!?」
フローネも固まった。
アスカ:「そんなに……。」
リーフィア:「導師は最初から全国規模で動いていました。」
状況は想像以上に悪かった。
ハヤトは腕を組む。
ハヤト:「つまり?」
リーフィア:「全部潰します。」
ハヤト:「分かりやすい。」
リーフィア:「勇者様にも分かるように説明しましたので。」
ハヤト:「今ちょっと馬鹿にしたな?」
リーフィアは微笑んだだけだった。
◆◇◆
その時だった。
ガチャリ。
食堂の扉が開く。
全員が振り返る。
そこには見覚えのある紫髪の美女が立っていた。
数秒。
誰も動かなかった。
そして。
ハヤトが言った。
ハヤト:「うわ。」
女性:「うわ、とは失礼ね♡」
ヴェルミナだった。
フローネが立ち上がる。
セレナも魔法陣を展開する。
アスカも警戒する。
ガルデも戦斧へ手を伸ばした。
ヴェルミナ:「怖い怖い。」
ハヤト:「何しに来た。」
ヴェルミナ:「お見舞い♡」
ハヤト:「帰れ。」
ヴェルミナ:「ひどい。」
ヴェルミナは空いている席へ勝手に座った。
そしてパンを取る。
食べる。
普通に食べる。
ガルデ:「なんで馴染んでんだ。」
セレナ:「謎ね。」
フローネ:「追い出しましょう。」
ヴェルミナ:「やだ♡」
全然帰る気配がなかった。
ハヤトは頭を抱える。
ハヤト:「敵だろお前。」
ヴェルミナ:「そうね。」
ハヤト:「なんでここにいる。」
ヴェルミナ:「会いたかったから。」
沈黙。
フローネが固まる。
セレナも固まる。
アスカも固まる。
ガルデが吹き出した。
ハヤトだけ真っ赤だった。
ハヤト:「なっ!?」
ヴェルミナ:「冗談♡」
ハヤト:「心臓に悪い!」
ヴェルミナは楽しそうに笑った。
◆◇◆
しかしその後。
彼女は少しだけ真面目な顔になる。
ヴェルミナ:「導師はもっと厄介よ。」
リーフィアが目を細める。
ヴェルミナ:「あいつは魔王軍ですら嫌ってる。」
セレナ:「どういう意味?」
ヴェルミナ:「自分以外全部道具だから。」
その言葉には妙な重みがあった。
誰も口を挟まない。
ヴェルミナは立ち上がる。
ハヤトを見る。
ヴェルミナ:「勇者。」
ハヤト:「なんだ。」
ヴェルミナ:「次はもっと危ないわよ。」
ハヤト:「そうか。」
ヴェルミナ:「だから死なないで。」
ハヤト:「お前さ。」
ヴェルミナ:「なに?」
ハヤト:「敵なのか味方なのか分からん。」
ヴェルミナは少しだけ笑った。
そして。
ヴェルミナ:「私にも分かんない♡」
そう言って転移魔法陣を展開する。
光が消える。
ヴェルミナの姿も消えた。
しばらく沈黙。
そして。
ガルデが一言。
ガルデ:「あいつ。」
ガルデ:「お前に惚れてねぇか?」
ハヤト:「ないない。」
セレナ:「あるわね。」
アスカ:「あります。」
フローネ:「ありますね。」
リーフィア:「ありますわ。」
ハヤト:「なんで全員そうなるんだ!?」
部屋の中に笑い声が広がる。
だが同時に。
導師という新たな脅威。
全国に散らばる黒の工房。
そして見え始めた魔王軍内部の歪み。
物語はさらに大きく動き始めようとしていた。




