第22話 崩壊する工房
黒の工房は限界を迎えていた。
地下の魔石炉が暴走している。
天井は崩れ。
壁は割れ。
床の亀裂から黒い魔力が噴き出していた。
このまま放置すれば山そのものが吹き飛ぶ。
そんな状況だった。
◆◇◆
セレナ:「急ぎなさい!」
セレナ:「持ちません!」
フローネ:「こちらは避難完了しました!」
アスカ:「負傷者も誘導済みです!」
ガルデ:「こっちも終わった!」
残るは最後の区画だけだった。
地下牢獄。
まだ数十人が取り残されている。
ハヤトは全力で走る。
崩れ落ちる通路。
立ち込める煙。
その先。
鉄格子だらけの地下牢が見えた。
中には老人。
子供。
女性たち。
まだ残っている。
ハヤト:「待ってろ!」
囚人A:「勇者様!?」
囚人B:「本当に来た!」
ハヤトは剣を振るう。
鉄格子が吹き飛ぶ。
セレナなら器用に外すだろう。
フローネなら鍵を探すだろう。
だが。
ハヤトは勇者だった。
そして脳筋だった。
ドガァン!!
ドガァン!!
ドガァン!!
檻が次々と吹き飛ぶ。
老人:「豪快すぎる……。」
子供:「すごーい!」
ハヤト:「急げ急げ!」
ハヤト:「もうすぐ崩れるぞ!」
◆◇◆
その頃。
工房上層部。
剣王バルガスは崩壊する施設を見上げていた。
ガルデが睨む。
ガルデ:「おい。」
ガルデ:「あんた逃げねぇのか。」
バルガス:「必要ない。」
ガルデ:「化け物め。」
バルガス:「知っている。」
本人も認めた。
バルガスは視線を地下へ向ける。
勇者が見える。
瓦礫をどかし。
人を担ぎ。
走り回っている。
戦いよりも救助。
敵よりも人命。
バルガスは少しだけ目を細めた。
バルガス:「馬鹿だな。」
◆◇◆
地下牢。
最後の一人を救出した時だった。
天井が大きく揺れた。
ドゴォォォォォン!!
ハヤト:「うおっ!?」
巨大な岩塊が落下してくる。
直撃すれば終わりだった。
だが。
寸前で避ける。
しかし。
出口への通路が塞がれた。
ハヤト:「あ。」
囚人たちが青ざめる。
子供:「お兄ちゃん……。」
ハヤト:「大丈夫だ。」
ハヤト:「なんとかなる。」
全然根拠はなかった。
その時だった。
紫色の魔法陣が足元に現れる。
見覚えがあった。
ハヤト:「げ。」
ヴェルミナ:「げ、とは失礼ね。」
ハヤト:「なんでいるんだよ!」
ヴェルミナ:「通りすがり♡」
ハヤト:「絶対嘘だろ!」
ヴェルミナは周囲を見回す。
崩壊する牢獄。
取り残された人々。
そしてハヤト。
数秒後。
深々とため息を吐いた。
ヴェルミナ:「本当に馬鹿。」
ハヤト:「知ってる。」
ヴェルミナ:「知ってるなら直しなさい。」
ハヤト:「それは無理。」
ヴェルミナ:「でしょうね。」
次の瞬間。
ヴェルミナの魔力が広がる。
巨大な転移陣。
囚人たちを包み込む。
アスカの回復術ほどではない。
セレナの魔法ほど派手でもない。
だが。
美しい魔法だった。
ヴェルミナ:「全員まとめて送るわ。」
ハヤト:「できるのか?」
ヴェルミナ:「誰に言ってるの?」
少し得意げだった。
転移が始まる。
囚人たちが次々と消えていく。
子供も。
老人も。
全員。
そして最後。
ハヤトだけが残った。
ヴェルミナがこちらを見る。
ヴェルミナ:「行きなさい。」
ハヤト:「お前は?」
ヴェルミナ:「私は後で。」
ハヤト:「信用できねぇ。」
ヴェルミナ:「ひどい。」
その時だった。
天井が崩れた。
いや。
天井だけではない。
魔石炉そのものが爆発した。
黒い奔流。
暴走する魔力。
地下空間が一瞬で飲み込まれる。
ヴェルミナの顔色が変わった。
ヴェルミナ:「まず――」
言葉は最後まで続かなかった。
ドォォォォォォォン!!
大爆発。
工房全体が崩壊する。
外にいた全員が振り返った。
フローネ:「ハヤト!」
アスカ:「勇者!」
ガルデ:「馬鹿野郎!!」
セレナも顔色を変える。
◆◇◆
崩れ落ちる地下。
炎。
瓦礫。
黒い魔力。
ハヤトは吹き飛ばされていた。
意識が霞む。
だが。
見えた。
少し先。
崩れた柱の下。
ヴェルミナが動いていない。
ハヤト:「……おい。」
返事はない。
ヴェルミナの身体は大量の瓦礫に埋もれていた。
ハヤトは歯を食いしばる。
(敵だろ。)
(魔族だろ。)
(放っとけ。)
理性はそう言う。
だが。
身体は動いていた。
ハヤト:「くそっ!」
瓦礫へ飛び込む。
ヴェルミナの意識は朦朧としていた。
ぼやける視界。
感じる痛み。
(終わりかしら。)
そう思った。
次の瞬間だった。
誰かの腕が伸びる。
聞き慣れた声が聞こえた。
ハヤト:「おい!」
ヴェルミナ:「……。」
ハヤト:「何寝てんだ!」
ヴェルミナ:「馬鹿。」
ハヤト:「知ってる!」
ハヤトは彼女を抱え上げた。
ヴェルミナが目を見開く。
ヴェルミナ:「どうして……。」
ハヤト:「知らん!」
ヴェルミナ:「敵よ……。」
ハヤト:「だからどうした!」
その言葉に。
ヴェルミナは言葉を失った。
ハヤト:「目の前で死にそうな奴見捨てられるかよ!」
瓦礫が落ちる。
炎が迫る。
それでも。
勇者は走った。
全力で。
ただ助けるためだけに。
◆◇◆
工房の外。
転移魔法陣が炸裂する。
次の瞬間。
ハヤトとヴェルミナが飛び出してきた。
その直後。
黒の工房は完全に崩壊した。
山を震わせる轟音。
空を染める黒煙。
誰も言葉を失う。
倒れ込んだハヤトが息を吐く。
ヴェルミナも横たわっていた。
無事だった。
生きている。
フローネたちが駆け寄る。
ガルデ:「無茶しやがって!」
セレナ:「本当に馬鹿。」
アスカ:「呆れました。」
ハヤト:「知ってる……。」
みんな同じことを言う。
少し離れた場所。
ヴェルミナは静かにハヤトを見つめていた。
その顔は誰にも見えない。
だが。
胸の奥では。
何かが大きく変わり始めていた。
まだ本人も認めない。
認めたくない。
けれど。
確実に。
運命の歯車が動き出していた。




