第21話 剣王再び
黒の工房。
崩壊しかけた実験施設の中央で。
剣王バルガスが立っていた。
巨大な黒剣を肩に担ぎ。
相変わらず感情の読めない顔で周囲を見渡している。
その姿を見た瞬間。
ハヤトの背中に嫌な汗が流れた。
忘れるはずがない。
人生初の敗北。
何もできなかった相手。
四天王。
剣王バルガス。
バルガス:「また会ったな。」
ハヤト:「……ああ。」
バルガス:「少しは強くなったか?」
ハヤト:「分からない。」
バルガス:「そうか。」
会話はそれだけだった。
だが。
工房の空気が一気に張り詰める。
前回とは違う。
あの時の絶望を。
みんな覚えている。
ガルデが戦斧を構える。
ガルデ:「こいつが例の四天王か。」
セレナ:「正直。」
セレナ:「あまり戦いたくない相手ね。」
フローネも無言だった。
アスカですら緊張している。
ハヤトだけが一歩前へ出た。
ハヤト:「今度は逃げない。」
バルガス:「ほう。」
初めて。
ほんの少しだけ興味を示したようだった。
◆◇◆
導師はそんな様子を眺めていた。
導師:「予定外だ。」
導師:「だが観察にはちょうどいい。」
ハヤト:「てめぇ。」
導師:「安心しろ。」
導師:「私は下がる。」
導師はそう言うと転移魔法を展開する。
セレナ:「逃がすか!」
魔法を放つ。
だが。
届かない。
導師の身体は光に包まれる。
導師:「また会おう。」
導師:「勇者。」
消えた。
静寂。
残されたのは。
勇者パーティ。
実験体の怪物。
そして。
四天王バルガスだった。
◆◇◆
バルガスはゆっくり怪物を見る。
巨大な失敗作。
導師が生み出した化け物。
すると。
バルガスは一言だけ呟いた。
バルガス:「邪魔だ。」
次の瞬間。
黒剣が振られた。
ドォォォォォォン!!
怪物が真っ二つになった。
沈黙。
ハヤトも固まる。
ガルデも固まる。
フローネも固まる。
たった一撃だった。
さっきまで苦戦していた怪物が。
紙切れみたいに切り裂かれた。
バルガス:「導師は好かん。」
ハヤト:「奇遇だな。」
バルガス:「だが。」
バルガスの視線がこちらへ向く。
圧力。
まるで巨大な獣に睨まれたようだった。
バルガス:「お前にも興味はない。」
ハヤト:「そうかよ。」
バルガス:「だが。」
バルガス:「試してみる価値はある。」
黒剣が持ち上がる。
戦闘開始だった。
ハヤトが飛び出す。
今度は最初から全力。
前回みたいな慢心はない。
最速。
最大出力。
全身全霊。
剣が閃く。
ガキィン!!
受け止められる。
しかし。
前回とは違った。
バルガスの眉がわずかに動く。
バルガス:「なるほど。」
ハヤト:「っ!」
押し切れない。
だが押し負けない。
前回より明らかに戦えていた。
ガルデも突っ込む。
フローネが援護する。
セレナが魔法を重ねる。
アスカが強化術式を展開する。
そして。
初めてだった。
初めて。
バルガスがほんの少しだけ下がった。
セレナ:「効いてる!」
フローネ:「押してください!」
ハヤト:「おおおおおお!!」
しかし。
それでも四天王だった。
バルガスが剣を横薙ぎに振る。
轟音。
衝撃波。
全員が吹き飛ばされた。
壁が崩れる。
天井が落ちる。
ハヤトも地面を転がる。
ハヤト:「くっ……!」
ガルデ:「化け物か!」
バルガス:「弱い。」
その一言だけだった。
だが。
前回と違う。
誰も諦めていなかった。
誰も折れていなかった。
フローネも立つ。
セレナも。
アスカも。
ガルデも。
ハヤトは剣を握り直した。
ハヤト:(勝てない。)
(まだ勝てない。)
(でも。)
(負けっぱなしは嫌だ。)
その時だった。
工房全体が大きく揺れる。
ドゴゴゴゴ……!
セレナが顔色を変えた。
セレナ:「まずい!」
ハヤト:「何だ!?」
セレナ:「魔石炉が暴走してる!」
工房の地下。
導師が残した装置。
黒い魔石の精錬炉。
それが限界を迎えていた。
バルガスも天井を見上げる。
フローネ:「崩れます!」
ガルデ:「全員撤退だ!」
だが。
まだ残っていた。
地下。
牢獄区域。
助け出し切れていない人々がいる。
アスカ:「まだ避難が終わってません!」
ハヤトの顔色が変わる。
バルガスとの戦いどころじゃない。
今は。
人命救助だ。
ハヤト:「セレナ!」
セレナ:「分かってる!」
ハヤト:「フローネ!」
フローネ:「はい!」
ハヤト:「ガルデ!」
ガルデ:「おう!」
全員が動き出す。
救助のために。
そしてその時。
少し離れた崩れかけた足場の上で。
ヴェルミナが呟いた。
ヴェルミナ:「馬鹿ね。」
ヴェルミナ:「本当に。」
けれど。
その口元は少しだけ笑っていた。
◆◇◆
次回。
崩壊する黒の工房。
救出作戦。
そして。
ヴェルミナの運命を変えることになる最初の伏線が静かに動き始める。




