第20話 導師の実験
黒の工房。
導師が放った黒い魔力が空間を埋め尽くしていた。
床が軋む。
壁が震える。
ただ立っているだけなのに圧迫感が違う。
ハヤトは思わず顔をしかめた。
ハヤト:「なんだこいつ……。」
セレナ:「四天王じゃない。」
セレナ:「でも危険度は同等かもしれないわ。」
導師は静かに笑った。
導師:「光栄だ。」
導師:「それは褒め言葉として受け取ろう。」
導師の周囲に浮かぶ黒い魔石。
その数は数十個。
いや。
数百個だった。
アスカの顔色が悪くなる。
アスカ:「全部、人から作られたものです。」
フローネ:「そんな……。」
導師:「誤解だ。」
ハヤト:「どこがだ。」
導師:「私は進化を与えているだけだ。」
ハヤト:「進化?」
導師はまるで研究成果を自慢する学者のような顔をした。
導師:「弱い生き物は淘汰される。」
導師:「強い生き物だけが未来へ進める。」
導師:「私はその手助けをしている。」
沈黙。
ガルデが戦斧を肩へ担ぐ。
ガルデ:「気に入らねぇな。」
ハヤト:「奇遇だな。」
ハヤト:「俺もだ。」
導師が指を鳴らした。
その瞬間。
工房全体が揺れる。
ドォォォォン!!
地面の下から無数の叫び声が響いた。
ハヤト:「なんだ!?」
床が割れる。
巨大な地下空間が姿を現した。
そこにいたのは。
失敗作たちだった。
数十体。
いや百体近い。
黒い魔石を埋め込まれた人々。
巨大化した腕。
魔物のような牙。
黒く染まった瞳。
かつて人だった存在。
アスカが口元を押さえた。
アスカ:「酷い……。」
フローネも歯を食いしばる。
セレナ:「狂ってる。」
導師は首を傾げた。
導師:「そうか?」
導師:「私は素晴らしい成果だと思うが。」
ハヤトの中で何かが切れた。
ここまで露骨な悪意は初めてだった。
命を玩具にする人間。
いや。
人間ですらない。
ハヤト:「お前。」
導師:「なんだ。」
ハヤト:「嫌いだ。」
導師が少し驚く。
本当に少しだけ。
導師:「そうか。」
ハヤト:「今まで会った中で一番嫌いだ。」
導師:「それは残念だ。」
まったく残念そうではなかった。
◆◇◆
戦闘が始まる。
失敗作たちが押し寄せる。
ハヤトが飛び込む。
フローネが援護する。
ガルデが正面から吹き飛ばす。
セレナの魔法が炸裂する。
アスカが浄化術式を展開した。
だが数が多い。
多すぎる。
ハヤト:「邪魔だぁぁぁ!」
剣が閃く。
三体。
五体。
十体。
次々と吹き飛ぶ。
だが。
その度に違和感があった。
被験者たちは苦しそうだった。
怒っているわけではない。
怯えている。
泣いている。
助けを求めている。
ハヤト:(クソっ。)
(こんなの倒しても。」
(全然スッキリしねぇ。)
その時だった。
導師が魔法陣を展開する。
巨大な術式だった。
セレナの顔色が変わる。
セレナ:「まずい!」
ハヤト:「何が!?」
セレナ:「魔石を暴走させる気よ!」
導師が両手を広げる。
導師:「観察終了だ。」
導師:「では回収しよう。」
黒い光。
失敗作たちが悲鳴を上げる。
身体が膨れ上がる。
融合が始まった。
ガルデ:「冗談だろ!?」
フローネ:「下がってください!」
異形たちが一つになる。
巨大な肉塊。
漆黒の怪物。
工房の天井へ届くほどの巨体だった。
導師は満足そうに頷く。
導師:「試作品第三号。」
導師:「起動確認。」
ハヤト:「ふざけんな!!」
怒鳴る。
怪物へ向かって走る。
今までで一番速かった。
導師はその姿を眺める。
興味深そうに。
観察するように。
そして。
小さく呟いた。
導師:「やはり。」
導師:「勇者は特別だ。」
その時、工房の外から巨大な衝撃が響く。
ドゴォォォォォン!!
全員が振り向く。
壁が吹き飛ぶ。
セレナが目を見開いた。
フローネも固まる。
ガルデが低く唸った。
ハヤトも見上げる。
そこに立っていたのは。
巨大な黒剣を肩に担いだ男だった。
二メートルを超える巨体。
圧倒的な威圧感。
忘れるはずがない。
剣王バルガスだった。
導師が笑う。
導師:「いいタイミングだ。」
バルガスは周囲を見る。
怪物。
勇者。
導師。
そして。
一言だけ呟いた。
バルガス:「うるさい。」
次の瞬間。
黒剣が振られる。
工房そのものを切断するかのような一撃。
勇者パーティ全員の顔色が変わった。
そして。
少し離れた岩壁の上では。
戦場を眺めるヴェルミナの姿があった。
ヴェルミナ:「あらあら。」
ヴェルミナ:「最悪の組み合わせね。」
彼女でさえ。
笑みを消していた。




