第19話 黒の工房
北方山岳地帯。
勇者パーティは険しい山道を進んでいた。
空気は冷たい。
吐く息は白い。
獣王国よりさらに北。
人の気配すら少ない辺境だった。
ハヤト:「寒い。」
ガルデ:「軟弱だな。」
ハヤト:「寒いもんは寒い!」
ガルデ:「若いんだから我慢しろ。」
ハヤト:「若いのと寒いのは別問題だろ!」
フローネが苦笑する。
セレナは平然としている。
エルフだからなのか、寒さに強いらしい。
アスカも意外と平気そうだった。
◆◇◆
昼過ぎ。
前方に巨大な岩山が見えてきた。
その中腹。
不自然な人工物があった。
石造りの建物。
高い煙突。
立ち上る黒煙。
セレナの顔が険しくなる。
セレナ:「見つけた。」
フローネ:「工房ですか。」
アスカ:「嫌な気配がします。」
ガルデ:「間違いなさそうだな。」
ハヤトも真顔になる。
さすがに分かる。
あそこから黒い魔力が漏れ出していた。
◆◇◆
一行は岩陰から様子を窺った。
工房の周囲には武装した兵士たち。
さらに魔物の姿もある。
そして。
荷車が次々と出入りしていた。
ハヤト:「結構大規模だな。」
セレナ:「思った以上ね。」
アスカ:「村一つでは済みません。」
フローネ:「各地へ魔石を流しているのでしょう。」
ガルデが舌打ちする。
ガルデ:「胸糞悪いな。」
その時だった。
荷車から何かが降ろされる。
人だった。
痩せた男たち。
女性たち。
子供までいる。
全員が鎖で繋がれていた。
ハヤトの顔色が変わる。
ハヤト:「おい。」
フローネも剣を握る。
セレナの声が低くなる。
セレナ:「実験材料ね。」
アスカ:「そんな……。」
黒い魔石を作る研究。
そのために人間が使われている。
そういうことだった。
ハヤトの拳が震える。
怒りだった。
今までの戦いとは少し違う。
胸の奥が熱くなる。
ハヤト:「助けるぞ。」
フローネ:「ハヤト。」
ハヤト:「待てない。」
ハヤト:「あんなの。」
ハヤト:「放っておけるか。」
ガルデが笑った。
ガルデ:「そういうと思った。」
セレナも肩をすくめる。
セレナ:「無茶はしないで。」
アスカ:「援護します。」
結論はすぐに出た。
突入である。
◆◇◆
夜。
工房内部。
警備兵たちは油断していた。
こんな山奥に敵が来るとは思わない。
だが。
それが間違いだった。
ハヤト:「行くぞ。」
次の瞬間。
勇者が飛び込んだ。
ドォォォォォン!!
正面ゲートが吹き飛ぶ。
兵士たちが慌てて武器を構えた。
兵士A:「敵襲!!」
兵士B:「何者だ!?」
ハヤト:「勇者だ!」
兵士B:「最悪だ!!」
戦闘が始まった。
ハヤトの剣が閃く。
兵士が吹き飛ぶ。
ガルデの斧が唸る。
壁が砕ける。
フローネは正確に敵を制圧する。
セレナは魔法で退路を封鎖する。
アスカは捕らわれた人々の保護を始めた。
完全に連携が取れていた。
だが。
敵も馬鹿ではない。
工房中央。
巨大な扉が開く。
その奥から。
異形が現れた。
ハヤト:「なんだあれ。」
フローネが息を呑む。
ガルデも顔をしかめた。
それは人間だった。
だが。
身体中に黒い魔石が埋め込まれている。
腕は巨大化し。
片目は黒く染まり。
もはや魔物だった。
異形が咆哮する。
グォォォォォ!!
天井が震える。
アスカ:「被験者です!」
セレナ:「最悪ね……!」
つまり。
失敗作だった。
黒い魔石の実験を繰り返され。
人ですらなくなった存在。
ハヤトの表情から笑みが消える。
異形が突進する。
速い。
しかし。
ハヤトも動いた。
ドガァァァン!!
正面衝突。
工房全体が震える。
ハヤト:「うおおおおっ!!」
異形:「グォォォ!!」
力比べ。
周囲が吹き飛ぶ。
それでも。
少しずつ押し返したのはハヤトだった。
だが。
その瞬間。
奥から声が響く。
男:「興味深い。」
全員が振り向いた。
白い仮面。
黒いローブ。
長身の男。
静かな拍手。
導師だった。
導師は壊れた実験体を見る。
そして。
ハヤトを見る。
導師:「やはり本物か。」
ハヤト:「お前が導師か。」
導師:「そう呼ばれている。」
声に感情がない。
まるで人形だった。
導師の視線が勇者へ向く。
導師:「勇者ハヤト。」
導師:「実験対象として非常に魅力的だ。」
沈黙。
ハヤトの顔が引きつる。
ハヤト:「絶対仲良くなれないタイプだな。」
次の瞬間。
導師の周囲に無数の黒い魔石が浮かび上がる。
セレナの顔色が変わった。
セレナ:「下がりなさい!」
フローネ:「まずい!」
ガルデ:「来るぞ!」
導師が微笑む。
初めてだった。
導師:「では見せてもらおう。」
導師:「勇者の価値を。」
黒い光が解き放たれる。
工房全体を飲み込もうとするほどの魔力。
勇者パーティは咄嗟に構える。
そして。
この戦いこそが。
四天王との戦いへ繋がる。
第二幕最初の大きな転換点となるのだった。




