第18話 北へ
獣王国での事件が解決してから三日後。
勇者パーティは再び旅に出ていた。
目的地は北方地方。
黒い魔石の出所。
そして謎の人物『導師』の手掛かりを追うためだ。
ガルデも同行していた。
正式なパーティ加入ではない。
だが。
誰がどう見ても仲間だった。
山道を進みながらハヤトは空を見上げる。
ハヤト:「平和だな。」
フローネ:「そうですね。」
ハヤト:「このまま何事もなく着かないかな。」
セレナ:「絶対無理ね。」
アスカ:「同感です。」
ガルデ:「お前がいる時点で何か起きる。」
ハヤト:「酷くない!?」
全員が頷いた。
◆◇◆
昼頃。
山道の途中で小さな村へ立ち寄った。
補給のためだった。
だが。
村の様子がおかしい。
人が少ない。
活気もない。
兵士まで配置されている。
フローネが眉をひそめた。
フローネ:「妙ですね。」
ガルデ:「警戒してるな。」
アスカ:「怯えている人もいます。」
ハヤト:「なんかあったのか?」
事情はすぐに分かった。
宿屋の主人が教えてくれたのだ。
主人:「最近な。」
主人:「この辺に魔物が出るんだ。」
ハヤト:「魔物ならどこにでもいるだろ?」
主人:「違う。」
主人は声を潜めた。
主人:「人を襲わねぇんだ。」
セレナ:「は?」
主人:「家畜も襲わねぇ。」
主人:「ただ山をうろついてるだけなんだ。」
ガルデが首を傾げる。
ガルデ:「そんな魔物いるのか?」
主人:「分からねぇ。」
主人:「でもみんな気味悪がってる。」
◆◇◆
その夜。
ハヤトたちは村外れで野営をしていた。
焚き火が揺れる。
ガルデは肉を焼いている。
セレナは本を読んでいる。
アスカは祈っている。
フローネは見張り。
いつもの光景だった。
ハヤトも肉を頬張る。
ハヤト:「うまい。」
ガルデ:「もっと食うか?」
ハヤト:「食う。」
ガルデ:「育ち盛りだな。」
ハヤト:「まだ十八だし。」
ガルデ:「ガキだな。」
ハヤト:「勇者に向かって。」
ガルデ:「エロガキだろ。」
ハヤト:「否定できない!」
その時だった。
フローネが立ち上がる。
フローネ:「誰かいます。」
空気が変わる。
セレナが本を閉じる。
アスカも祈りを止めた。
ガルデが戦斧を掴む。
静寂。
森の奥から足音が聞こえた。
カサッ。
カサカサッ。
そして。
姿を現した。
狼だった。
大きな灰色狼。
だが魔物ではない。
普通の狼に見える。
ただ一つ。
異常な点があった。
その身体には黒い結晶が埋め込まれていた。
ハヤト:「あれ。」
アスカ:「黒い魔石です。」
セレナ:「また……。」
狼はこちらを見た。
だが。
襲ってこない。
ただ見ている。
苦しそうだった。
ハヤトは妙な違和感を覚えた。
狼の目だった。
敵意がない。
怯えている。
まるで助けを求めているみたいだった。
ハヤト:(なんだこいつ。)
(怖がってる?)
ガルデ:「斬るか?」
ハヤト:「待て。」
ガルデ:「危険だぞ。」
ハヤト:「分かってる。」
狼が小さく唸る。
だが逃げない。
その場で震えている。
アスカが目を閉じた。
アスカ:「苦しんでいます。」
セレナ:「やっぱり魔石の影響ね。」
フローネ:「なら破壊できれば?」
ハヤトが立ち上がる。
狼が警戒する。
だが。
ハヤトは剣を抜かなかった。
ゆっくり近づく。
ハヤト:「大丈夫だ。」
ガルデ:「おい。」
ハヤト:「噛まれたらその時考える。」
フローネ:「考えないでください。」
狼との距離が縮まる。
緊張する。
少し怖い。
だが。
狼は動かなかった。
ハヤトはそっと手を伸ばす。
狼が震える。
その首元。
黒い魔石。
ハヤト:「よし。」
次の瞬間。
勇者の拳が魔石を殴り飛ばした。
パキンッ!
乾いた音。
魔石が砕ける。
狼が悲鳴を上げた。
そして。
倒れた。
数秒後。
狼はゆっくり立ち上がった。
瞳の黒い濁りが消えている。
苦しそうな呼吸も落ち着いた。
狼はハヤトを見る。
尻尾を一度振った。
そして。
森の奥へ走り去っていった。
静寂。
ガルデが呆然と呟く。
ガルデ:「助けたのか?」
ハヤト:「多分。」
セレナは考え込んでいた。
セレナ:「おかしいわ。」
アスカも頷く。
アスカ:「ええ。」
フローネ:「何がですか?」
セレナは砕けた魔石の欠片を拾う。
真剣な顔だった。
セレナ:「今までの魔石より不完全なの。」
アスカ:「試作品……。」
ハヤト:「試作品?」
ガルデ:「誰か作ってるってことか。」
セレナ:「そういうこと。」
嫌な予感しかしない。
◆◇◆
その夜。
皆が眠った後。
遠く離れた崖の上。
二つの人影があった。
一人はヴェルミナ。
そしてもう一人。
白い仮面を付けた男だった。
導師:「勇者はどうだ。」
ヴェルミナ:「面白いわよ。」
導師:「感想ではない。」
ヴェルミナは肩をすくめる。
ヴェルミナ:「予想より強い。」
ヴェルミナ:「予想より甘い。」
ヴェルミナ:「予想より馬鹿。」
導師:「そうか。」
仮面の男は静かに笑った。
導師:「なら利用価値はある。」
ヴェルミナの表情が少しだけ曇る。
導師は北の空を眺める。
導師:「そろそろ始めよう。」
導師:「次の実験を。」
その声は静かだった。
だが。
どこまでも不気味だった。
◆◇◆
翌朝。
何も知らない勇者パーティは北を目指して歩き出す。
まだ知らない。
自分たちが向かう先こそ。
黒い魔石の生産工房であり。
導師の実験場であり。
そして。
勇者ハヤトが初めて世界の闇に触れる場所になることを。




