第16話 魔族の真実
獣王国内戦は終結へ向かっていた。
反乱軍の多くは武器を置き。
捕らえられた兵士たちも事情が明らかになっていく。
ゼルグの暴走もまた、魔王軍が持ち込んだ黒い魔石によるものだった。
王都は少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
◆◇◆
その日の昼。
ハヤトたちは王城の会議室に集まっていた。
ガルデ。
獣王。
王女。
そして勇者パーティ。
全員の表情は真剣だった。
ハヤトだけ少し違った。
ハヤト:(王女様美人だな。)
アスカ:「集中してください。」
ハヤト:「なんで分かるんだよ!」
ガルデ:「お前だからだ!」
王女が立ち上がる。
王女:「反乱軍の調査で分かったことがあります。」
部屋が静かになった。
王女:「魔王軍から武器を受け取っていた勢力は確かにありました。」
フローネ:「やはり。」
王女:「ですが。」
王女の表情は微妙だった。
王女:「不自然な点もあります。」
セレナ:「不自然?」
王女:「ええ。」
机の上に何枚もの資料が並べられる。
地図。
証言記録。
戦況報告。
王女:「魔王軍は本来もっと大きな被害を出せたはずです。」
王女:「それなのに。」
王女:「妙に中途半端なのです。」
ハヤトが首を傾げた。
ハヤト:「どういうことだ?」
ゼルグが口を開く。
怪我はまだ完治していない。
それでも説明役を買って出た。
ゼルグ:「俺を勧誘した魔族がいた。」
ガルデ:「ヴェルミナか。」
ゼルグ:「いや。」
ゼルグ:「別の奴だ。」
全員が耳を傾ける。
ゼルグ:「そいつは言っていた。」
ゼルグ:「人間は敵じゃないと。」
沈黙。
ハヤトが思わず聞き返す。
ハヤト:「は?」
フローネも驚いていた。
セレナも同じだ。
ゼルグ:「魔王軍にも色々いるらしい。」
ゼルグ:「戦いたくない奴。」
ゼルグ:「人間を嫌っていない奴。」
ゼルグ:「そういう連中もいる。」
ハヤトは腕を組んだ。
(なんだそれ。)
(魔族って人類の敵じゃないのか?)
王女が続ける。
王女:「実際。」
王女:「反乱軍へ接触していた魔族の一部は、被害を抑えようとしていました。」
フローネ:「そんな……。」
常識が揺らぐ話だった。
◆◇◆
その夜。
ハヤトは一人で王都を歩いていた。
考え事をしていたのだ。
魔族。
魔王軍。
敵。
ずっとそう思っていた。
だが。
今日聞いた話は違う。
ハヤト:(よく分からんな。)
(敵じゃない魔族もいる?)
(じゃあ何のために戦ってるんだ?)
声が聞こえた。
女性:「悩み事?」
ハヤト:「うおっ!?」
振り返る。
いた。
屋根の上に。
月明かりに照らされた紫髪の美女。
ヴェルミナだった。
ハヤト:「またお前か!」
ヴェルミナ:「また私よ♡」
ハヤト:「敵地に普通来るか?」
ヴェルミナ:「来ちゃった。」
ハヤト:「可愛く言うな。」
ヴェルミナは笑う。
本当に楽しそうに。
ヴェルミナは屋根から飛び降りる。
軽やかに着地した。
相変わらず美人だった。
ハヤトは少しだけ視線を逸らす。
ヴェルミナが気付いた。
ヴェルミナ:「あら。」
ヴェルミナ:「照れてる?」
ハヤト:「照れてない。」
ヴェルミナ:「可愛い。」
ハヤト:「うるさい。」
顔が少し赤い。
ヴェルミナはくすくす笑う。
ヴェルミナ:「ねぇ勇者。」
ハヤト:「なんだ。」
ヴェルミナ:「魔族って悪い奴だと思う?」
ハヤトは少し考えた。
そして正直に答えた。
ハヤト:「分からなくなった。」
ヴェルミナの笑顔が少しだけ変わる。
どこか嬉しそうだった。
ヴェルミナ:「魔族にも色々いるの。」
ヴェルミナ:「人間と一緒。」
ヴェルミナ:「良い奴もいるし。」
ヴェルミナ:「どうしようもない奴もいる。」
ハヤト:「お前は?」
ヴェルミナ:「どう思う?」
ハヤト:「美人。」
ヴェルミナが吹き出した。
ヴェルミナ:「なによそれ。」
ハヤト:「正直な感想。」
ヴェルミナ:「馬鹿ね。」
◆◇◆
少しだけ。
沈黙が続いた。
不思議だった。
敵同士のはずなのに。
なぜか空気は穏やかだった。
ヴェルミナが夜空を見る。
ヴェルミナ:「そのうち。」
ヴェルミナ:「面白いものが見えるかもしれない。」
ハヤト:「何だよそれ。」
ヴェルミナ:「秘密。」
次の瞬間。
紫色の魔法陣が現れる。
転移だ。
ハヤトが手を伸ばす。
ハヤト:「待て!」
ヴェルミナ:「また会いましょう♡」
消えた。
◆◇◆
静かな夜。
ハヤトは一人残される。
風が吹く。
星が輝く。
ハヤト:(変な奴だな。)
確かに敵だ。
魔族だ。
危険人物だ。
でも。
今日だけは少し違った。
(本当に敵なのか……?)
そんな疑問が初めて心に生まれていた。
だが。
その答えを知るにはまだ早い。
四天王。
魔王。
そして世界の真実。
本当の物語は。
ようやく動き始めたばかりなのだから。




