第15話 暴走将軍
獣王国王城。
暴走した将軍ゼルグが咆哮を上げる。
黒い魔力が全身から噴き出し、大広間の壁や床を次々と破壊していた。
兵士たちは近付くことすらできない。
ガルデが歯ぎしりする。
ガルデ:「くそっ!」
ガルデ:「ゼルグ!」
だが返事はなかった。
理性はもう残っていない。
瞳は真っ黒に染まり、まるで魔物だった。
ハヤトは剣を構える。
ハヤト:(操られてるだけなんだよな。)
(だったら助けられるはずだ。)
セレナ:「考えてることは分かるけど。」
セレナ:「あまり期待しない方がいいわよ。」
アスカ:「首の魔石ですね。」
フローネ:「あれを破壊できれば。」
ガルデ:「助かるのか?」
アスカは少し考える。
アスカ:「分かりません。」
アスカ:「ですが可能性はあります。」
ガルデが拳を握った。
ガルデ:「十分だ。」
ゼルグが飛び上がる。
巨体とは思えない速度だった。
次の瞬間。
戦斧が振り下ろされる。
ドォォォォン!!
床が吹き飛んだ。
ハヤト:「危なっ!?」
フローネ:「勇者様!」
ハヤト:「分かってる!」
ゼルグとの距離を詰める。
しかし。
今のゼルグは異常だった。
バルガスほどではない。
だが明らかに本来の強さを超えている。
ハヤト:(魔石か。)
(あれが強化してるんだな。)
ガルデが横から突っ込む。
ガルデ:「おおおおおっ!!」
戦斧同士が激突する。
轟音。
ガルデの両足が床へ沈む。
それでも耐えた。
ゼルグ:「グルルル……!」
ガルデ:「戻って来い!」
ガルデ:「馬鹿野郎!」
返事はない。
巨大な拳がガルデを吹き飛ばした。
壁が砕ける。
ハヤト:「ガルデ!」
ガルデ:「まだだ!」
瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。
流石だった。
頑丈すぎる。
◆◇◆
その隙にセレナが魔法を展開していた。
巨大な魔法陣。
青白い光が広がる。
セレナ:「十秒稼ぎなさい!」
ハヤト:「了解!」
フローネ:「行きます!」
ハヤトとフローネが同時に飛び出す。
ゼルグの攻撃を引き付ける。
避ける。
受け流す。
耐える。
だが苦しい。
圧倒的な力だった。
フローネ:「右!」
ハヤト:「おう!」
二人の連携で何とか持ち堪える。
その時。
窓の外から拍手が聞こえた。
ヴェルミナ:「頑張るわねぇ♡」
ハヤト:「うるさい!」
ヴェルミナ:「冷たい。」
ハヤト:「敵だろ!」
ヴェルミナ:「そうだったかしら?」
フローネ:「迷惑ですので帰ってください!」
ヴェルミナ:「やだ。」
まったく緊張感がない。
だが。
その視線だけは真剣だった。
彼女も魔石の異常性に気付いている。
そんな顔だった。
セレナの魔法が完成する。
セレナ:「できた!」
巨大な光の鎖が飛び出した。
ゼルグの四肢を拘束する。
ゼルグ:「ガアアアアア!!」
ハヤト:「今だ!」
フローネ:「勇者様!」
ガルデ:「やれ!」
ハヤトが駆ける。
全力だった。
これまでの旅。
積み重ねた経験。
身体の奥から力が湧いてくる。
本人はまだ知らない。
自身のレベルがとっくに五十を超えていることも。
今も成長し続けていることも。
ただ。
仲間を助けたい。
その気持ちだけだった。
ハヤト:「うおおおおお!!」
剣が閃く。
狙いは首筋。
黒い魔石。
一撃。
ガキィン!!
火花が散る。
硬かった。
ハヤト:「くそっ!」
もう一度。
さらにもう一度。
三撃目。
ついに魔石へ亀裂が走った。
ゼルグの身体が震える。
アスカ:「あと少しです!」
ハヤト:「任せろ!」
最後の一撃。
勇者の剣が振り下ろされる。
パリン――
甲高い音が響いた。
黒い魔石が砕け散る。
次の瞬間。
暴走していた魔力が霧散した。
ゼルグの身体が崩れ落ちる。
沈黙。
誰も動かなかった。
ガルデが駆け寄る。
ガルデ:「ゼルグ!」
ゼルグの瞳には理性が戻っていた。
苦しそうに笑う。
ゼルグ:「隊長……。」
ガルデ:「馬鹿野郎。」
ガルデ:「心配させやがって。」
ゼルグ:「すまん。」
王女も駆け寄った。
王女:「よかった……。」
目に涙を浮かべている。
ゼルグは申し訳なさそうに目を伏せた。
ゼルグ:「姫様……。」
ゼルグ:「俺は……。」
王女:「後で聞きます。」
王女:「だから今は休んでください。」
ゼルグは小さく頷いた。
事件は終わった。
だが。
屋根の上で見ていたヴェルミナは静かに笑う。
ヴェルミナ:「なるほどね。」
ヴェルミナ:「やっぱり面白い。」
ハヤト:「だから何なんだお前。」
ヴェルミナ:「別に?」
ヴェルミナ:「ちょっと気になっただけ♡」
そう言うと姿が霞み始める。
転移魔法だった。
ハヤト:「待て!」
ヴェルミナ:「また会いましょう。」
ヴェルミナ:「勇者様♡」
消えた。
静寂が戻る。
◆◇◆
その夜。
王城では祝宴が開かれた。
ゼルグ救出。
反乱軍の真相。
そして魔王軍の介入。
全てが明らかになり始めていた。
ガルデは酒を飲みながら豪快に笑う。
ガルデ:「助かったぜ!」
ガルデ:「お前ら!」
ハヤト:「おう!」
ガルデ:「特にハヤト!」
ガルデ:「よくやった!」
思い切り背中を叩かれる。
ハヤト:「痛い!」
ガルデ:「はははは!」
フローネが呆れる。
セレナが笑う。
アスカは静かに紅茶を飲む。
そしてハヤトは思う。
(こういうの悪くないな。)
仲間がいて。
笑い合えて。
誰かを助けられて。
そんな時間が少しだけ嬉しかった。
だが同時に。
四天王バルガス。
黒い魔石。
そしてヴェルミナの言葉。
魔王軍は確実に動いている。
本当の戦いはまだ始まったばかりだった。




