第14話 四天王の影
獣王国王都。
王城大広間。
反乱軍将軍ゼルグ。
そして屋根の上で微笑むヴェルミナ。
状況は最悪だった。
ハヤトだけを除いて。
ハヤト:「あっ、美人だ。」
フローネ:「敵です。」
セレナ:「敵よ。」
アスカ:「敵ですね。」
ガルデ:「敵だっつってんだろこのエロガキが!」
ハヤト:「でも美人。」
全員がため息を吐いた。
屋根の上のヴェルミナは楽しそうに手を振った。
ヴェルミナ:「こんばんは♡」
ハヤト:「こんばんは。」
フローネ:「返事しないでください!」
ヴェルミナ:「ひどい。」
ヴェルミナ:「せっかく挨拶したのに。」
アスカが目を細めた。
アスカ:「危険です。」
セレナ:「かなりね。」
ヴェルミナから感じる魔力。
ただの魔族ではない。
それだけは誰にでも分かった。
だが今はそれどころではない。
ゼルグが戦斧を構えた。
巨大な筋肉。
巨大な武器。
まるで歩く要塞だった。
ゼルグ:「勇者。」
ゼルグ:「邪魔をするな。」
ハヤト:「断る。」
ゼルグ:「そうか…」
次の瞬間。
地面が爆発した。
ゼルグが突っ込んでくる。
速い。
巨体とは思えない速度だった。
ハヤトも反射的に剣を振る。
ガァァン!!
凄まじい衝撃。
大広間の床がひび割れる。
ハヤト:「重っ!?」
ゼルグ:「それなりだな。」
ハヤト:「そっちもな!」
◆◇◆
今度はガルデが飛び出した。
巨大な戦斧。
同じ獣人。
同じ豪快な戦い方。
まるで鏡だった。
ガルデ:「ゼルグ!」
ゼルグ:「ガルデ!」
武器が激突する。
轟音。
衝撃波。
近くの窓ガラスが吹き飛んだ。
ハヤト:「なんかすごいな。」
セレナ:「呑気な感想ね。」
二人の激突はまさしく怪獣同士だった。
壁が壊れる。
床が砕ける。
兵士たちは近寄れない。
ガルデが斧を振るう。
ゼルグが受ける。
その逆もだ。
ガルデ:「何で反乱なんか起こした!」
ゼルグ:「王家が腐ったからだ!」
ガルデ:「嘘つけ!」
ゼルグ:「俺は見た!」
ハヤトは少し違和感を覚えた。
(ん?)
(なんか変だな。)
(本気で悪人って感じがしない。)
◆◇◆
その時だった。
王女が前へ出る。
栗色の髪を揺らしながら叫んだ。
王女:「やめてください!」
ガルデも。
ゼルグも。
一瞬だけ動きを止める。
王女:「あなたはこんな人じゃなかった!」
ゼルグの顔が歪んだ。
王女:「どうして戦うんです!」
ゼルグ:「姫様。」
低い声だった。
苦しそうだった。
そして。
どこか悲しそうだった。
その瞬間。
黒い光が走った。
全員が目を見開く。
ゼルグの首筋。
黒い結晶が埋め込まれている。
今まで鎧で見えなかった。
アスカ:「あれは!」
セレナ:「魔石!?」
フローネの顔色が変わる。
フローネ:「操られている!?」
ゼルグの表情が苦痛に歪んだ。
ゼルグ:「ぐっ……!」
頭を押さえる。
黒い魔力が漏れ始める。
◆◇◆
屋根の上。
ヴェルミナが笑っていた。
ヴェルミナ:「あら。」
ヴェルミナ:「気付いちゃった。」
ハヤト:「お前か!」
ヴェルミナ:「半分正解。」
ハヤト:「半分?」
ヴェルミナは肩をすくめる。
ヴェルミナ:「私じゃないわ。」
ヴェルミナ:「もっと上。」
セレナの表情が険しくなる。
セレナ:「四天王……。」
ヴェルミナは答えなかった。
しかしその笑みが答えだった。
ゼルグが苦しそうに膝をつく。
ガルデが駆け寄ろうとする。
だが。
黒い魔力が爆発した。
ドォォォォン!!
巨大な衝撃波。
全員が吹き飛ばされる。
ハヤトも床を転がった。
王女が悲鳴を上げる。
王女:「ゼルグ!」
ゼルグの瞳が完全に黒く染まった。
理性が消えている。
ゼルグ:「グルルル……。」
セレナ:「まずい!」
アスカ:「完全に暴走してます!」
巨大な魔力。
常識外れの圧力。
ハヤトですら顔をしかめる。
だが。
次の瞬間。
ハヤトは笑った。
ハヤト:「なるほどな。」
フローネ:「勇者様?」
ハヤト:「あいつ助ければいいんだろ。」
セレナ:「簡単に言うわね。」
ハヤト:「簡単じゃない。」
ハヤト:「でも。」
ハヤトは剣を構える。
ハヤト:「助けられるなら助ける。」
その言葉に。
一瞬だけ。
ヴェルミナの笑みが消えた。
ヴェルミナは小さく呟く。
ヴェルミナ:「馬鹿ね。」
ヴェルミナ:「本当に。」
だがその目は。
少しだけ優しかった。
そして。
少しだけ興味深そうだった。
この時。
まだ誰も知らない。
数か月後。
この魔族の美女自身が死にかけた時。
ハヤトが同じ言葉を言うことを。
そしてその瞬間。
ヴェルミナの運命が大きく変わることを。
◆◇◆
暴走したゼルグが咆哮する。
王城が震える。
ガルデが戦斧を握る。
フローネが前へ出る。
セレナが魔法陣を展開する。
アスカが祈る。
そして勇者ハヤトは笑う。
ハヤト:「行くぞ!」
暴走した獣人将軍。
魔王軍の陰謀。
そして四天王へ繋がる手掛かり。
獣王国内戦は今。
新たな局面を迎えようとしていた。




