第11話 獣人国への道
勇者パーティ結成から一週間後。
ハヤトたちは王都へ戻っていた。
久しぶりの王城である。
ハヤトは懐かしそうに周囲を見回した。
ハヤト:「帰ってきたなぁ。」
フローネ:「まだ一か月も経っていませんが。」
セレナ:「もう何年も旅した気分なの?」
アスカ:「中身が子供ですから。」
ハヤト:「全員ひどくない?」
誰も否定しなかった。
◆◇◆
王城の会議室。
国王とリーフィアが待っていた。
リーフィアは四人を見るなり微笑む。
リーフィア:「無事で何よりですわ。」
ハヤト:「ただいま!」
リーフィア:「フローネ。」
フローネ:「はい。」
リーフィア:「報告書は?」
フローネ:「こちらに。」
リーフィア:「勇者様。」
ハヤト:「はい。」
リーフィア:「報告書は?」
ハヤト:「ありません!」
リーフィア:「でしょうね。」
◆◇◆
敗戦の報告。
四天王バルガスの脅威。
各地の状況。
会議は長時間続いた。
だがその最後。
リーフィアが新しい地図を広げる。
そこに描かれていたのは広大な山脈だった。
ハヤト:「どこだこれ。」
リーフィア:「獣王国ガルム。」
セレナの表情が変わる。
セレナ:「獣人国?」
リーフィアが頷く。
リーフィア:「現在、獣王国で内戦が起きています。」
ハヤト:「内戦?」
リーフィア:「王位継承問題ですわ。」
フローネが眉をひそめた。
フローネ:「最悪ですね。」
リーフィア:「ええ。」
リーフィア:「そしてその混乱に魔王軍が関与している可能性があります。」
ハヤト:「つまり。」
ハヤト:「俺たちの出番か。」
リーフィア:「その通りですわ。」
◆◇◆
会議終了後。
ハヤトは城下町を歩いていた。
なんとなく一人になりたかったのだ。
リーフィアとの別れ際の言葉を思い出す。
リーフィア:「気を付けてくださいまし。」
リーフィア:「あなたは無茶をしますから。」
少しだけ心配そうだった。
(王女様優しいな。)
(ちょっと脈あるんじゃないか?)
アスカ:「ありません。」
背後から声がした。
ハヤトが飛び上がる。
ハヤト:「うわっ!?」
アスカ:「何ですかその反応。」
ハヤト:「いたのかよ!」
アスカ:「いました。」
ハヤト:「心臓に悪い。」
アスカ:「先程から王女ばかり見ていましたね。」
ハヤト:「見てない。」
アスカ:「嘘です。」
ハヤト:「見てた。」
アスカ:「正直ですね。」
◆◇◆
翌朝。
勇者パーティは出発した。
目的地は獣王国ガルム。
国内最大の獣人国家。
そして。
後に第五のヒロインとなる人物との出会いの地でもある。
もちろん今のハヤトは知らない。
◆◇◆
旅は順調だった。
いや。
順調すぎた。
ハヤト:「平和だな。」
フローネ:「そうですね。」
ハヤト:「魔物も出ないし。」
セレナ:「そうね。」
ハヤト:「美女もいないし。」
アスカ:「最後で台無しです。」
その時だった。
前方から馬車がやって来る。
護衛付きの豪華な馬車だ。
ハヤトが何気なく眺めていると。
窓が開いた。
若い女性だった。
かなり美人だった。
ハヤト:「おっ。」
女性と目が合う。
女性が微笑む。
ハヤトも微笑む。
女性が手を振る。
ハヤトも全力で振る。
女性が閉める。
終わった。
ハヤト:「見た?」
フローネ:「何をですか。」
ハヤト:「今の。」
セレナ:「馬車ね。」
ハヤト:「絶対脈あった。」
アスカ:「ありません。」
ハヤト:「どうして!?」
◆◇◆
その日の夜。
山中で野営を行うことになった。
焚き火を囲む四人。
セレナは魔導書を開いている。
アスカは祈りを捧げている。
フローネは剣の手入れ中だ。
ハヤトだけが暇だった。
ハヤト:(つまらんな。)
(なんかイベント起きないかな。)
(美少女関連で。)
その時だった。
森の奥から悲鳴が聞こえる。
女性:「きゃああああ!!」
ハヤトが立ち上がる。
フローネも剣を抜いた。
セレナも魔法を展開する。
アスカも立ち上がった。
ハヤト:「事件だ!」
フローネ:「行きます!」
◆◇◆
森の奥。
そこでは数頭の狼型魔物が荷馬車を襲っていた。
護衛は倒れている。
商人たちも逃げ回っていた。
そして。
一人の若い女性が追い詰められていた。
黒髪。
整った顔立ち。
どこか勝気そうな美人である。
ハヤト:「助ける!」
フローネ:「勇者様!」
次の瞬間。
ハヤトは飛び込んだ。
一撃。
二撃。
三撃。
狼型魔物が吹き飛ぶ。
圧倒的だった。
気付けば周囲の魔物は全滅していた。
女性が呆然とこちらを見る。
女性:「あなたは……。」
ハヤトはキリッと表情を作った。
ここぞとばかりに決め顔である。
ハヤト:「大丈夫ですか。」
ハヤト:「もう安心ですよ。」
フローネ:(始まった。)
セレナ:(始まったわね。)
アスカ:(始まりましたね。)
女性は少し顔を赤らめた。
ハヤトのテンションが爆上がりする。
(来た。)
(これは来たぞ。)
(勇者イベントだ!)
しかし。
女性の次の言葉で空気が変わった。
女性:「ありがとうございます。」
女性:「でも私は既婚者です。」
ハヤト:「えっ。」
女性:「子供も三人います。」
ハヤト:「えっ。」
女性:「主人が向こうで倒れています。」
ハヤト:「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
フローネが吹き出した。
セレナも笑っている。
アスカまで肩を震わせていた。
◆◇◆
その夜。
焚き火の前。
ハヤトは膝を抱えていた。
ハヤト:「夢が壊れた。」
フローネ:「何の夢ですか。」
ハヤト:「勇者救出イベント。」
セレナ:「そんな名前だったのね。」
アスカ:「救ったことは事実では?」
ハヤト:「相手が人妻だった。」
セレナ:「そこなのね。」
フローネ:「最低ですね。」
アスカ:「最低です。」
ハヤト:「なんでだよ!」
笑い声が夜空へ響く。
だが。
彼らはまだ知らない。
獣王国で待つ戦い。
そして。
後に「エロガキが!」と怒鳴りながらハヤトを振り回すことになる、あの獣人戦士ガルデとの出会いを。
その日がすぐそこまで迫っていることを。




