第10話 勇者パーティ結成
バルガスとの戦いから三日が経った。
野営地の空気は重かった。
誰も大きな声を出さない。
兵士たちの表情も暗い。
それは当然だった。
王国軍は敗北したのだから。
しかも相手は四天王一人。
魔王すら出てきていない。
現実はあまりにも厳しかった。
◆◇◆
ハヤトは一人で剣を振っていた。
朝から。
昼も。
夕方になっても。
ひたすら剣を振り続ける。
ハヤト:(勝てると思ってた。)
剣を振る。
ハヤト:(俺は勇者だから。)
振る。
ハヤト:(チートだから。)
振る。
ハヤト:(特別だから。)
振る。
ガンッ!
思わず地面へ剣を叩き付けた。
土が舞う。
息が荒い。
悔しかった。
ドラゴンを倒した。
模擬戦でも負けなかった。
誰も相手にならなかった。
だから勘違いした。
自分は最強なんだと。
ハヤト:(馬鹿だな。)
ハヤト:(俺。)
背後から足音が聞こえた。
フローネだった。
右腕はまだ包帯で固定されている。
完全回復には程遠い。
それでも彼女はいつも通りまっすぐ立っていた。
フローネ:「また無茶をしていますね。」
ハヤト:「別に。」
フローネ:「朝から振っていたでしょう。」
ハヤト:「見てたのか。」
フローネ:「見えましたから。」
少し沈黙。
やがてフローネが隣に立った。
フローネ:「落ち込んでいますか。」
ハヤト:「そりゃな。」
フローネ:「そうですか。」
ハヤト:「だって勝てると思ってたんだ。」
ハヤト:「俺。」
フローネは黙って聞いていた。
ハヤト:「勇者なら何とかなると思ってた。」
ハヤト:「でも違った。」
ハヤト:「結局。」
ハヤト:「誰も守れなかった。」
風が吹いた。
沈黙が続く。
やがてフローネが口を開いた。
フローネ:「私は守られました。」
ハヤト:「え?」
フローネ:「あのドラゴンの時も。」
フローネ:「今回も。」
フローネ:「あなたは最後まで立ち上がった。」
ハヤトは返事ができない。
フローネは小さく笑った。
フローネ:「私はあなたを認めています。」
ハヤトは目を見開いた。
◆◇◆
その夜。
今度はセレナがやって来た。
セレナは木箱の上に腰掛ける。
相変わらず不機嫌そうな顔だ。
セレナ:「勇者。」
ハヤト:「なんだ。」
セレナ:「まだ落ち込んでるの?」
ハヤト:「まぁ。」
セレナ:「情けないわね。」
ハヤト:「ひどくない?」
セレナ:「事実よ。」
ハヤトは苦笑した。
セレナらしい。
セレナ:「でも。」
珍しくその後に言葉が続く。
セレナ:「少し見直したわ。」
ハヤト:「へ?」
セレナ:「前のあなたなら逃げてた。」
ハヤト:「そんなことない。」
セレナ:「逃げてた。」
ハヤト:「言い切るな。」
セレナ:「でも今回は逃げなかった。」
セレナ:「負けても立ち向かった。」
ハヤトは黙った。
セレナ:「少しだけ勇者らしくなったじゃない。」
それだけ言うと立ち上がる。
そして去り際に小さく呟いた。
セレナ:「少しだけね。」
ハヤト:「少しかよ。」
セレナ:「十分よ。」
ほんの少しだけ。
元気が出た気がした。
◆◇◆
さらに翌日。
野営地の外れ。
ハヤトがぼんやり空を見ているとアスカが現れた。
アスカは隣へ腰掛ける。
珍しく何も言わない。
ハヤト:「説教か?」
アスカ:「違います。」
ハヤト:「じゃあ何だ。」
アスカ:「確認です。」
ハヤト:「確認?」
アスカはハヤトの顔を見る。
真っ直ぐに。
アスカ:「まだ戦いますか?」
ハヤトは少しだけ考えた。
答えはすぐに出た。
ハヤト:「当たり前だろ。」
アスカ:「どうしてです?」
ハヤト:「勇者だから。」
それは召喚された日に言った言葉だった。
だが。
今は少し意味が違う。
ハヤト:「あと。」
ハヤト:「仲間がいるしな。」
アスカは少しだけ目を細めた。
そして微笑む。
アスカ:「ようやく勇者らしくなりました。」
ハヤト:「前から勇者だよ。」
アスカ:「いいえ。」
アスカ:「今の方がずっと勇者です。」
◆◇◆
その日の夜。
四人は焚き火を囲んでいた。
久しぶりだった。
みんな揃って話すのは。
ハヤトは仲間たちを見る。
フローネ。
セレナ。
アスカ。
ここまでずっと一緒だった。
気付けば自然になっていた。
ハヤトは立ち上がる。
三人がこちらを見る。
ハヤト:「みんな。」
フローネ:「はい。」
セレナ:「何?」
アスカ:「どうしました?」
ハヤトは少しだけ緊張した。
だが言葉にする。
ハヤト:「俺と一緒に魔王を倒してくれ。」
静かな夜だった。
炎が揺れる。
数秒の沈黙。
そして。
フローネ:「もちろんです。」
セレナ:「仕方ないわね。」
アスカ:「最初からそのつもりです。」
三人とも笑っていた。
ハヤトも思わず笑ってしまう。
◆◇◆
翌朝。
王国軍本部より正式な辞令が届いた。
勇者直属部隊設立。
名称。
勇者パーティ。
メンバーは四名。
勇者ハヤト。
女騎士フローネ。
大魔導師セレナ。
聖女アスカ。
正式に。
本当の意味で仲間になったのだった。
◆◇◆
出発の日。
四人は城門前へ立っていた。
魔王討伐の旅。
本当の始まりである。
ハヤト:「よし!」
ハヤト:「行くぞ!」
フローネ:「張り切りすぎです。」
セレナ:「調子に乗らないことね。」
アスカ:「煩悩も控えてください。」
ハヤト:「ひどくない?」
フローネ:「当然です。」
セレナ:「当然ね。」
アスカ:「当然です。」
ハヤト:「勇者の人権は!?」
久しぶりに三人が笑った。
その姿を見てハヤトも笑う。
敗北はした。
だが終わっていない。
むしろここからだ。
魔王軍。
四天王。
そして魔王。
まだまだ強敵が待っている。
それでも。
今のハヤトには仲間がいた。
だから前へ進める。
勇者の本当の物語は。
ここから始まるのだから。




