黒髪ロングにメイド服②
「これって、偶然?」
美羽は、思わずつぶやいた。
「……何か言いました?」
「いや、なんでもないっす」
彼女は淡々と話を続ける。
「よかったら来てください」
「うーん」
美羽はチラシを再確認。
なるほど、場所はここから近いし、
まだ時間もあるし、かなり興味もあった。
でも……
「今日は帰るわ」
「そうですか」
「なんか、本買ったばっかだからさ」
手に抱えている本を見ながら、話を続ける。
「家ですぐに読みたいんだよねー」
「ええ、それも素敵ですね」
その返事が、少し意外だった。
普通なら、
「ぜひ来てください!」
とか言うと思ったのに。
「無理に来てもらう場所ではないので……」
女性が言葉をつけ足す。
「好きな時に、好きな人が来てくれたら嬉しいです」
美羽は少し黙ったあと、
「なんか、変なの」
「よく言われます、ありがとうございます」
「いや、褒めてないけどっ」
「それも知っています」
真顔で言われて、思わず笑ってしまった。
「あのさ、名前は?」
と聞くと、軽く頭を下げながら彼女は言った。
「綾瀬しおりです」
「しおり?」
「はい」
「本に挟むやつじゃん」
「それもよく言われます」
「わたしは橘美羽。じゃ、また気が向いたら行くわー」
「はい。お待ちしています」
美羽は手を振って歩き出した。
少し進んでから、もう一度チラシを見る。
Literature Café ARCADIA
「アルカディア、か……」
名前はなんか気取ってるなぁ。
でも、悪くない。
「……今度、行ってみよっかな」
そう思いながら、美羽は家へ向かった。
このときはまだ知らなかった。
しおりとの出会いが、自分の人生を大きく変えてしまうなんて……




