Literature Café ARCADIA①
日曜日の朝早く、
橘美羽は鏡の前で、腕をぎゅっと組んでいた。
「……別に気合い入れてるわけじゃないからね?」
誰もいない部屋で、なぜか言い訳してる。
今日は遊びに行くわけじゃない。
もちろん、デートでもない。
ただ、カフェに行くだけだ。
それなのに……
「なんで服選びに時間かかってんの、あたし」
結局、いつもより少しだけお気に入りのコーデを選んだ。
スニーカーも新しいのを下ろした。
「まあ、初めて行く店だし」
そういうことにしておこう。
向かった先は、あの日チラシに書かれてた場所。
【Literature Café ARCADIA】
最寄りの駅からたったの二駅。
そこから少し歩いた先に、カフェ店はあった。
レトロな雰囲気の建物。
大きな窓。
そして、ガラスに書かれた筆記体の文字。
「……やっぱ、ちょっと気取ってる」
店名を見ながら、ふと思う。
アルカディアとか、名前だけなら高級ホテルにもありそうだ。
店のドアに手をかけると、
チリン、小さなベルの音が響いた。
「いらっしゃいませ」
聞き覚えのある声。
振り向くと、そこにはあの黒髪の女性が立っていた。
「あっ」
「……」
二人とも一瞬、視線が止まる。
「この前の……」
「チラシのメイドっ」
「その呼び方は、やめてください」
美羽は苦笑する。
「たしか、橘美羽さんでしたね?」
「え、覚えてるの?」
「はい、チラシを渡した時にお話しましたので」
「名前までとか、記憶力すごっ」
美羽の目の前で、しおりの顔が少し緩んだ。
「わざわざ来てくださったんですね」
「まあ……」
美羽は店内を見る。
「ちょっと気になってさ」
「ご来店、ありがとうございます」
案内された席に座る。
改めて見るアルカディアの店内。
カフェなのに、たしかに本棚が多い。
でも、店内に図書館みたいな静けさはない。
小さな声で会話する人。
本を読む人。
ノートに何かを書いている人。
「なんか……」
「はい?」
「思ったより普通」
ふと発した美羽の本音に、しおりはすぐに反応した。




