行きつけ、ふみのや書店②
「そういえば……」
藤崎がぽつりと言う。
「美羽ちゃん、高校どう?」
「今日さ、文芸部行ってきたんだ〜」
「おぉ、ついに入ったんだ?」
「いや、それがさ……」
美羽は苦笑しながら言った。
「文芸部なくなってた」
「……そっか」
「漫研と一緒になってたし、ありえないっしょ?」
「今って、そういう時代なんだね」
「なんか時代って言葉、何でも通じるよね〜、便利すぎだしっ」
「ははっ、違いない」
二人で笑う。
だけど、そのあと藤崎は真顔になって口を開いた。
「実はね……」
「ん?」
「うちもあと半年で終わりなんだ」
「……へ?」
一瞬、意味が分からなかった。
「終わりって?」
「店を閉めるよ」
「え?」
「閉店」
「……えぇ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「なんで?」
「本が売れないから」
「でも、お客さん来るじゃん」
「ああ、来てくれてる。ほんと、ありがたいよね」
藤崎は優しく笑みを作る。
「でも、来てくれるだけじゃ店は続けられないんだ」
美羽は言葉を失った。
いつもの本屋。
当たり前にある場所。
それがなくなる。
そんなこと、一度も考えたことがなかった。
「……じゃあさ」
しばらくして口を開く。
「この棚も、無くなるの?」
「ああ」
「このレジも?」
「ああ」
「……藤崎さんも?」
「いや、私は消えないよ」
「そりゃそうかぁ」
「勝手に消さないでもらえる?」
二人とも吹き出した。
「ごめんごめんっ」
でも笑ったあと、美羽は少しだけ寂しくなる。
「じゃあ、その日までいっぱい来るし!」
「ありがたいね」
「新刊も買うし、漫研のやつらも連れてくるし」
「おー、営業までありがとう」
「うん、感謝して!」
藤崎は笑いながら親指を立てた。
「毎度ありー」
店を出ると、夕日が商店街を照らしていた。
美羽は振り返って、「ふみのや」の看板を見た。
「……そっか、閉店かぁ」




