行きつけ、ふみのや書店①
「ふぅー」
部室棟を出た美羽は、大きく伸びをした。
「なんか思ってたのと違ったなぁ」
もっと静かに本を読んでる人がいて、小説の話で盛り上がってて。
そんな文芸部を勝手に想像していた。
なのに現実は……
「漫研かよっ」
しかも、文芸部員はゼロ。
「……まあ、部長いい人だったしいっか」
あの困った顔を思い出し、美羽はクスッと笑う。
「来週、本棚どうなってるかねぇ〜」
絶対そのままだろうけどさ。
そんなことを考えながら駅前へ向かった。
商店街へ入ると、自然と足が向く店がある。
「こんにちはー!」
ガラガラ、と引き戸を開ける。
「おっ、美羽ちゃん」
レジの奥から顔を出したのは、ふみのや書店、店主の藤崎だった。
「予約してた本、届いてますかぁ?」
「ああ、ちゃんと取ってあるよっ」
「さすがっす!」
「にしても、信用ないなぁ」
「いやいや、確認しただけ! 信じてますって!」
藤崎は苦笑しながら棚の奥へ消える。
少しして、一冊の本を持って戻ってきた。
「はい、どーぞ」
「これこれ!」
美羽は嬉しそうに受け取る。
「やっぱ、新品ってテンション上がる!」
「まずはじめに……匂い嗅いでみる?」
「嗅ぐ、嗅ぐ〜」
ページを開く前に、ふわっと紙の匂いを吸い込む。
「はぁ……なんか落ち着くぅ」
「その楽しみ方する高校生、美羽ちゃん以外見たことないな」
「え、みんなやらないの?」
「やらないし、大人でもめったにしないよ」
「マジかぁ」
それって、みんな損してる気がするんだけど……
「じゃ、カバー掛けようか?」
「ううん、今日はいいや」
「珍しいな」
「なんかさ、今日は表紙を見ながら帰りたい気分なの」
「うんうん、そんな日もあるか」
会計を済ませ、美羽は店内を見回した。
新刊コーナー。
文庫棚。
漫画コーナー。
どこに何があるか、もうすっかり覚えている。
気づけば、小さい頃からここに来ていたんだよなぁ……




