67:みんなのおまつり
「ただいま、千尋」
ほどなく、近場での神様の集まりに出かけていたばあちゃんが帰ってくる。
「お待たせお待たせ。急に頼んでしもうてごめんね、店番ありがとうねえ。さっきねぇ、そこですれ違ったよ、ほら、あの勇者さん。この間、千尋との試合で見とった時より、何だか楽しそうに笑っとってねえ。ええことでもあったんじゃろか、よかったわあ」
「……うん。そうだと、嬉しい」
ばあちゃんと店番を代わって、ふと、店の前に出て空を仰ぐ。
すぐそこの夏を予感させる入道雲を背景に、騎竜便が飛んでいく。
不思議だ。こんなにのどかな時間、何に急かされてもいないのに、わけもない焦燥感。
一分一秒一瞬が無駄にできない、いても立ってもいられない気持ち。
——ああ。
俺は今、始まる前から始まっている、楽しい祭りの中にいる。
「千尋。持ってき」
店内に戻ると、ばあちゃんがお盆にお菓子や飲み物を用意してくれていた。お礼を言って受け取り、廊下を歩く。
深呼吸して、戸を開けた。
「ただいまー。ほらみんな、ばあちゃんから差し入れ」
「わ。わぁ、ありがとうございます……!」
「きゅふっ、アリーシャのどカラカラー☆」
「やれ有難い。福利厚生、感謝いたします」
広間……バーストレンジの拠点で【今後の活動について】の会議を進めていた、ミナ、アリーシャ、おやっさんがグラスを取る。
「どう、そっちは? 面白そうなこと、あった?」
こっちはあった。
店番をしてる時、一件のメールが届いた。差出人はセンパイで、ブルーバイト主催のファンフェス系おもしろイベントの誘い。これを手土産に、場を沸かす気満々だった。あとは勿論、【英雄】からの宣戦布告のお知らせとか。
ただ、それどころではなくなる。
俺からの問いに、三人が一斉にストローから口を離し、一様にこちらを見て笑ったのだ。
「きゅふっ。きゅふふふっ。そりゃもう、ねーっ?」
「ええ。成果上々、目ん玉ひん剥きご覧あれ、です」
アリーシャとおやっさんの目配せを受け、ミナが机の上から何かを取ってこちらへ来た。
「ちひろっち。これ」
「ん? ……っ」
差し出されたのは、ファンフェスの、エンブレム。
絵柄は、中央に、弧を描く二本角と星の煌き。
左からは兎耳と天使の翼。右側には金槌と判子。
そして、それらを纏める上部には。
合わせて交わる、二本の銃剣。
「これから何をするにしても、まず必要ですからな。儂らの所属、立脚点を示す証が」
「————」
「だからー、勝手に作っちゃった! 文句ないよねおにいちゃん、きゅふっ☆」
「————」
「新城千尋くんは、誰が何と言おうと、ボクらのパーティメンバーで! バーストレンジの、替えのきかない代わりもいない、大事なリーダー! ですからっ! これでもう、本人だって否定させちゃいません! ……ので! これから一緒に、いっぱいいっぱい、楽しみましょう! ……そ、それに、ですね!」
「————」
「どこにも踏み出せなかったボクを、ここまで育てて、導いて、くれて……連れてきてくれて、本当にありがとう、ございます! 大好きです、ちひろっち! ……あ! え、そ、その! み、みんな! みんながあなたを大好きですってことで、ね! ねーーーーっ!」
今日の議題はもう一個あった。
この間の奉納試合——バーストレンジデビュー戦の、感想戦。
手応えとか。分析とか。これからの課題とか。
そういう、大切なことを話すはずだったのに。時間はいくらあったって足りないくらいだったのに、申し訳ない。
ちょっとだけ、時間をもらっていいだろうか。
この涙が止まるまで。
この気持ちを、噛み締めていさせてほしい。
「——よろしく、みんな。千回だって、それ以上でも……この四人で、ファンフェスやろう」
吹き込む風に夏の匂い。
遠くからは祭りの囃子。
今から秋が待ち遠しい。舞台に早く登りたい。
自分がこんなに幸せなことを、神様たちに直接会って御礼しよう。
【World Open "Fanta Festa"!】
【Cross Fight Not Close. 】
■
幻想闘祭新興パーティ、バーストレンジ。
メンバー構成、人間の銃剣士、魔人の星撃、ウサギ天使、ドワーフ商人。
拠点は駄菓子のくらくら屋奥、中庭に面した応接室。
その壁にはコルクボードが架けられており、そこに、最初の思い出が貼られている。
三つ巴の奉納試合、神器戦の後に撮った、十二人の記念写真。
誰も彼もに笑顔が満ちた、悲しみも逸れもあらぬ交わりの輪。




