64:輝きは星を撃つ/Ⅳ
〈視点/近代市街地:街路/【英雄】〉
最大開放、最大威力の魔道砲。
過度なまでの威力と無差別さから仲間を巻き込む危険があり、乱戦には使えない欠点を持つそれは、遠距離から始まる一騎打ちという状況で本領を発揮した。
星撃の真骨頂は、距離も時間も有り得ない。砲撃の瞬間に廻転魔法陣を向けられていた対象は、猶予ゼロ秒で被弾する。
一ノ瀬古都子の分霊体が、数々のバフを一切無効にされないまま、真正面から死亡する。
だが、そこまでだ。
王様による復活の加護を受ける一ノ瀬の分霊は、消滅しない。物理的衝撃ではない魔力照射では吹っ飛ばされず、そのままそこで倒れるだけ。また復活すれば、それでいい。
……そのはずだった。
(——おか、しい)
星が。
輝き続けている。
(生きている、の? 彼女は?)
そういうことになる。
狙撃した大金槌は、何らかの方法で防がれた。だが、どうやって? この大技の最中には、移動も防御も両立出来ない。一ノ瀬が狙いを外したというのも、まさかない。彼女の手札、場の状況、現実がこうなる理由に、思い当たる節がない……!
『落ち着け、古都子』
脳裏に響くのは、音ではなく、通信の念波——最後の『王様』、二階堂愛の声だった。
(……愛。これ、なんだろう?)
『さあね。王様が見れるのは仲間の周囲だけ、ボクもその疑問には答えられない。……だが』
君が勝っていることだけはわかる、と、二階堂は断言した。
『生きていたならば、寄ってとどめを指せばいい。それだけさ。勇者が復活するまで、最遅で二十秒。魔力ドカ喰いの星撃ちにとっては、十二時を指す針の二周分でも足りまいよ』
(……うん。その通りだ。さっすが愛)
『効果範囲を絞り、燃費を向上させたようだが、君が蘇るまで撃ち続けるわけにはいくまい。持続は持って十五秒。復活は猶予の最長、相手が魔力を吐き出しつくすまで引き延ばす』
それが星撃、[輝きは星を撃つ]と復活スキルの相性だ。“少し撃ち、一旦止め、また撃つ”というような小回りがきかない以上、“食らった上、終わった後で戻る相手”に非常に脆い。
不測はあった。
だが、勝負の行方は変わらない。
変わらない。変わらない。この戦いは、最後に立っているのは——
『——なんで』
終わらない。
星の光が、十五秒の、向こう側へ。
二階堂愛が、有り得ない現実の理由に気づく。
『そうか——商人の[損害保険]! 魔力消費に伴う自動回復!』
もうひとつの限界が近づく。勇者の復活、最長遅延。
それでもまだ、分は一ノ瀬にある。
『脱しろ、古都子!』
魔道砲の威力は一定ではない。終わりに近づくにつれて落ちていく。最大開放といえど、終了直前なら一瞬耐えて、照射領域より脱出できる間がある。
彼女は迷わない。何を考えるまでもなく、常に正解し、勝利すべくして勝利する。
——だから。
正しいルールを捻じ曲げる、それこそが、有り得べからざる異常だった。
「————?」
復活と同時、勇者は跳んだ。全力で地を蹴って、魔力照射の中から逃れようとした。
しかし、光線より外れられない。
吸い込まれていた、破壊の中へ。
留まらされていた、攻撃の内へ。
一ノ瀬が見たのは、光の中にある、ありえない【闇】。魔道砲の芯に隠れ潜む、自分以外、誰も見ていないであろう、奥の手。
闇はまるで呼吸する口のように一ノ瀬を吸い込み引き寄せ、照射からの脱出を許さない。
それは……この世にぽっかり開いた、【世界の異物】が生み出した風穴だった。
「うそ、でしょ。これ……【魔王】の、やつじゃん。……あの子、【魔王】じゃん!」
世界の脅威が起こす現象——世界観狂乱。
遊びの最中に見てしまった、笑い事にならないものは、夢か幻めいて消え去る。
一ノ瀬は知る由もない。自分の力が暴走する、異世界のフィールドにエラーとして感知される寸前で、ラグラグラミナが抑制の指輪を再び付け直したことを。
自分の運命を支配していた因果を、一歩踏み越えた偉業を。
「予想できっこない! 魔王化とか、スキルや種族の外の隠し球なんて! ううん、それより——そうまでして勝ちたいの!? こんなもの、奉納試合で使ったらどうなるかだって、わかるでしょうに! ……そこまで、本当の本気で、ファンフェスに夢中なの!? ……【英雄】に勝ちたいって、諦めないで思ってくれたの!?」
盤外の事情など、今は、何であれ語らずともよい。
幻想闘祭の舞台にいるのは、全て等しきプレイヤー。外の事情も過去の傷も、この時だけは一切無縁。剣と魔法の交わり、それだけでいい。
だから、一ノ瀬はただ、こう叫んだ。
「ああもう、ちくしょう! 貴方の名前覚えたから——ラグラグラミナ・ネリズエンッ!」
【英雄】が敗退する。
眩き光に送られて、フィールドから消える瞬間——彼女はとても悔しそうに、笑っていた。
〈視点/瓦礫の舞台/ラグラグラミナ・ネリズエン〉
鋒から放たれる光が、弱まり、収まり、消えてゆく。戦いの余韻の中に、溶けてゆく。
全てが終わったあとの静寂。深く呼吸をしながらよろめいて、震える手から銃剣が取り落とされて、もう立ってもいられなくて、両手、両足、ぜんぶ投げ出して、倒れ込んだ。
彼女は笑って、笑って、ふと体を起こし、先程投擲されて迫り、光線の中の【闇】に引っ張られて止まり、目の前に落ちていた大金槌を、持ち上げ——ようとして、持ち上げられずにずっこけて、「こんなの軽々振り回してぶん投げるとか、やっぱりすごいや【英雄】さん……と、このお祭りを作ってくれた、いろんなみんな」としみじみつぶやく。
それから。
崩れた天井から覗く空に手を合わせる。
「世暦、最高。ファンフェス、最っ高」
天に沁み入る嬉しみの声。
遠く、けれど、確かにきらめく、ひとつぶの星。




