59:そして舞台は勇者を讃える
〈視点/ISEKAI大樹店/観客たち〉
かくして、天秤の揺れは止まった。
この先に迎える結末に、勇者のファンはいつも通りの高揚で、番狂わせを期待していた者は“やっぱりな”という感覚を持って状況を受け入れる。
『波乱万丈の果て、今回もやはり訪れました、【王道闊歩】のその時が!』
天井が砕け瓦礫の散った、高層ビルの空きフロアを映す中継窓へ飛んだニッシュが、観客の思いを代弁する。
『参戦陣営・生存者の絞られた試合の最終局面! 彼女はこの構図の際、挑まれる勝負を拒まない! 相手の出方に合わせ、そして勝ち切る! 引かず隠れず決して騙らず、堂々たる様、一ノ瀬古都子が[勇者]で【英雄】たる所以です!』
この決闘、台本でもあるようだと称される。
傾向も勝ちかたも千差万別なパーティが入り乱れる神器戦、絡み合う不測の事態に予期せぬ作戦——どんな順路を経ようと、運命はここに行き着く。一ノ瀬古都子の勝利へ続く、王道に。
ここまでに、残る王様は、零か一か。それでおおよそ相手の覇気は変わる。
零ならば、ついに掴み取った千載一遇のチャンス、残った死力を尽くす。
けれど、もし。
一人でも王様が残っていれば、見ている観客には——そして、戦場で向かい合っている相手さえ、内心ではこの時点で“決着”の二文字が浮かぶ。
一対一の、一ノ瀬古都子。
その対峙で奇蹟が二度起こるなど、空想でさえ期待できない。
ここからは、|なるべくしてそうなる流れ《おやくそく》のお時間だ。
襲い来る相手を圧倒、勝利する。対戦を終えた彼女は恭しく、礼儀正しく、期待と憧れを一身に背負うインタビューを全うし、またファンを増やす。
それがいつもの一ノ瀬古都子。誰も彼女を疑わない。
心配があるとしたら、今日の見せ場が興ざめにならないかどうかのほう。
二丁スタイルの銃剣士は、刀身無しの一丁を持ち、もう一丁を瓦礫の下に失った。
星撃は発動の道具を奪われ、でくの坊となり果てた。
一ノ瀬古都子は引かず隠れず決して騙らず、勝負の場で、相手に情けをかけはしない。相手が自分の失態で手放し、不手際から奪われた武器を投げ返すなど、そんな侮辱を行わない。
「無情な理不尽、最悪の噛み合い、起こり得るのが戦場だ。手札は常に、今そこにあるもの。状況は常に、泣き叫んだとて曲がらぬもの。人は極限の中で己の形を試される。……さあ。自身を討伐せんとする勇者を前にどうして見せる、二人の【魔王】よ——」
『どう動くか、バーストレンジ! ここが最後の分水嶺、果たして決着はどのように——!』
スサノオ神が解説には載らぬ声で呟き、ニッシェが煽り文句を並べたその直後、戦いを映す大窓に動きがあった。
火花が散る。決着が始まる。勇者が、挑戦を迎え撃つ。
そうして世界が目撃するのは——誰も見たことのない、神さえ知らぬ五分間。




