57:輝きは星を撃つ/Ⅲ
〈視点/水没近代都市:海龍神内部/ブルーバイト〉
誤算があった。見落としていた。
そう——青島淡には、見えなかった。
「ま、眩し、すぎる……っ!」
目を、開けていられない。破壊力は内に届かなかろうと、膨大な魔力光が、水面を通過し瞼に刺さる。
「[水刃]が、操れ、ない……!」
魔道士のスキルの多くは、発動に集中や目視、対象の確認が必要となる。ダメージこそないものの、相手への干渉は封じられ……そして、向こうは時間稼ぎさえしていれば、その間に商談が完成する。
このための溜め第二段階。
足止めをしながら神を傷つけず、不敬とならない威力調整。
『やれやれ。こいつぁまた、ゼータクな目くらましを使われたっすね』
テモンの念話には、溜め息……諦念の気が含まれていた。
『アオちゃん。どうも俺ら、詰んでるっす。いやいや、お疲れさん。手抜きせずやれるだけやったってことで、ここは素直にギブして——』
「いやだっっっっ!」
荒げた声が、水を揺るがす。
平均以下を自負する少女が、歯を食いしばって、目を閉じたまま光の向こうを睨んでいる。
「諦めない、諦めたくないッ! だって、こんなのまだ、全然活躍できてない! 私だけなら負けたっていい! けど——私たちのパーティが、雑魚扱いされるなんて! ファンのみんなを裏切るなんて、絶対ぜったいだめだもん!」
ブルーバイトのファンならば、誰もが知っている。
これが青島淡である。普段は小波、けれど追い詰められた最後の最後、誰より激しく心波打つ激情家にして、要の堤防。
彼女がリーダーだからこそ——この四人組は、面白い、と。
仲間たちこそ、思っている。
『お。そーすか、んじゃいつものアオちゃん出たからには、後で文句は無しってことで』
召喚士テモンが、念を送る。
それを海龍神が叶えたのは、契約に基づく命令ではなく、単なるお願いだったから。
——或いは。
契約抜きで、世界が別でも。
一緒に戦ってきた、その懸命なる人の子を——推したいと、神が思ったから。
「え、あ、ごぼぼっ!?」
海龍神の体内に形成されていた空洞、そこになだれ込んできた水に飲まれた普通の人間、青島淡は予期せぬ事態に混乱しながら、流水に運ばれる。
胸から首を通り、頭。
そこは、海龍神の胴体部を狙った魔道砲の範囲外であり、そのまま彼女は止まらずに——。
『ぐーっどらーっく。おれの思いも引っ付いたんで、かましちまってくださいよ、リーダー。この対戦……主役は【英雄】でも、サウザンドキルでもない、ってね』
青島淡が上空へ射出された直後、海龍神としての属性を失った水の塊は魔道砲で蒸発し、胸部のテモン・ムルモは軽薄な笑いを浮かべながら、親指を立てて脱落した。




