表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/68

54:神様への奏上《おねがい》



 〈視点/水没近代都市:海龍神内/青島淡〉



 一ノ瀬古都子、一刀両断。

 その結果に青島淡は——海龍神の左胸にて歯噛みした。


「やられた……!」


 勇者は現在、水と反撥するスキルの使用下にある。しかし、海龍神の神気を纏う水は完全に無効化されず、触れて押すことができる。


 それを逆手に取り、青島が狙ったのは撃墜ではなく場外。五秒以上フィールド外へ出たプレイヤーはその時点で失格となるルールを適用させれば、復活のストックがあろうと実質撃破できる——はずだった。


「対応……いや、看破されてた……初めて見せた手段なのに……!」


 最後の一手、そこまでの詰めは成立していた。

 海龍神本体の攻撃と[水刃]の攻撃、そこにマジックポーションの補給が合わさって実現した攻めの継続は【英雄】を徐々に追い詰め、ついに最後の一手——集中した水流が、身動きの取れない中空で対象を捉えるところまでいったのだ。


 ただ、その瞬間。

 一ノ瀬の機転が、青島たちを上回っていた。


「吹き飛ばされるのを避けるために……自分で自分を、真っ二つにするなんて……!」


 命中の刹那、一ノ瀬は胴体の中心を狙った放射を、水平に構えた刃で受けていた。

[湖渡]使用時に所持していなかった大剣は、効果対象外。水圧に押された大剣は一ノ瀬の身体を上下に断ち、おかげで、フィールド外へ押し流さんとする放射から外れ、海中へ没する。

 青島はそれを見て、失策を受け入れた。


「あの位置じゃあ、檻も鎧も届かない……! 発動できるのは[水刃]だけ……!」


 水分身を派遣する[水溶の水鏡]は強力なスキルだが、自分の意識を通している状態で破壊されたため、もうこの対戦中には使えない。


 勇者はじきに復活する。追い込まれるほど強くなる……バトル中に受けた総ダメージに比して強化されるスキルで、より強化された状態で。

 しかも、相手もさるもの、【英雄】一ノ瀬。青島が位置を補足し続けていようとしたところ、彼女の沈んだ周辺一帯が赤々とした黒に染まっていく。


『——“夜だ。夜が来た。この時、今こそ、我ら恐るるものはなく、諸君らは、何を恐れるべきなのかがわからない。”——。私の務めはここまで。どうか武運を……なんて、そんな言葉を送らねばならないほど、貴女の王道には未知も不測もないわよね、古都子。それはそれで、切ないわ』


 勇者を送り出す王様、四方葉流時の声が響く。これは、復活による代替脱落の前に、彼女が発動した領土生成に違いない。


 プレイヤー同士の位置を地図やスキルから見失わせ、外部からでは攻撃がことごとく無効化される暗闇の領土空間、[不知誰彼しらずのたそがれ]……これでは、勇者がどこにいるのか特定できず、迂闊に近づけばカウンターを受けかねない。


 古今東西、お馴染みの通り。

 勇者が最も危険なのは、追い詰められている最中の逆境だ。


「あうう……こうなったら……仕方ない、テモンさん!」

『ま、そうなりますわな。一旦【英雄】は忘れましょう』


 海龍神を介し、青島とテモンが念話を交わす。


『マジックポーションを譲り受ける代わりに[商人]と交わした契約は、【他に狙えるものがある限り、テモン・ムルモはバーストレンジを狙わない】。もう、満了したっすよ』


 勇者は一度死んだ状態となれば、復活までの間は狙える対象から外れる。

 その状況が一瞬でも成立すれば、契約は果たされたと見なされる。バーストレンジを、海龍神で攻撃できる。……これから、勇者が復活しようとも。


『悪く思わんでもらいましょうね。互いに全部、承知の上でのお取り引きだったんすから』


 バーストレンジが得たのは、しばしの安全、その間の立て直し、一ノ瀬古都子の一機ワンストック

 テモンたちが得たのは、魔力をバカ食いする海龍神維持状態の長期持続。


『いい取引っす。これでこっちは少なくとも、焦る必要はない』


 海龍神内部は、先程一ノ瀬が閉じ込められていた水の檻とは、更に別次元の鉄壁だ。破るには神を殺すに比する力が必要であり、これまでこの位置のテモンたちが倒されたことは一度としてない。……仮に、今回の神器戦で最大火力を誇る、()()()()()()()()()()()を向けられようと、抜かれることはないだろう。


『絶対安全、きんもちいー。そんじゃ、ま』


 狙うことはできずとも、その位置は捕捉していた。

 海龍神が勇者と戦っていた反対側、今回のフィールドで最も背の高い高層ビルの屋上に、銃剣戦士と、星撃ち魔道士と、場違いな商人の姿がある。


『これを成立させてくれた方々に、出来を見てもらうとしましょ』


 海龍神が口を開く、怪物勇者と渡り合った神の攻撃、水の放射が狙いを定める。

 逃げ場はない。逃げたところで、神を用いた[水刃]の追い討ちでどうとでもなる。そうすれば状況は二対一——復活した一ノ瀬にも、十分に目がある。


 ……その青写真に、青島がごくり、と唾を飲み込んだ時だった。

 あと数秒で全滅するバーストレンジが、妙なことを叫んだのは。


「「「掛けまくも畏き海の源、ズォド・メ・ドラド・ムルモ・アケリアよ! この声にどうかその耳、意をお傾けあれ! ——超世界工房平賀、奉納品目録奏上————!」」」


「……は、え? ……はぃぃ!?」


 青島が驚愕する。海龍神が攻撃動作を、緩やかに停止していた。


『っは! やぁってくれるっすねえ、あの商人! あんなナリして、古式ゆかしくッ!』


 テモンが珍しく声を荒げる通り、三人のいる屋上には商人のスキルである『棚』が展開されていた。


 そこにあるのは、およそプレイヤー同士の対戦では役に立たぬガラクタ……しかして、別の場所、別の用途に於いては、何よりも価値を持つ品々であることが、海龍神の神官にはわかってしまう。

 彼らは今、()()()()()()()()()()()()()


「ひとつ! 猛き魚の鱗! ひとつ! 深海の流木! ひとつ! 黄昏の沈む貝!」


 大きな声で元気よく、商人が奉じ続ける。

 神は、己に礼を尽くす相手を前に、微動だにしない。


『アオちゃん、止めて。アレ最後までやらせたらヤバいっすよ』


 青島には何が何だかわからない。それでも、海龍神が動かない以上、彼女がやるしかない。


「今なら——私だって、主役級ッ!」


 海龍神が動けなかろうと、ズォドがもたらした大量の水、すべてが糧。

 フィールドそのものが青島淡の武器となり、ちっぽけな三人を圧し潰さんと牙を剥く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ