53:ブルーバイトは、小魚の一噛みを敬愛する
●試合前日/PM0:28/喫茶おーしゃんびゅう/ブルーバイト・最終MTG●
「次の試合こそ、私がリーダーなのやめるべきだと思う」
意を決した一言であった。
ブルーハワイミステリックホイップソーダを飲む異世界人三人に人間の少女が告げたところ、まずヴォルケンノタスがストローから口を離した。
「淡。俺のスタイルは?」
「前衛速攻決着型。……割合すぐ死んだりします」
「淡様。では私は」
「ヴォルくんとのコンビネーション特化。……やっぱりすぐ死にます」
「アオちゃん。俺っちもー」
「後衛からの切札ぶっぱ。……運次第であっさり死にます」
異世界海人ズは“うん”と頷き、ヴォルケンノタスが代表して解説する。
「オレは自分のプレイ最優先。ヒショは死ぬ時はオレと死ぬのを崩さねェ。テモンは指示待ち。ほれ、リーダーはやっぱり淡が適任だな」
「坊は、私がついていないと駄目ですから」
「生まれた時から小判鮫に、リーダーシップとか期待されてもっすわー」
賛成一の反対三。
第三十六回・ブルーバイトリーダー変更決議の結果はお馴染みの【継続】と相成り、青島淡が溜息を吐く。
しかし、今回はどうもそこからの流れが違った。
「今回のお相手の一人。新城さんって、あのサウザンドキル、なんだよね」
「おォ」
「ヴォルくんが、ファンフェス引退しかけたきっかけの、プレイヤー」
「そうだなァ」
「負けるつもりじゃないの?」
貸し切りの店内に、波音だけが響く。
青島淡は、更に彼の事情へ潜る。
「ずっと言ってたもんね、ヴォルくん。サウザンドキルとまたいっぱいやり合いたい、大きな舞台で競いたい……もう一度、幻想闘祭に戻ってきてほしいって」
「言ってたが、どうした」
「手を抜けば、それが叶う。前、ひどいことを言って追い込んじゃった彼への償いになるって、思ってない?」
「思ってたとしたら?」
「ブルーバイトのリーダー、変わって。八百長するパーティのトップとか、やなので」
「ふふ」
「ぶほっ」
あまりにハッキリとした物言いに、ヒッショリノもテモンも笑った。
少女は構わず言葉を続ける。
「そりゃ、ヴォルくんの気持ちもわかるよ。今回の奉納試合、私たちは負けた時のリスクも少ないし、新城さんのこと、気が合ってる今のパーティで、公式戦に参加させてあげたいと思う。でもね」
「自分を敗戦に巻き込むな、ってか? ファンフェスの成績は、進路にも有利だもんな?」
「こら。そういうことじゃないのわかってて言わないで。このいちいち悪ぶりシャチ」
私はね、と青島は身を乗り出す。
「あなたは今、ブルーバイトのエースだって言ってるの。二年前、アウトローに荒ぶってたころと違って、たっくさんのファンにきらきら期待で見られてる。そんな人たちを裏切るようなコト、しちゃダメなんだからね」
何を隠そう、ヴォルケンノタス・アバドはその目に弱い。
その光を見るたび、二年前、深い深い海溝に沈んでいきそうなほど打ちひしがれ、町の路地で荒れきっていた自分に、怯えながらも話しかけてきた時と、伝えられた言葉を思い出す。
『だったら尚更、です。あなたはファンフェス、やめるべきじゃ、ないと思う。悲しみや後悔に流されないで、待っていましょうよ。いつかその人を、迎える灯台であるために。必要なら、私が、錨になってあげますから』
「……ハッ」
ブルーバイト結成、最大の功労者にして恩人をヴォルケンノタスは目を細めて眺める。
青島淡。変わり者な彼女が彼を、それまでやっていなかったファンフェスを始めてまで繋ぎ止めなければ、ヴォルケンノタスはヒッショリノに頭を下げる事もテモンと契約する事もなく……今頃、本国に帰っていただろう。
「言われなくても手ェ抜かねよ、心配性。オレに負けたらアイツらのアオハル終いだろうと、全力本気で押し流す。オレがまだファンフェス続けてて、簡単には倒せねェようになったって見せつけてやるくらいじゃねえと、あのヤロウも嬉しかねェだろうからな」
「そっか、なら良し! まったく、こっちは心配したんだからね? アドバイザーしようとしてたラグラグラミナさん? あの子にも、あいつと組むのやめろとか言ったって聞いて! 新城さんが嫌われ者のサウザンドキルだっていつかバレるの考えて、一旦落として後でフォローするつもりだったのはわかるけどさあ……ヴォルくんいっつも悪役しすぎ! 顔も怖いし!」
「そいつァどうも失礼したな、許しとけ。そうだ一応釘刺しとくけどよ、そっちこそ、自分は特に執着ねェからって、負けが見えても手ェ抜くなよ? 手前、前衛が先に落ちたら目に見えて弱気になっからな。ったく、オレ限定の強気とかどうなってやがる。あーあ、テメェが鯱人だったら共鳴で探って一発なんだがなァ。無理を承知で試してみっか?」
何気ない一言だが、青島は瞬間で狼狽して椅子ごと下がる。
「はい禁止ー! それだめー! そ、そんなことしたらそれこそパーティ解散だからね!?」
「坊。今のは最悪かと」
「すんません。その発言には引っ付けねっす」
「あーあーわかったわかったオレが悪ぅござんした! 口が滑った申し訳ねェ!」
シャー、と謝罪に牽制を同時に行いながら、ヴォルケンノタスはシーフードピザを頬張る。
「ともあれだ。オレが落ちたら後は頼むぞ。手前がまだ残ってるって希望があるからこそ、こっちは気楽に突っ込めてんだし——勝たなきゃファンに申し訳ねェとか殊勝なことほざくなら、是非お手本みせてくれや。新城だけじゃ勿論足りねえ、一ノ瀬もぶっ倒せ」
「はいはい了解。止めても聴かないだろうし諦めるけどさ、あんまり期待しすぎないでよ? やれるだけやるだけだから。アドバンテージたっぷりの鯱人や神官の血筋のテモンさんとかと違って、こっちはただの人間です。ファンフェスもバイト感覚でやってて、部活だったらレギュラーにもなれない腕前だってことは、自分で一番よくわかってるんだからね」
言い分は正しい。
それは、データにもしっかり残った事実だ。
幻想闘祭強豪パーティ、ブルーバイトの青島淡。
彼女は戦績、活躍、バトルスタイル……どれをとっても、平均よりちょっと下。特に光ったところのないプレイヤー。
しかし。
「聞き飽きてるぜ、リーダー」
「わかってるから、リーダー」
「それでこそっす、リーダー」
パーティの誰もが認めている。
ファンの誰もが期待している。
青島淡こそ、ブルーバイトに不可欠な錨……彼女がいないブルーバイトは、ブルーバイトと呼べないと。
今回もまた、その思いを当然のように受け止めながら、彼女ははぁ、とよくない想像にため息を吐く。
「次の試合……どうか、私とテモンさんだけ残る、みたいな展開にはなりませんように……」




