49:バーストレンジは、一線越える策を練る
●試合前日/PM4:28/訓練空間【城郭都市】/バーストレンジ最終MTG●
「——要するに。こういう感じで、俺とアリーシャがどれだけ囮をやれるか、が決め手だね」
砂埃の舞うフィールドで、新城千尋が銃剣で土にがりがりと図を描く。
デフォルメされた四つのマーク、兎耳と銃剣を前に、双角と¥袋を後ろに据え、その間に線を引き——前衛と後衛を、遠ざけて分けた。
「はっきり言うのは恐縮だけど、ミナとおやっさんは今回の対戦、まともな戦力としては計上できない。だから——まともじゃないやりかたで、奥の手の切り札にする」
「ま。まままま、おま、おまかへくだひゃい!」
凄まじく震えながら、噛み噛みになりながらラグラグラミナが応える。
「当方ぺーぺーではございますが、どうにかこれだけはやりとげてみへまふ!」
緊張と武者震いが混ざった興奮にある、三角帽の魔道士——その遥か後方に、彼女の練習の成果がある。
無数のバリケードに城壁、硬く守られた訓練場の城郭都市、その前は無数の隕石でも降り注いだような穴だらけとなって壊滅しており——正面の分厚い城門にも、くり抜かれたように綺麗な大穴が空いていた。
「こちらも異論はありません。むしろ感謝と感嘆を。よくもまあ、無理難題の無茶振りに応えてくださいました」
拍手が乾いた荒野に響く。
そこにいるのは、いつものツナギ姿の職人ではない。
それは、まるでよそ行きの——商談に赴くスタイル。
現代の商人である、フォーマルなメンズスーツに身を包んだゲンヌダーロが、ネクタイを緩めながら真摯な眼差しを新城へと向けた。
「たった六日の準備期間で、対戦に必要な全ての技術を伸ばすなど、とても現実的ではない。されど成程、用法を絞っての習熟であれば、我々のような素人だろうと、歴戦の猛者が相手でも有用の目が望める。生きましたな、盤面の要素を並べて俯瞰し、勝利の解を探るサウザンドキルの経験が」
「きゅふ! でっしょー、やっぱりアリーシャは、あのおにいちゃんも好きだったなー!」
「あははは……まあ、それはそれ、だもんね。あの頃のやりかたは、あんま正しいとは言えなかったけど——ああいうことをしてた中で、アリーシャとも知り合えて。それの挫折があったからこそ、おやっさんや、ミナとも縁があったわけだし」
「それをここで途切れさせんためにも、気張りませんとな」
スーツの商人が首を鳴らして息を吐く。
「皮肉や媚びでなく尊敬しますよ、新城殿にレネレーゼ殿。記録を見ただけで白旗あげるが賢明とわかる怪物勇者に、種族の強味を重ねた相乗効果の鯱人軍団……そこに、こんな足手まとい二人を連れた状態で、勝機をこねくり出してみせたのですから」
四人は今日までひたすら、研究と対策を思考した。
勇者と鯱人、それぞれの個別の戦い方に勝ち筋のスタイル、そして——その二つと戦う神器戦、両者が同じフィールドに立った時、何が起こるか。
過去のデータを洗い直し、仮想の戦を繰り返した果て。
果たして新城たちは、活路を見出すことに成功していた。
限りなく危うく細いが——決してゼロではない、綱渡りの積み重ねの果て。
希望は、確かに、そこにある。
「あとは。なるべく、奥の奥の手を出さんで済むよう祈る、ですな」
ゲンヌダーロの言葉で、視線が集まる。
注目されるのは、ラグラグラミナ——その、指に嵌まった指輪。
「明日に最終日を控えて、成功率は一割未満でしたか。駄目になった練習場の札は二十九枚、やれ、経費の嵩んだことで」
「きゅふ。でもでも、成功すればおっきいよねー☆ 最初は、普通の大技だって思わせられたらなおイイかも。だって、あの【英雄】ちゃんは知らないもん。それに、今回はあくまで、おにいちゃんを【魔王】にさせないためにだって思ってるしっ☆」
「……あ。あの、あの、ぼ……ボクは、反対、というか、自信がない、というか。だって、もしそれがうまくいかなかったら……ボクのせいで、全部、台無しに……そこまでどんなにうまくいってても、それだけで、反則負けにだって……」
「全然いいよ」
俯く魔人の少女に、あっけらかんと、少年が言い切った。
「もしミナが、今だ、って思う瞬間があったら。その時は、迷う必要も、怖がることもない。相手の、観客の、度肝を抜きにかかればいい。バーストレンジに、勝負どころで勝ちに行く仲間を、たとえそれで失敗したって責めるやつなんていないし——何より。ミナの超必殺技が、これ以上ない大舞台でうまくハマる瞬間を、俺たちはもうすっごく見てみたい。これがウチの自慢の主砲ですって——皆に、大声で自慢したいからね」
俯いていた顔が上がる。
その瞳に映るのは、肯定だけ。
仲間たちからの、信頼だけ。
「勝手になっちゃえ、ミナ。自分が一番、なりたいものになるために——行きたいほうへ、行くために」
他でもない、彼が言う。元・サウザンドキルが言う。わかった上で、安心して。
そう。
彼を取り巻く状況は、昔とは違う。
今の新城千尋のパーティメンバー——バーストレンジは全員が全員、彼よりよほど己のために戦っている、自分勝手の集まりなのだから。
「——はい! ボク、挑戦します! 大好きな幻想闘祭、全力で楽しみ切るために!」
少女の決断に、三人がハイタッチで応える。
間違いなく、今回の神器戦で最も未完成、最も不安定、勝ち筋の細い新参パーティ。
それでも彼らは戦う。彼らなりのやりかたで。
遊戯を楽しむことだけは、一番の気概を持って。




