48:[勇者]の攻略手順
〈視点/ISEKAI大樹店/ロマンスグレーの観客〉
ブルーバイトが連携し、銃剣士に攻めを仕掛ける中。
ある観客が「あれ?」と首を傾げた。
「勇者さんのこと、倒さないで放っておくんだ」
『い~い着眼点ですねぇそこのおじさま!』
「うひゃ!?」
独りごとに予期せぬ合いの手を受け、観客が驚く。
いつのまに、実況妖精が顔の横に飛んできている。
『神器戦のような三つ巴の形式ですと、特に抜きんでたパーティをへこますべく、その他二つで暗黙の協定が結ばれるのが戦場の常! 確かに【英雄】は共通する災害でありましょう!』
「だよね? ここは一時休戦で勇者さんを集中攻撃して、えっと……王様はあと二人だから、ストック含めて三回分削り倒しておくのは、お互い理にかなっているのでは? あ、それとも、ルールでそういうのはできなかったり?」
「いいや。戦略上妥当性がある全てを、幻想闘祭は許容する。何しろこいつは、思考の幅を拡げるためのスポーツでもありよるけんね」
妖精の次は神様も混ざってきた。離れた実況席に腰掛けたままなのに、平気で声が届く。
「出る杭は打たれる。それが神器戦の醍醐味で、オンリーエース型勇者編成最大の課題ぞな。目を惹くってことは、狙われるってのとイコールよん」
——しかし、と。
スサノオ神は、苦難に挑む人間を見る、神の視点で笑う。
「それを彼女はよ、がははは、おっかない方法で解決しやがった」
『そうなのですーっ!』
実況妖精も、活き活きと状況の理由を説明する。
『戦場に咲く孤高の華、一ノ瀬古都子! 選択せし第三スキルは[我鍛うもの七難八苦]! これにより、彼女は二つの不利要素と比例して強化されます! 現在自分をターゲッティングしている敵の数と、フィールドに残存する敵との人数差です!』
「——ああ、そういうこと」
合点が入った、と彼は顎を撫でさする。
「頭数を揃えて集中砲火、なんてむしろ駄目なんだ。一対一だった状況でも桁外れだったのに、多人数で狙ったら更に強くなっちゃうとか、それこそ取り返しがつかない被害が出るし——狙われるのが、相手のパーティであってくれるとは限らない」
「大・正・解☆」
察しの良さを嬉しそうに、スサノオ神が大きく頷く。
「独り狙われるのが神器戦の仕様なら、手を出させない圧力も然り。自分たちが反撃で割を食えば、一ノ瀬をどうにかできても、その後もう片方のパーティに平らげられる。しかも、それだけの支払いをやったところで——一ノ瀬には残機があり申す。こうなりゃもう出る杭では収まらん、触らぬ神に祟りなし、だわさ」
神が言うと、台詞の重みが違う発言だ。
四人で一人の【英雄】パーティ、壱個はある種の“ギミック”に例えられる。
手順を間違えば詰み。
対応を間違えば詰み。
闇雲に立ち回れば、クリア不可能になる災害、詰め将棋だと。
「そんな食わせ物コンボ編成も、一ノ瀬の腕前があってこそ成立する。破壊不能ギミックになれるくらいの強さがあらへんと、単騎でゲームを左右する戦略存在にはなりんせん」
『壱個あるところ、対戦パーティは勝利に別個の条件を設けられているに等しいのです! 勇者を避けながら、どうにか、彼女と勝負になる条件を満たすという!』
「だから、か」
今こそ、彼も今回の奇妙な構図に理解が及ぶ。
【多くの相手から狙われるほど強くなる】【フィールドに敵プレイヤーが多いほど強くなる】……そんな相手を倒すには。
「勇者さんをいなしつつ、自分たちで戦って。強化の要因になっている、戦場全体の人数を減らしあってから……最後、仲間一人に希望を託して、一騎打ち」
そのままでは勝ち目のない勇者から、強さの所以たる逆境要素を剥がし取る。
今行われているのはそこに進むための迂回、正当で真っ当の遠回り。
『壱個戦名物、【勇者への挑戦権】! それは今回、ブルーバイトに渡る可能性が高いか!』
ニッシュの見立ては正確だ。
何しろバーストレンジは、開始直後にアリーシャが一ノ瀬に捕捉されたばかりか、救助に入った新城を含め、要となる熟練者二人が激しく消耗させられた。
一方、その間に悠々と合流・作戦を練られたブルーバイトに、現在、圧倒的アドバンテージを握られている。
『攻める攻める攻めまくる、ダブル鯱人双剣士! 防御耐久を盾に致命傷だけは避けてきた新城選手ですが、もはや押し切られるのは時間の問題なのは、誰の目にも明らかで——』
「——いやあ、どうだろうね」
小声での、反論。
その観客だけは、この場に於いて、別のものを見ている。
画面に映らぬ、瞼の裏に焼きついた、ある少女の顔と努力を。
「君が、このまんま——こんな楽しそうな場面に、見ているだけで混ざらない、なんて。あり得ないよな、ミナちゃん」
本日は、仕事ではなく。
推しの少女の晴れ舞台を応援にしにきた知り合いのおじさん、鵜原・ベルフォード・鴇也は、確信的に呟いた。




