45:勇者はもちろん蘇る
〈視点/ビル街:コンビニ内/新城千尋〉
「離れよう、アリーシャ! 一ノ瀬はすぐ戻る!」
双銃剣を腰の剣倉に叩きつけ、刀身を補充しながら新城が叫ぶ。
通常、大きな損傷を負った分霊はすぐに消失するが——そこには、例外が存在する。
王様の第四の力——[運命未完]。
やられたプレイヤーを復活させるかわりに、王は玉座から退出し、控室へ戻されるスキル。
対象に選ばれた者は、フィールドに身体が残り続け——分霊が消滅しないうちは、“自分が落ちればパーティ敗北となる”勇者スキルのデメリットは誘発しない。
「もー! あいっかわらず、システムの穴を突いた最悪のコンボだよね!」
悪態を吐き、片方ずつしか動かない翼と足でバランスを取りつつアリーシャも移動する。
『今回は思わぬやられ方したね、コトコ! でもまあ、同じ負けは二度しないのがキミのスーパーカッケーポイントだ! 控室で応援してるから、二ぃも四ぃもちゃんとやれよー! ……とと、忘れてた! 最後に奥の手置き土産!』
三稜龍緒の声が消え、一ノ瀬古都子の死体が、復活のものとは別の光に一度包まれる。
渡されたのは王様の第三スキル[使命通達]。
対象プレイヤーが一度だけ、あらかじめ設定したスキルを使用できる状態になる。
さながら——本人が未だ気づいていなかった素質を教え、運命を目覚めさせるように。
「さすがに、付与忘れはしてくんないか」
新城が焦りを見せる。
現段階の一ノ瀬古都子は、人間の姿をした怪獣に等しい。
唯一安心できる点は、彼女の選択スキルは全て常時発動のパラメータ強化系であることだが……王様の補助で、それは三度、覆る。
通常なら、王様によるその場復活には、復活と同時に集中砲火をかけて再度倒すという定番の対応がある。それが成立してしまうせいで、法外な効果でありながらも王様は低評価を受けてきた。
しかし、相手は一ノ瀬古都子。
しかも、正体不明のスキル持ち状態。
撃破後は急いで距離を開けねば危ない……だが、今回はそれが間に合いそうにない。
開幕直後の一ノ瀬に狙われながら、援軍到着まで凌ぎ切り、アーマーを削りつくす快挙を成し遂げたアリーシャは、相応に消耗している。
ダメージは深刻で、穿たれた羽根や断たれた足からは光の粒子が散っている。移動もろくにままならず、いつ限界が来るものか。
「——ここまで、かな。ねえおにいちゃん、」
「行って、アリーシャ。殿は俺が務める」
議論をする暇もない。
アリーシャは眼差しで問う、リーダーの判断の妥当性を。
「俺が暴れて勝てるだけなら、手負いの駒をスキル吐かせ用の的にさせてたかもね。そうじゃないでしょ、今回は。初心者二人に指示を頼むよ、サボってた俺と君じゃ、経験も対戦勘もまるで違うからね。適任はそっちだ、どうぞよろしくお願いします」
「——きゅふ もー、兎使いが荒いんだから! そういうとこ、ほんと好き! ……だーーーーット!」
少年は背を押して、少女は背を向ける。
アリーシャは路地を曲がり、新庄は四車線の大通りの中央で、二刀を抜いて待ち構える。
——否。待ち構える、と見せかけた。
動作は瞬時に移行する。指をかけたグリップを起点に回し、片方の銃剣を順手に握り直し、もう片方の腕を土台に……銃として構える。
叫ぶは呪文、励起の文言。
「[抜剣:翠]!」
片側の刀身に走る緑の線、トリガーは引かれ、剣が射出される。
荒ぶる風が、逆巻いた。
ビルのガラスが次々と割れ、砕かれた破片が風に巻きこまれ、弾丸の一部となる。飛び往く剣の下にあるアスファルトが風に捩じられ、見えざる巨大な螺子を突き入れられているかのように抉れていく。
翠——大気の加護を纏う弾頭励起。
それは撃ち貫くためではない。
その向こうより来るものを、遮るための抵抗だった。
射撃が迎え撃つのは、射撃。コンビニの中から、遠く待ち構える獲物に向けて、勇者の膂力で放たれた雷の矢は……そこに、三稜龍緒の使い切りスキルを上乗せされていた。
[疾風の強弓]。矢を構える時間が長いほど、威力を上昇させる射手のスキル。
何のスキルが付与されたか、一ノ瀬古都子が何を狙っているのかを新城千尋が看破できたのは、相手の苛烈さ、容赦のなさを知っているためと——彼自身が培ってきた、パーティ戦における指示や連携とは別の勘。
どんな手を使おうと相手を仕留める、千人殺しの嗅覚によるものだ。
新城は、一ノ瀬が弓を持っているのを見ていたし。
復活後即追撃してくるのならば既に来ていなければおかしく、ただ矢を撃つのならば、もう三秒は早いはずだった。
「どん、ぴしゃり」
射撃ではなく、斬撃の構えを見せることで釣りだした一矢は、彼の狙い通りに相殺された。
風が矢の軌道を捻じ曲げる。必殺の鏃は新城の直前で大きく逸れ、ビルの壁面を刳り貫きながら彼方へ消えた。
辛くも命を拾った、その感触に安堵など彼はしない。している暇などない。
剣倉より刀身を再装填。三本を射撃で消費し、ストックは装填済みを含め残り五本。
ゲーム開始からパーティ全員と合流もできず、もう一つの敵パーティを視認すらする前に弾刃も励起もほぼ半欠け——そうした現実を背負いながら。
自分が向き合わねばならない、目の前から来る脅威を見据えている。
「——はははっ!」
思考は、共に同じ。
射撃の直後、間髪入れずに駆け出し、相手を逃さぬよう捕捉して。
「そう急がないでさ! 寄り道していきなよ、勇者様!」
「お気持ちだけ。私にとって戦いは、勝利への一本道ですから」
刃風太刀風、轟々と。
抉れと無傷の四車線が交わる境、王道の剣と、横道の剣が乱舞する。




