44:オーダーメイド・ブレードガンナー
〈視点/ISEKAI大樹店/観客たち〉
「[戦士/銃剣]——ブレードガンナー」
コンビニの攻防を見届けたスサノオ神が、愉快も露わに呟く。
新城千尋の得物が何で、どの役割を選んだかは事前特番で明かされていたが、その鮮やかな立ち回りに舌を巻いた。
「いや。やっぱアレ、既存のどマイナー武器ともかけ離れた、一点モノの二本じゃんね」
銃剣は、銃身の下に巨大な刀身が付いた、撃つ・斬るを同時にこなすハイブリッド武器だ。……本来なら。
名工ゲンヌダーロ・平賀の手によるそれは、もはやまったく別物だ。
簡単に言うなら、刃部分を発射できる仕掛けナイフ。
刃渡りは脇差ほどで、逆手に握られる持ち手部分がやや太く、そこに独自の機構がある。握り込んだ際、人差し指の触れるロックリリース部分に撃鉄があり、呪文の詠唱を行いつつ押し込めばロックが外れ、その後、柄尻にあるトリガーを親指で押し込むことで刀身が発射される。
刀身発砲後、手元に残ったハンドル部分にある穴を腰の剣倉に嵌め込むことで新たな刃を装填、再び戦闘が可能になる……と、試合前のインタビューで解説されていた。
彼は、それを両手に装備する。
「むかーしおったなぁ。あれにそっくりな武器を使う、異世界の勇者が」
『な、なんと……私たちは今、何を見たのでしょうか!?』
手練れの実況妖精が困惑するほど、それは誰にも馴染みがないものだった。
本来の銃剣とは、複雑な仕組みを持つ関係上、近接武器同士の打ち合いになれば発射機構が狂うなど通常の剣に劣り、中・遠距離では専門の魔道士や[戦士/銃士]に劣る、いいとこ取りとは名ばかりの半端な武器種。ストイックに勝利を追求する一線のプレイヤーからは一笑に付される浪漫職の域を出なかった。
——それが今、あの、一ノ瀬古都子を倒した。
会場からはまだ、唖然が抜けない。
『新城選手が用いたスキルは、事前に明かした通り、本来一本しか持ち込めない武器を二つ持ち込む[二刀流]——そして[弾頭励起]、なのですが……!』
銃剣スキル[弾頭励起]は、刀身に属性を纏わせる。属性は四つ、一対戦で一回ずつ。
先程が行った赫は火、灼熱で対象を焼き切るもので、同時に刀身を発射すれば、通常時より飛躍的に威力を向上された一発を放つことができる。
「銃剣一本じゃあ、一ノ瀬のバケモン防御を貫通するのに手間取る。そんな間がありゃ、反撃で百度は死ねる。その対策まで見越した高火力の二刀持ち……いいや」
ニィ、とスサノオ神が笑う。
「単に趣味だな、ありゃあ。銃剣二刀流なんてキワモノ——絶対に勝つだけのプレイヤーだった時分にゃ、どんなに使いたくても出番なしだったろうよ、サウザンドキル」
——その、神にとっては何気ない呟き……爆弾投下に開場がざわつき、実況妖精もそのちいさな目ん玉をひん剥いた。
『さう……サウザンドキル!? すす、スサノオ神、それは、二年前突如シーンから姿を消した伝説の用心棒プレイヤーですよね!? もしや……新城選手こそが、その正体だと!?』
「……やっべ。俺言っちゃった? んーじゃ、ここにいる連中だけのナイショだしょ!」
無理である。
手遅れである。
可愛さアピールのテヘペロしようと、駄目なものは駄目である。
この勝負――スサノオ神のチャンネルで生配信中なので。
現在、同時接続、100万人(地球外世界込み)。
「「「「あ……あいつが、サウザンドキルぅぅぅぅぅぅっ!?」」」」
会場が驚愕に揺れ、放送のチャット欄ではコメントが乱れ舞う。ただでさえ注目度の高かったこの試合は【幻のプレイヤー・サウザンドキル復帰戦】として更に加熱する。
そこかしこでスマホをいじり情報を送る者があり、会場の何割かがバーストレンジを追う窓が良く見える位置に大慌てで移動する。
「あっはっはっはっはっは! わーるぃ新城、バーラしちった! まあ別に、今はそこまで隠してなかったしいいか! いいよな! うん、後で加護やるからそれで勘弁してもらおう!」
……高天原、八百万の神の型破り代表格、気軽に加護与えがち問題はさておいて。
状況は未だ、何一つ落ち着いてなどいない。
一ノ瀬古都子——常勝のヒーローが首を吹っ飛ばされたというのに、【英雄】を贔屓とする観客の顔には、絶望など浮かんでいない。
その理由は明確で。
地面に倒れた一ノ瀬古都子の身体の上に、それがゆらりと現れた。
いわゆるメッセージウィンドウには、こんなふうに表示されていた。
『おお ゆうしゃよ しんでしまうとは もったいない』
それを読み上げる、大袈裟に悲しそうな声は、一ノ瀬の王様——三稜龍緒のものだった。




