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43/68

43:兎、兎、なにゆえ跳ねる



 〈視点/ビル街:コンビニ内/アリーシャ・レネレーゼ〉



 跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。

 コンビニを、縦横無尽に兎が跳ねる。


 残った足で、翼で、己が持つスキルを総動員して。

 常に位置を変えて狙いを逸らすのに加え、爆破を用い自分だけでなく棚も飛ばす。散らばる物品を目くらましに、健在の足で波状攻撃を仕掛ける。


 その全てが切り払われた。

 王様が転送する追加武器により遠・中・近に対応する一ノ瀬だが、左手に小盾バックラーで右手にソードの初期装備スタイルが最も()()

 砲弾めいて迫る棚を小盾で殴り弾き、その裏に潜んでいた兎の爪先を、旋回して避けながらカウンターの突きを放つ。


 その瞬間、アリーシャは自身の正面に一際大きな爆発を生じさせた。

 羽ばたきを合わせて、一瞬で大きく距離を取るため? 

 違う。主眼は、盾も剣も使わせた後、至近での攻撃だ。


 一ノ瀬が顔面に爆発を食らう。

 煙は先程から、見えぬ壁で覆われたコンビニ内に換気されず充満しており、視覚を封ずる。加えて今の至近爆発で双方死角が生まれたが、けれど即座に無意味になる。


「っ!」


 煙を突き抜けてきた無傷の一ノ瀬が、アリーシャの首を掴み、持ち上げた。


「凄いです、アリーシャさん。随分と対策を詰めましたね。たった一人で、私の耐久値を削り切るなんて」


 幻想闘祭では各種防具にアーマー数値が設定されており、それを減らしきってようやく本体へのダメージが通りはじめる。

 これは戦士装備は硬く、魔道士は柔く設定されている……アリーシャが、出会い頭の一撃でアーマーを貫通され、利き足を落とされたように。

 

「惜しかったですね。ここから先は、ようやく有効打が入ったのに」


 本心の言葉であろうが、敵からすれば白々しいことこの上ない。

 何しろ、アーマーを削るより、勇者スキルで全パラメータが底上げされている一ノ瀬本体の頑強さのほうが、遥かに上なのだから。


「では、後はどうぞ、お仲間に任せゆっくりとお休みを。また闘いましょう。もっとあなたが、のびのび跳べるパーティで」


 ——まだ何も、終わっちゃあいないんだよね——

 喉を押さえられたアリーシャが、表情でそう告げた。

 瞬間、兎人の足が、勇者の胴に絡みつく。逃げられない状態で、己からも拘束し返す。


 ここで、勇者は察したか。

 それまで決して間合いに入らぬよう立ち回りながら、突然に決めを仕掛けてきた理由、その意図を。

 天敵より逃走する草食獣ならぬ、獲物を追う肉食獣の笑みの所以を。


「——六十秒……成程」


 一ノ瀬が眼にしたのは、アリーシャの後ろ。

 大金槌が空けた壁の穴の向こうに、室内に残留していた煙が拡散していく光景だった。

 王様のフィールド付与効果、[堂々の決闘場]が——解けている。


「あなたの逃走は、前に向かってのものでしたか」


 バフ配分を攻撃に片寄らせた状態だろうとも、魔道士の拘束を剥がす時間など、勇者の力を持ってすれば数秒に満たない。


 だが、相手は一瞬で十分だった。

 外に出さず内へ通さず、一対一の封鎖領土内を煙で満たしたのはこのため。中からは外を確認させず、外には、区域領土化の終了タイミングを視覚的に……狼煙として伝えるため。


 突っ込んでくる。

 最早隠密の必要はなく、全力で地を蹴る足音は高く響き、コンビニ正面入口から入り、アリーシャの背中越しに襲いかかった二本のきばが、一ノ瀬の首に噛みついた。


 ……しかし、食い千切れない。

 それほどまでに、ただ堅硬かたい。

 逆境不屈の勇者、孤高なる孤立の独りは抜けず、目線が自分に襲い掛かった危害を確かめるように下がり、

 その武器を見た。


「——なにそれ」


 上がったのは、一ノ瀬古都子としての意外の声。

 その感情を受けながら、彼は、()()()()()()()()()。 


「[抜剣:あか]!」


 命じ、トリガーを引いた瞬間、真紅に染まった二つの刀身が発射された。

 加速する“切り裂く力”は硬き防御に食い込み、そしてついには断ち切った。

 一直線に飛び行く刃先は火炎の尾を引きながら反対側の壁を破って飛び去り、勇者の首が、意外そうな顔のままで床へ落ちて消えた。


 残る身体がぐらりと倒れる寸前、掴まれていたアリーシャが離脱し、助け船を見る。

 自分を助けに来た、新城千尋を見る。

 二人は、ほんの短い間見つめあい、そして同時に、小さく笑った。


「悪い。待った?」

「きゅふ。そうだね、たったの二年くらい!」



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